農薬
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DDTの発見に刺激され、1940年代には世界各国で殺虫剤の研究が始まり、1941年頃にフランスでベンゼンヘキサクロリドが、1944年頃にドイツパラチオンが、アメリカでディルドリンがそれぞれ発明された。いずれも高い殺虫効果があり、またたく間に先進国を中心に世界へ広がっていった。一部の殺虫薬は第二次世界大戦に使われた毒ガスの研究から派生したものといわれている[5]
環境運動と農薬批判

1962年レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を発表して環境運動が世界的な関心を集めてからは、農薬の過剰な使用に批判が起こるようになった。日本でも水俣病などの公害が社会問題となるなか、1974年には有吉佐和子の小説『複合汚染』が発表され、農薬と化学肥料の危険性が訴えられた。

消費者の自然嗜好や環境配慮や有機野菜消費の増加といったことを受けて、生産者側である農家からも費用のほか、化学農薬の副作用や健康被害への心配から、天敵、細菌ウイルス線虫糸状菌カビの仲間)等の生物農薬の使用も進められている。
日本の農薬の歴史

日本では、16世紀末の古文書にアサガオの種やトリカブトの根など、5種類の物質を用いた農薬の生成法が紹介されており、1670年には鯨油水田に流す方法(注油法)による害虫(ウンカ)駆除法が発見されている[4][6]

1930年代には日本の農村でも農薬が普及し始め、昭和初期には本格的に普及した。

1948年農薬取締法公布。

1950年、森林病害虫等防除法と植物防疫法公布。

1951年、厚生省がリンゴにおけるDDTの残留農薬基準を7ppmとする指導通知を行う(法的な拘束力なし)[7]

1958年、国内最初の空中散布が神奈川県で実施された。

1971年、農薬取締法改正。毒性の強い有機合成農薬の多くが登録失効となり、より安全な有機合成殺虫剤へと更新される[1]

2000年日本農林規格等に関する法律(JAS法)による「有機農産物認証制度」発足。

2021年、登録された農薬の有効成分全種の安全性を政府が定期的に確認する「農薬再評価制度」が10月より開始[8]

農薬の分類
機能による分類

農薬は機能により次のように分類される[9]

殺虫剤

殺菌剤

殺虫殺菌剤

除草剤

殺鼠剤

植物成長調整剤

誘引剤

フェロモン[1]

展着剤

天敵

微生物剤

害虫の天敵や微生物(微生物剤)を利用する防除法を生物的防除といい、使用される生物を生物農薬という[1]。生物農薬は業者によって処方され、製品として登録されたもので、天敵製剤と呼ばれる[1]。生物農薬は化学農薬(化学的防除)に比べて毒性や薬剤耐性の面でメリットがあり普及しているが、害虫を全滅できないことや効果発揮が遅いなどのデメリットもある。詳細は「生物農薬」を参照
製剤方法による分類
乳剤
水に溶けにくい有効成分を有機溶媒に溶かし、さらに水に馴染みやすくするために界面活性剤を加えたもの。使用時に水で希釈するとエマルションになる。
水和
水に溶けにくい有効成分を、鉱物などに混ぜて微粉状にし、水に馴染みやすくしたもの。水で希釈して使う。風で飛び散らないよう、粒状に成形したものは顆粒水和剤、またはドライフロアブルと呼ばれる(そのうち、水田用除草剤は顆粒とも呼ばれる)。
水溶剤
水溶性の有効成分を水に溶かし、希釈して使う。
液剤
有効成分の水溶液。そのまま使うものと水で希釈して使うものがある。
粒剤
有効成分を鉱物粉などに混ぜて粒状にしたもの。水に溶かさず、そのまま散布する。粒径によって微粒剤、細粒剤などがある。
粉剤
有効成分を鉱物粉などに混ぜて粉状にしたもの。水に溶かさず、そのまま散布する。粒径とその割合によって微粉剤、DL粉剤、フローダスト剤などがある。
マイクロカプセル
有効成分を高分子膜で被覆して数μm - 数百μmくらいのマイクロカプセル状にしたもの。
燻蒸
常温または水を入れて有効成分を気化させて利用するもの。
燻煙
着火または加熱により有効成分を気化させて利用するもの。
エアゾール
ケロシンアセトンに有効成分を溶かし、液化ガスの圧力でスプレーできる容器(スプレー缶)に入れたもの。
フロアブル剤
ゾル剤とも呼ばれる。溶剤に溶けにくい固体有効成分を、水和剤よりも細かい微粒子にして水に混ぜ、液剤化したもの(登録上の分類は水和剤)。
EW
水に溶けにくい有効成分を、高分子膜や界面活性剤などで被覆することで水に混ぜ、液剤化したもの。有機溶媒を使わないため、危険物にあたらない利点もある(登録上の分類は乳剤)。
マイクロエマルション
水に溶けにくい有効成分を最低限の有機溶剤に溶かし、界面活性剤で水に混ぜ液剤化したもの(登録上の分類は液剤)。
ペースト
有効成分に鉱物粉などに混ぜて糊状にしたもの。塗布して使う。
錠剤
水溶剤や水和剤を、錠状に成形したもの。現場で計量する手間が軽減できる。水で希釈して使う。
塗布剤
もっぱら塗布して使うもので、他のどの剤型にも当てはまらないもの。
粉末
粉状で、他のどの剤型にも当てはまらないもの。
微量散布用剤
空中散布における微量散布(ULV)専用に、有効成分を有機溶媒に高濃度に溶かしたもの。
油剤
水に溶けにくい有効成分を有機溶媒に溶かした油状の液体。
パック剤
水稲用の殺虫剤、殺菌剤の粒剤を水溶性フィルムで包装したもので、水田に畦から投げ込んで使う。散布機不要で、飛散が無い。
ジャンボ
から投げ込んで使う、錠剤または水溶性フィルム包装の粒剤の水田用除草剤(登録上の分類は剤または粒剤)。
WSB剤
水和剤や水溶剤を水溶性フィルムで包装したもので、袋ごと水に溶かして使う。調製時の粉立ちが無く、使用者に安全である。
複合肥料
有効成分を肥料に混ぜたもの。

他のどの剤型にも当てはまらないもの。
農薬の影響と危険性
農作物や農業従事者への影響

農薬は害虫や病原、雑草等の化学的防除を可能とする反面、殺虫剤や除草剤の散布による悪影響やコストを正しく認識することは、営農の効率性を高め、総合的病害虫管理を進める上で特に重要である。パラコートに代表されるように、農薬はヒトに対して毒性を持つため、農業従事者に対する健康被害、農作物への残留農薬がしばしば問題となってきた。

現在日本で流通している農薬の90%以上は普通物というカテゴリに分類され、毒物劇物に分類される農薬は年々その割合を低下している。また、2004年中における農薬中毒事故189件(死亡94件、中毒95件)のうち、156件は自他殺を目的としたものであり、誤飲誤食や農薬散布に伴うものは33件(うち死亡2件)である。
生態系への影響
農薬の3R
殺虫剤を散布すると、逆に害虫が増えてしまうことがある。その理由となる Resistance(レジスタンス:害虫の殺虫剤(または雑草の除草剤)に対する
薬剤抵抗性獲得)、Reduction of natural enemies(リダクション・オブ・ナチュラル・エネミース:天敵の減少)、Resurgence(リサージェンス:産卵数の増加)の頭文字を取った「3R」という言葉がある。


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