辞賦
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彼の最も著名な賦「述行賦」では、その旅程が詩につづられている[28]。「述行賦」では、歴代の不誠実で不正直な君臣の例を引き、同様の罪で都の宦官を批判している[29]

2世紀後半から3世紀初頭にかけて多くの賦作家が大詩人と見なされるが、その特徴は漢王朝滅亡後の混乱と荒廃を描写した点にある。192年董卓暗殺の後、漢の遺民となった王粲は、「登楼賦」と題する有名な賦を作った。これは王粲が荊州付近にあった楼閣に登り、旧都・洛陽の方角を物憂げに眺めるさまを動的に描いたものである[30]禰衡の「鸚鵡賦」のように、詩人はしばしば賦の主題を自らになぞらえて用いた。禰衡は「鸚鵡賦」で、才能がありながら重んじられず、囚われの身のために発言も思うがままにならぬ学士としての境遇を、籠の中のオウムに託けた[30]三国時代、英雄曹操とその息子曹丕曹植の邸宅は詩壇となり、この遊苑から生まれた多くの賦が今日まで残っている(建安文学)。
六朝

六朝の間にはが徐々に台頭したが、賦は六朝文学の中で未だ主要な地位を占めていた[30]。晋の左思の都の壮麗さを詠んだ「三都賦」が当時あまりにも人気を博し、人々が競ってこれを書き写したために、洛陽の紙価が上がったという逸話は有名である[31]代には古典文学史上最大の文芸集『文選』が編まれているが、賦はこの中で全37ジャンルの冒頭に置かれている[32]。『文選』は漢初から梁までの全ての賦を集めており、以来賦研究の上での伝統的資料となった。現存する漢賦やその他の詩の大部分は、種々の作品に引かれたものを含め、『文選』などに残されたものである。

抒情賦(辞)と詠物賦は漢王朝ではまったく異なる体裁を取っていたが、2世紀以降はほとんど区別がなくなった。 漢帝国の衰亡に伴って、宮廷文学としての華美な大賦の形式は消滅していく一方、詠物賦は引き続き広く作られた[30]西晋陸機以降は、四字句や六字句を多用する文体が定着し、美文化の傾向が著しくなる[33]。魏晋南北朝期の賦の形式を駢賦(俳賦)とも言う。

謝霊運は六朝期を通じて、陶淵明に次いで最も有名な詩人の一人である。やや上の世代の陶淵明とは対照的に、謝霊運は難語や暗喩、対句を多用する[34]。 謝霊運の代表作は、司馬相如の「天子遊獵賦」の形式に範を取り、漢の大賦に似せて私有地を描いた「山居賦」である[35]。 古典的な漢賦と同様、この詩では僻字・難字を多用するが、「山居賦」には 謝霊運自身の注が添えられている点で独特である[35]

南朝梁代、依然として賦は文体として人気を博したが、五言詩や七言詩が台頭し始め、唐代にかけて詩は完全に賦に取って代わることとなる[36]。謝霊運の「山居賦」をオマージュした沈約の「郊居賦」など古典的な賦の形式を継いだ作品もあったが、これに従わないものも多くなった[36]簡文帝による「採蓮賦」は短篇の抒情賦で、流布していた抒情詩を自由に取り入れつつ、華南を喜びと官能にあふれた理想郷として描き出した[36]。蓮を採る行為は伝統的に農婦と結びつけられてきたが、5世紀初頭には賦や詩における一般的な主題となった[37]

?信は、歴代最後の賦の大家として知られる[38]。?信は顔之推と同じく華南に生まれ、南朝の敗北後に北朝の北周に移住することを余儀なくされた後は、南朝の滅亡を南方文化や生活の喪失として描き出すことに腐心した[39]。 ?信の代表作は、江南とその文化の滅亡という時代に翻弄された人生を描いた「哀江南賦」である[39]
唐?清

の時代、賦は著しい変貌を遂げることとなる[40]。唐初には賦が科挙の一部に組み込まれ、この要請を受けて律賦という新しい賦の形式が旧来の賦に取って代わった。律賦は形式や表現に厳しい制約があり、全体を通じて所定の韻律を守らなければならない。加えて、平仄の配置にも規則がつくられた[40]。押韻や双声・畳韻といった音韻的な近似性の意識は漢代以前から存在したものの、声調については意識されていなかった。しかし5世紀に伝来したサンスクリットパーリ語仏典の研究が四声の自覚を促し、中国語の音韻の体系化に向かわせたのである[40]。唐の文章家は従来の賦の主題に、典故に基づく道徳的要素を新たに取り入れた[40]

こうした駢賦や律賦の流行は、形式と修辞ばかりが先行し、賦を漢代の諷諫や苛烈な現実描写の精神から遠ざける結果を招いた[41]古文復興運動とも呼応して、826年杜牧の「阿房宮賦」が散文で自由に韻を踏む文賦と呼ばれる新たな賦の基礎を確立し、晩唐から宋にかけての賦の主流となった[42]欧陽脩の「秋声賦」、蘇軾の「赤壁賦」などは今日にも名高い[41]


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