農書
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18世紀になってイギリスの農業革命が本格化すると、A・ヤング1741 - 1820)を始めとして、多くの農学者たちが新しいノーフォーク式農法を理論化する農書を著すようになり、これが次世代のチューネンらによる近代農学の成立につながった。

イギリスの農書の特色は、農場を単位とする新農法の普及を目的としていること、地域の性格が技術に強く反映されるため言及する範囲が1州から数州であること、自らの営農経験をもつ人物によって書かれているが、大農場主または大農場の執事としての経験であり参考にするには同じ水準の農場経営者でならないことなどが挙げられる[1]
イスラーム世界

イスラーム世界の農書は、他の自然科学の著作と同様ヘレニズム文明の影響下で発達し、6世紀にはギリシア・ローマの農書のシリア語訳が進められ、10世紀初めには、最初のアラビア語農書である『ナバテア人の農業書(英語版)』が成立、後代に大きな影響を与えた。この書を基礎にエジプトや東方イスラーム世界での経験が加味され、これらをまとめた『農書』(12世紀半ば)は初めてスペイン語訳された初のイスラーム農書となり、同時期のヨーロッパ農書に影響を与えた。

この地域における農書の特徴は、他の地域と異なって農民の実用に供するための書ではなく、「地方で農業の監督や徴税の任を担当する官吏に農学の体系的知識を提供することを主な目的」としており、執筆者も医者・詩人など知識人が中心であった。内容としては西洋古典古代の農書に加え、各地の農業事情、新たな商品作物として普及したサトウキビ・棉・稲などの栽培法などを加味している。
主要農書の一覧

以下、各国の主要な農書の一覧とそれぞれについての簡略な解題を示す。カッコ内は編著者(撰者)・巻数・成立(刊行)年代の順。個々の著者・著作物に関する独立項目が存在する場合はそちらも参照すること。
中国農書
春秋戦国時代
神農(不明・全20篇?)
諸子百家農家の著作とされる。内容は亡逸。
呂氏春秋「士容論」・管子「地員篇」
農家の思想が集録されている。
両漢 - 唐時代
氾勝之書(氾勝之・全18篇・前漢成帝時代)
現存する中国最古の農書で区田法を主張した。完本は伝わらず諸書に残された逸文が集録されている。
四民月令(崔寔・全1巻?・後漢桓帝時代)
播種・耕作・収穫・養蚕など華北地方の荘園のさまざまな年中行事を、時令すなわち農事暦の形式で記したもの。完本は伝わらず逸文が集録。
斉民要術賈思?(かしきょう)・全10巻・北魏6世紀前半))
総合的内容をもつ農書では最古のもの。前代までの農書約180種を集大成し、近代農学導入以前には農書の模範とされた。華北の畑作技術の紹介を中心としている。
耒耜経(陸亀蒙・全1巻・
「耒耜」(らいし)はの意。江南の水田で使用されていた役畜農具を解説したもので数少ない唐代農書の一つ。
宋・元時代
農書(陳敷
(ちんふ)・全3巻・南宋(1154年刊))
陳敷農書(ちんふのうしょ)とも。江南地方の水田農法を初めて本格的に紹介した。
農桑輯要(勅撰・全7巻・(1286年頃))
世祖クビライの勅命により編纂された中国最初の官撰農書。
農書(王禎・全36巻・元(1313年刊))
王禎農書(中国語版)・王氏農書とも。初めて南北(華北・華中)の農法を比較紹介するとともに在来農具の総合的な図解を収録した。
農桑衣食撮要(魯明善・全2巻・元(1330年刊))
著者はウイグル人。農事暦の形式で叙述された実用的かつ平明な農書。
明・清時代
沈氏農書(不明・全1巻・
代後期)
浙江西部地方の農業技術・経営を記す。
補農書(張履祥・全2巻・明(1620年頃刊))
著者は浙江北部地方の郷紳で沈氏農書を上巻とし下巻を補ったもの。同地方の農業技術に加え経営についての記述が見られる。
農政全書徐光啓・全60巻・明(1639年刊))
古代以来の農学者の説を総括するとともに、当時輸入されたヨーロッパの農業技術を参酌して農政を集大成した。
授時通考(勅撰・全78巻・(1747年刊))
「授時」は皇帝が農事暦を公布すること。乾隆帝の命により、古今の文献から農事に関する記述を集めて編集したもの。便利であるが独創性には乏しいとされている。
農候雑占(梁章鉅・全4巻・清(1873年序))
天文・草木魚虫・養蚕などの占験を古文献より抄録したもの。
日本農書
戦国時代
親民鑑月集清良記・巻7 / 不明・1564年永禄7年)頃)
日本最初の農書。伊予の武将・土居清良の生涯を描いた軍記物語中の一巻で、清良の下問に対し重臣松浦宗案が農政について献策する形式をとっており、兵農分離以前の地方小領主の農業経営が語られている。江戸時代には刊行されず写本として広く流通した。
江戸時代前期・中期
百姓伝記(不明・全15巻・1682年天和2年))
江戸時代初期(慶長 - 延宝年間)における三河遠江地方での農業技術の体験的知識を平明にまとめたもの。農具に関する記述を含む。写本として流通した。
会津農書(佐瀬与次右衛門・全3巻(本文)・1684年貞享元年))
著者は会津藩の村役人で当地の農業技術を紹介したもの。付録として「歌農書」「幕内農業記」(後者は婿養子である林右衛門盛之の著作)を含み、歌農書(会津歌農書とも)は、本文の内容を与次右衛門自作の和歌に託して啓蒙的に述べた独創的農書となっている。写本として流通。


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