軍艦旗
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そのため損傷したり褪色しても修理や再染色をしないことが多いどころか、むしろ酷く損傷していればいるほど、数多の激戦を経験して積み上げてきた確固たる伝統の証として、内外ともに広く認証及び珍重されていた。そのため連隊旗は房だけになり、旗自体の識別が困難で標識の体裁をなしていないものも珍しくなかった。これに対して軍艦旗は常時、雨や日光、潮風に晒されるため劣化が早く、あくまで消耗品として割り切られており、艦内には常に複数枚の予備が積み込まれていた[9](破損した軍艦旗は軍需部で交換された)。これは常に鮮明な旗を掲げることで、海上でも不備なく国籍確認が行われることが重視されていたからである。しかしながら、シンボルとしての軍艦旗は連隊旗程ではなくとも尊崇される存在であり、艦艇の総員退艦・沈没時には軍艦旗降下を経て回収することが求められていた(「瑞鶴」等)。

日本海軍では、長期出動で補充が出来なくなった場合、補修用生地(アルパカ)で信号員が縫製した[9]。この作業のため、信号兵は航海学校教程で、軍艦旗および信号旗等の制作・補修の教練を受けていた[9]。さらに高速で動き回る駆逐艦や潜航・浮上を繰り返す潜水艦の場合は特に消耗が激しいため、降雨時は手製軍艦旗で代用することもあった[10]。通常、軍艦旗の管理は、国旗や信号旗類と共に信号部が担当。公式使用時のみ、御写真の捧持とともに内務科が担当する[9]。軍艦旗には6種類(一幅半、二幅、三幅、四幅、六幅、八幅。一幅36cm)あり、艦種や式典によって掲揚する大きさが指定されていた[11]

帝国海軍、軍艦旗の使用区分種類使用区分
一幅半、二幅短艇、内火艇、小艦艇。小艦艇においては、通常の航海用、戦闘旗にも使用。
三幅駆逐艦、潜水艦、海防艦用。通常の航海用、または戦闘旗として、戦艦、巡洋艦も使用。
四幅巡洋艦用。通常の航海用、または戦闘旗として戦艦に使用。また、小艦艇の礼祭用。
六幅通常の戦艦用。または巡洋艦の儀礼、祝祭、観艦式の公式用。
八幅戦艦の儀礼、祝祭、観艦式の公式用。

なお帝国海軍の「戦闘旗」とは、各艦艇が戦闘の目的で出動する時、後部マストに掲揚した軍艦旗を指す[12]

海上自衛隊艦首旗(首艦旗・国籍旗)も帝国海軍と同じく日章旗(日の丸)である[13]。掲揚は港に停泊中に自衛艦旗が掲揚されている間には艦首に、航海中は指揮官が国籍を表示する必要があると認めた場合のみメインマストに掲揚する[13]。また国旗と内閣総理大臣旗等又は指揮官旗とを併揚する際には、国旗は右舷に掲揚する[13]

陸上自衛隊自衛隊旗(八条旭日旗)と違い、海上自衛隊の自衛艦旗は国際慣習上「国旗」と同様の扱いがされるため、式典等で観閲台の前を通る際は観閲官(観閲官の指揮官旗含む)は自衛艦旗に対して敬礼を行い、毎日掲揚・降下するも自衛艦旗であるため、日本の国旗は『艦首旗』『日章旗』『日の丸』と呼んで区別することが多い。なお主要艦船部隊以外の部隊(総監部、航空基地など)は陸空と同じく国旗を掲揚しており、単に『国旗』と称している。

海上自衛隊自衛艦旗(旧日本海軍軍艦旗)

? 警備隊旗

信号檣の檣頭に掲げられた軍艦旗は戦闘旗(battle ensign)として用いられる

観兵式で使用される軍艦旗

さわゆき艦尾に掲揚される自衛艦旗

しらせ艦尾に掲揚される自衛艦旗

停泊するあぶくま型護衛艦の艦首に掲揚される艦首旗

潜水艦。写真の艦艇は海上自衛隊そうりゅう型潜水艦はくりゅう」。

エアクッション艇1号型の船体に塗装された自衛艦旗

自衛艦旗の様式項目定義
縦横比2:3
日章の直径縦の2分の1
日章の中心位置旗の中心から左辺に6分の1寄ったところ
光線の幅・間隔日章の中心から11と4分の1度(11.25度)に開いた広さ
生地又はナイロン
彩色地は白色で、日章及び光線は紅色

イギリス及び連邦・旧植民地の海軍旗

イギリス海軍の軍艦旗は、イングランドの国旗をベースとし、白地を赤十字で四分しカントンに国旗(ユニオンジャック)を配した「ホワイト・エンサイン」と呼ばれるものである。なお、青地(ブルー・エンサイン)であれば海軍予備隊旗あるいは政府船旗(もしくは一定の条件を満たした民間船旗)であり、赤地(レッド・エンサイン)であれば一般の商船旗である。艦首旗は国旗と同一。

このホワイト・エンサイン型の旗は、イギリス連邦諸国および植民地であった国の海軍旗に広く見られる。

イギリス海軍の軍艦旗。

オーストラリア海軍の軍艦旗。イギリス型であるが、イングランド国旗の赤十字がない。白地に青星のデザインは、通常の国旗(ブルー・エンサインがもとになっている)の青地に白星を反転させたものである。

カナダ海軍補助艦隊国籍旗

バングラデシュ海軍の軍艦旗。

南アフリカ共和国海軍の軍艦旗。

インド海軍の軍艦旗。

イギリス海軍旗の間接的影響

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}イギリス海軍が世界各国の海軍の模範とされた影響で、旧イギリス領以外の国にも、白地を4分割し、カントンに国旗を描きこむというパターンは世界各国の海軍旗に広く見られる。4分割を十字形の線で行っている場合とそうでない場合がある。また地色が白以外(多くは海を連想させる青系の色)である場合もある。[要出典]

ウクライナ海軍の軍艦旗。

ボリビア海軍の軍艦旗。

大韓民国海軍の国籍旗。

アメリカ合衆国の海軍旗詳細は「アメリカ軍の国籍旗」を参照

アメリカ合衆国海軍には個別の軍艦旗はなく、星条旗を掲揚する。現用の国籍旗は「ユニオン・ジャック(Union Jack、イギリス国旗の称とは別)」と呼ばれ、星条旗のカントン部を拡大したものである。

他に独立戦争時に用いられた「ファースト・ネイビー・ジャック(The First Navy Jack)(英語版)」と呼ばれる旗があり、星条旗と同じ13本の紅白のストライプを横切るかたちで描かれたガラガラヘビの下に「DONT TREAD ON ME(私を踏みつけるな)」のモットーが書かれている。現代においては、最も長く現役の艦艇(2023年現在はブルー・リッジ)のみが国籍旗として掲揚することになっている。アメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、2002年よりファースト・ネイビー・ジャックが全艦艇の国籍旗として使われ、ユニオン・ジャックは連邦政府や商船など非海軍用旗と定められたが、対テロ戦争が一応の終息を見たため、2019年に元に戻された。

これと似たもので、アメリカには「ガズデン旗(英語版)」がある。こちらではガラガラヘビはとぐろを巻く図案で、黄色地である。これは国籍の識別という国籍旗本来の目的を阻害しないためである。一般的には民間用であるが、歴史的に大陸海兵隊で用いられた経緯などから、現在もアメリカ海兵隊で使われることがあるほか、アメリカ陸軍ACUワッペンにも同じ図案があり、最近のティーパーティー運動、また2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件でトランピストによって打ち振られるなど、“愛国”的な意図でよく用いられる。


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