近視
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家族調査や双子研究により近視の遺伝率が求められている。ただ関連する遺伝子は一部しか特定されていない。ほかに近視発生率の民族間の違いが近視の発生に遺伝が関与していることの証拠として挙げられてきた[5]。遺伝説では、何歳のときに近視になり始め何歳までにどこまで進行するかがある程度まで生まれつき決まっていると考える。例えば発達上の問題から眼球の奥行きが若干延長され、映像が網膜上でなく網膜の前方に結するようになるなど。近視は通常8歳から12歳までの間に発現し、殆どの場合青年期を通じて徐々に進行し、成人になると頭打ちになる。遺伝要因は、他の生化学的要因からも近視の原因となりうる。例えば結合組織の弱さなど。双生児の研究ではPAX6遺伝子の欠陥が近視と関連しているようである ⇒[1]
環境要因

ヒヨコを高さの違う部屋で育てる実験等で環境によって視力に差が生じることが確かめられている[要出典]。勉強や読書、パソコンなど近くの物を見続けることに対して目が適応する(近業適応)という考え方。近視の人間はあまり毛様体筋を使わなくても近くにピントを合わせやすいので目の疲労が小さい。

どの程度適応が起きるかは遺伝によって差があり、水晶体の厚さが変化する屈折性近視と眼軸の距離が延びる軸性近視のうち前者がより環境要因が大きい[6]

統計的に長時間勉強や読書をする人に近視が多い傾向や、途上国の農村など勉強をする機会が少ない人に近視が少ないことが環境説を補強しているとも考えられるが、相関関係と因果関係を取り違えているとも考えられる。

屋外光を浴びることで近視の発生率が有意に減少することが 2019年のシステマティック・レビューで示され、学校で1日2時間、屋外光を浴びることが推奨された[7]。2020年のシステマティック・レビューでは、画面を見る時間(英語版)と近視との関連は明らかではなかった[8]。ウェアラブルデバイスを用いた 2020年の研究で、近視の小児は近視ではない小児と比較して 3000ルクスないし 5000ルクス以上の光を浴びる時間が短い、20cm未満の距離で作業する時間が長い、といったことが確かめられた[9]
バイオレット光の欠如によるとする説

屋外で活動する時間の長い子供に近視が少ないことから屋外環境の何かが近視を抑制するものと考えられるが、その何かとは紫外線に近い可視光線であるバイオレット光であるとする説。太陽光線には豊富なバイオレット光が含まれる一方で、LEDや蛍光灯の照明にはバイオレット光がほとんど含まれておらず、窓ガラスや眼鏡レンズもほとんどバイオレット光を通さないことから屋内環境にはバイオレット光が欠如している。慶應義塾大学医学部では、こうしたバイオレット光の欠如が近視の増加を招いている可能性を指摘している[10]
栄養説

2002年の ⇒報道(英語)では幼年期のパンの摂り過ぎ、或いは炭水化物の摂り過ぎによる慢性の高インスリン血症が近視の原因かもしれないと指摘している。この ⇒資料(英語)に纏められているように他の栄養素も近視の原因とされている。
照明説

赤ちゃんの頃に、夜も明かりをつけた部屋で寝かせて育てると、近視になりやすいというペンシルベニア大学の研究成果が、1999年5月13日発行の『Nature』に掲載された。

ただし、この説には反論(Nature 404, 144 (9 March 2000) )が出ている。親が近視の場合、子供の様子を見るなどの理由で夜間に弱い照明を行う傾向があり、また親子における近視の遺伝的相関も高いため、夜間の照明と子供の近視とに相関が出てしまう。相関関係と因果関係を取り違えているという反論である。
睡眠不足説

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出典検索?: "近視" ? ニュース ・ 書籍 ・ スカラー ・ CiNii ・ J-STAGE ・ NDL ・ dlib.jp ・ ジャパンサーチ ・ TWL(2008年1月)

成長期に睡眠が不足すると近視になるとする説。
体格向上説

身長が伸びる際、骨格系があらゆる方向に伸び、眼軸長(角膜網膜までの距離)も伸びて近視に繋がる場合があるという仮説がある[11]
予防

近視の発生や進行を予防するために、いくつかの方法が試みられてきた。なお、家電メーカーがテレビを観るのに画面の高さの何倍の距離が必要だなどと呼びかけるのは、それくらい離れて観ないと画面の粗が見えてしまって綺麗に見えないという意味であり、近視予防の観点から呼びかけているわけではない。テレビの高画質化に伴い、メーカーが推奨する距離は以前より短くなっている[12]
アトロピン点眼

アトロピンを点眼して目の調節筋を麻痺させることで近視を予防する方法。若年者であっても老眼と同じようにピント調節の能力が失われるので老眼鏡が必要になる他、瞳孔も開いてしまうため眩しさを感じる。長期連用する実験では、初年には顕著な進行抑制作用が認められたが、2年目以降には認められなかった。長期的安全性に不安があるため長期連用には慎重な専門家が多いが、実験では短期使用では目立った進行抑制効果が認められなかった[13]
オルソケラトロジー

オルソケラトロジーに近視の矯正の他、近視の進行予防効果をも期待する方法。いくつもの実験で有効性が裏付けられた[14]
遠近両用コンタクトレンズ

老眼のない若年者にも遠近両用コンタクトレンズを装用させることで近視を予防する効果を期待する方法。
遠近両用眼鏡

老眼のない若年者にも遠近両用眼鏡を装用させることで近視の予防効果を期待する方法。効果を検証する実験が複数行われたが、結果は有効だったり無効だったりと分かれている[15]
完全矯正眼鏡

眼鏡を作成する際に一番よく見える度数にすることを完全矯正といい、あえて弱めの度数にすることを低矯正という。従来、低矯正の眼鏡を装用することで近業時の目の負担を減らし、近視の進行を予防できるとする考えがあった。しかしながら、効果を検証する実験では、効果が認められなかったばかりか、むしろ低矯正にしていると完全矯正にしているより近視の進行が速いという結果であった[16][17][18][19]。また、この方法ではよく見える度数にしていないのだから「眼鏡をかけてもあまりよく見えない」という不利益があることが自明である[20][21]。こちらの論文[22]では、

近視低矯正に進行予防効果があることを裏付ける証拠は、古い時代の少数の被験者による実験や動物実験と薄弱である

近年の、人間を対象とした、より多数の被験者を用いた複数の実験は、低矯正は完全矯正よりむしろ近視を余計に進行させてしまうことを示している

低矯正には、よく見えないという明白な不利益がある

ことから、近視は完全矯正すべきだと結論付けている。

日本眼科医会の2010年度調査報告では、複数の実験結果のメタ解析から、低矯正眼鏡あるいは軽度近視を矯正しないことに近視進行の抑制効果は期待できないとした上で、しかしながら従来は低矯正のほうが進行を抑制するという考えがあったことから、近視低矯正で処方するか完全矯正で処方するかについて臨床現場では判断が分かれていると報告している[23]
眼鏡をかけない

近視になっても眼鏡をかけないようにすることで近視の進行を防ぐことができる、あるいは眼鏡をかけることこそが近視の原因であるとの主張が民間療法家によってよくなされる。近視になる以前には眼鏡をかけていなかったのに眼鏡をかけたせいで近視になったとは矛盾しているし、世界には眼鏡を持っていない近視の人も大勢いるので、この主張は誤りだと考えられる。先天性白内障の乳児が急速に眼軸を伸展させることなどから、清明な視界が得られないと人間を含む動物の眼は近視化すると考えられている。これを防ぐためには近視になったら矯正することが必要である。

もっとも、このことは実験によって検証されているわけではない。もし眼鏡を全くかけないことが近視の進行を遅らせるか否かを実験によって検証するのならば、被験児の一部を、ぼやけた視界の、学業に明らかに不利な状況に長期にわたって置かなければならないが、そんな実験は倫理的に許されないからである。眼鏡を全くかけない場合ほど極端には被験児の視界をぼやけさせない、低矯正眼鏡に近視進行の抑制作用があるか否かを検証する実験さえ、低矯正群のほうがかえって進行が速いと分かった時点で期間を短縮して終了された例があるほどである[24]
矯正
眼鏡・コンタクトレンズ

最も一般的な屈折矯正法。凹レンズの眼鏡コンタクトレンズで行われる。高すぎる屈折力を凹レンズで緩和することにより、網膜上にピントが合うようになる。また、見えにくい自覚症状が有る場合で偽近視で無い場合、医師の処方にもとづいて、メガネ・コンタクトレンズを購入するのが大原則である。見えにくいままでいると、頭痛や肩こり、また生活するうえでのストレスとなり、体に大変好ましくない。
視力回復手術

角膜を手術などにより薄くして屈折力を弱め、矯正する。以下の手術法がある。
RK手術
角膜を切開、将来の眼球破裂の危険があるため現在はあまり行なわれない。RKはラジアル・ケラトトミーの略。
PRK手術
レーザーにより角膜を薄くする。PRKはフォトレフラクティブ・ケラトトミーの略。
レーシック手術
PRKの改良型。
ICR手術
角膜の周辺部にリングを埋め込んで変形させる。成功すれば眼鏡・コンタクトレンズの煩わしさが無くなるが、

費用が高価。

手術に危険性が伴う。

後遺症が残る可能性がある。

手術が成功しても思ったより視力が回復しない。

気圧が下がると(飛行機内や高山で)近視が戻り、気圧が上がると(ダイビング等)遠視化する。


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