農薬
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古代ギリシャ古代ローマでは、播種前の種子に植物を煮出した液やワインを漬けておく方法や、生育中のバイケイソウなどの植物の浸出液を散布する方法がとられていた[4]
近代農薬の登場

1800年代に入ると、コーカサス地方で除虫菊の粉末が殺虫剤として使用されたほか、デリス(en)根の殺虫効果が知られるようになった[4]

1824年には、モモうどんこ病に対して、硫黄と石灰の混合物が有効であることが発見された[4]。その後、1851年フランスのグリソンが石灰硫黄合剤を考案した。

18世紀後半には、木材の防腐剤として用いられていた硫酸銅が、種子の殺菌にも用いられるようになったが、1873年ボルドー大学のミヤルデ教授が、ブドウべと病に硫酸銅と石灰の混合物が有効であることを発見[4]1882年以降、ボルドー液として農薬に利用されることとなった[4]

1924年に、ヘルマン・シュタウディンガーらによって、除虫菊の主成分がピレトリンという化学物質であることが解明された。1932年には日本の武居三吉らによって、デリス根の有効成分がロテノンという化学物質であることも判明した。
化学合成農薬の登場

20世紀前半までは農薬の中心は天然物や無機物であったが、第二次世界大戦後になると本格的に化学合成農薬が利用されるようになる[4]
DDTと殺虫剤

1938年ガイギー社のパウル・ヘルマン・ミュラーは、合成染料の防虫効果の研究からDDTに殺虫活性があることを発見、農業・防疫に応用された。DDTは、人間が大量に合成可能な有機化合物を、殺虫剤として実用化した最初の例であり、ミュラーはこの功績により1948年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

DDTの発見に刺激され、1940年代には世界各国で殺虫剤の研究が始まり、1941年頃にフランスでベンゼンヘキサクロリドが、1944年頃にドイツパラチオンが、アメリカでディルドリンがそれぞれ発明された。いずれも高い殺虫効果があり、またたく間に先進国を中心に世界へ広がっていった。一部の殺虫薬は第二次世界大戦に使われた毒ガスの研究から派生したものといわれている[5]
環境運動と農薬批判

1962年レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を発表して環境運動が世界的な関心を集めてからは、農薬の過剰な使用に批判が起こるようになった。日本でも水俣病などの公害が社会問題となるなか、1974年には有吉佐和子の小説『複合汚染』が発表され、農薬と化学肥料の危険性が訴えられた。

消費者の自然嗜好や環境配慮や有機野菜消費の増加といったことを受けて、生産者側である農家からも費用のほか、化学農薬の副作用や健康被害への心配から、天敵、細菌ウイルス線虫糸状菌カビの仲間)等の生物農薬の使用も進められている。
日本の農薬の歴史

日本では、16世紀末の古文書にアサガオの種やトリカブトの根など、5種類の物質を用いた農薬の生成法が紹介されており、1670年には鯨油水田に流す方法(注油法)による害虫(ウンカ)駆除法が発見されている[4][6]

1930年代には日本の農村でも農薬が普及し始め、昭和初期には本格的に普及した。

1948年農薬取締法公布。

1950年、森林病害虫等防除法と植物防疫法公布。

1951年、厚生省がリンゴにおけるDDTの残留農薬基準を7ppmとする指導通知を行う(法的な拘束力なし)[7]

1958年、国内最初の空中散布が神奈川県で実施された。

1971年、農薬取締法改正。毒性の強い有機合成農薬の多くが登録失効となり、より安全な有機合成殺虫剤へと更新される[1]

2000年日本農林規格等に関する法律(JAS法)による「有機農産物認証制度」発足。

2021年、登録された農薬の有効成分全種の安全性を政府が定期的に確認する「農薬再評価制度」が10月より開始[8]

農薬の分類
機能による分類

農薬は機能により次のように分類される[9]

殺虫剤

殺菌剤

殺虫殺菌剤

除草剤

殺鼠剤

植物成長調整剤

誘引剤

フェロモン[1]

展着剤

天敵

微生物剤

害虫の天敵や微生物(微生物剤)を利用する防除法を生物的防除といい、使用される生物を生物農薬という[1]。生物農薬は業者によって処方され、製品として登録されたもので、天敵製剤と呼ばれる[1]。生物農薬は化学農薬(化学的防除)に比べて毒性や薬剤耐性の面でメリットがあり普及しているが、害虫を全滅できないことや効果発揮が遅いなどのデメリットもある。詳細は「生物農薬」を参照
製剤方法による分類
乳剤
水に溶けにくい有効成分を有機溶媒に溶かし、さらに水に馴染みやすくするために界面活性剤を加えたもの。使用時に水で希釈するとエマルションになる。
水和
水に溶けにくい有効成分を、鉱物などに混ぜて微粉状にし、水に馴染みやすくしたもの。水で希釈して使う。風で飛び散らないよう、粒状に成形したものは顆粒水和剤、またはドライフロアブルと呼ばれる(そのうち、水田用除草剤は顆粒とも呼ばれる)。
水溶剤
水溶性の有効成分を水に溶かし、希釈して使う。
液剤
有効成分の水溶液。そのまま使うものと水で希釈して使うものがある。
粒剤
有効成分を鉱物粉などに混ぜて粒状にしたもの。水に溶かさず、そのまま散布する。粒径によって微粒剤、細粒剤などがある。
粉剤
有効成分を鉱物粉などに混ぜて粉状にしたもの。水に溶かさず、そのまま散布する。粒径とその割合によって微粉剤、DL粉剤、フローダスト剤などがある。
マイクロカプセル
有効成分を高分子膜で被覆して数μm - 数百μmくらいのマイクロカプセル状にしたもの。
燻蒸
常温または水を入れて有効成分を気化させて利用するもの。
燻煙
着火または加熱により有効成分を気化させて利用するもの。


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