軍事
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それは徴募組織、部隊編成、予備役、行政管理、軍紀、報酬制度、砲兵工兵などの特技兵科、攻防両面における装備、戦術教育の機能を備えた参謀本部兵站組織、指揮系統の制度、国民の戦闘精神を喚起することである[注釈 22]。これら要素を備えていることが、ジョミニが強調しているように近代軍として不可欠の要素であると考えられる。

軍隊組織の理論の観点から見るならば、軍隊は組織としてはドイツの社会学者マックス・ヴェーバーが定式化した官僚制のモデルの典型例である。つまり規則による職務権限の配分、階級制度に基づいた指揮系統、文章による事務処理、専門性を備えた職員の公平な選抜などの合理的な組織運営が行われている組織である。同時に軍隊は専門的な職業団体でもあり、アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンは軍隊が暴力の管理に関する専門知識と責任、団体性を備えた職業集団であることを将校団の分析から論証した。独自の行動様式や参加手続、共通経験を持つ職業集団であるために軍事問題に特化した組織的能力を派発揮することが可能であり、このような軍隊の職業的性格こそが近代軍の基礎となった。プロイセンが創設した軍事学の研究機関である陸軍大学と参謀本部は職業軍人を育成するための機関であり、ドイツの軍人モルトケシュリーフェンの職業軍人としての立場は政治野心を持つべきではないという軍人の職業倫理の模範を示した[注釈 23]

軍隊の組織構造は地域や時代によってそれぞれ異なるが、軍隊は他の文民組織とは異なる固有の組織構造を形成している。軍隊の体制は軍事作戦の部門、軍事行政の部門、そして軍事司法の部門に大別することができる[注釈 24]。軍隊において軍事作戦は最も基本的な部門であり、幕僚によって補佐された指揮官が任務を達成するために部隊を指揮する。各部隊にはさらに下級部隊が組織されていることによって指揮系統が形成されている。軍事行政の部門においては、部隊に予算や兵員、装備を提供することは軍隊ではなく国防省や防衛省などの行政機関によって実施される。軍事行政は政府の一員である大臣が指導する官僚によって軍事力を開発、維持、管理する。加えて軍事司法の部門においては立法府によって制定された軍法に部隊は服従しなければならない。フランスの軍人マルモンは軍隊で起こった犯罪は国家の司法権と軍隊の指揮権を調整しながら法に基づいて裁かなければならないと『軍制要論』で論じている。軍法は任務の放棄や敵前逃亡、利敵行為などの行為を軍事犯罪と定めており、軽微な犯罪であればその部隊の指揮官が決裁によって処罰することができるが、重大な軍事犯罪であると見なされれば軍法会議が召集され、その判決に基づいて刑が執行されることになる[注釈 25]
指揮統制

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詳細は「C4Iシステム」を参照

軍事システムにおいて指揮統制とは指揮官が任務を達成するために隷下の部隊の作戦運用を指導するために必要な施設、通信、人員、そして手順の総体であり、軍隊の神経系と言うべき機能を果たしている。この指揮統制の複合的機能を整理すると、それは指揮、統制、通信コンピュータそして諜報の機能から成り立っており、英語の頭文字からC4Iシステムと要約される。このシステムに基づいて情報資料を諜報により獲得し、コンピュータにより情報処理を行った上で指揮官はそれを通信で知らされる。そして意思決定が下った後には再び通信によって各部隊に対して指揮権に基づいて命令が各部隊に発せられる。これは必ずしも近代以後の軍事技術だけに合致する概念ではなく、古代の軍事組織においても指揮官は歩哨や間諜がもたらす報告を、伝令や狼煙、音響によって通信伝達され、幕僚や軍師による状況分析を参考にしながら状況判断を行って命令を発していた。現代ではこの情報のやり取りをさらに発展させ、国防体制において指揮統制の体系は早期警戒衛星システムや長距離レーダーなどの諜報活動の手段を活用し、専門化された情報分析官から成る情報機関が情報資料を分析し、幕僚本部や安全保障会議が指揮官を補佐し、しかも無線中継システムにより通信網を確保しているために、より迅速で詳細な意思決定と大量の情報伝達が可能となっている。
軍事教育

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軍事教育とは軍人に必要な能力を付与するための教育訓練演習の体系である。軍事教育の重要性は古代ギリシアから認識されており、体力と戦闘技術を練成し、部隊の団結と規律を高めることで戦闘力を改善することが軍隊で行われていた。マキアヴェッリは国民軍の創設にあたって軍事教育の重要性を指摘し、部隊の錬度に応じて教育水準を段階的に高めることを示している。オランダ軍のマウリッツ公は基本教練を教範類としてまとめたことで、規律正しく部隊に行動させる操典が各国軍で確立されていった。またプロイセン軍ではシャルンホルストなどの功績により高級指揮官を育成する陸軍大学校が創設され、高級将校教育の原型を確立している。このような軍事教育の整備がなされるようになった背景には18世紀における軍事科学の成立があり、ビューロー、ロイド、ギベールなどが展開した科学的方法を重要視した軍事思想によって、それまで断片的であった経験や知識が概念、モデル、理論に基づいて体系化されていった。軍隊で行われている教育体系はまず陸海空軍に設置された教育部隊で基本教練、基礎的な歩兵としての戦闘訓練などを新兵教育の課程で受けることになる。しかし陸海空軍の軍種、そして兵卒下士官将校という階級によってその後の訓練内容は細分化されており、小銃射撃の能力を付与する射撃訓練から大規模な戦力を運用する能力を付与する図上戦術まで分かれている。これら教育訓練で付与された能力を評価する方法として閲兵や想定された状況で実際に行動する軍事演習を実施することが行われている。
政軍関係詳細は「政軍関係」を参照

政軍関係とは政府軍隊の関係のあり方であり、政治はあらゆる軍事行動の上位に位置して目標を規定するべきであると考えられている。その理由としてクラウゼヴィッツの「戦争は他の手段を以ってする政治の延長である」という命題が引用できる。軍事力は侵略防衛のために運用されるものであるが、それは政治の意志に従属するものであり、このことは文民統制の理念として知られている。ハンチントンは『軍人と国家』において軍隊の本来的なあり方について職業主義の概念を使用して分析している。そして軍隊は軍事的な職業主義を最大限に発揮することで軍隊は軍事に専門化し、政治に介入する動機や機会は失われると論じた。このような職掌主義を最大化する政軍関係をもたらすための文民統制を客体的文民統制と呼んでおり、これは主体的に政府が軍隊に介入するのではなく、政府と軍隊を分離した上で客体として統制する方式である[9]

ただしこのハンチントンの客体的文民統制とそれによりもたらされる職業主義の概念は批判を受けている。社会学者ジャノヴィッツはそもそも軍人が政治化することは不可避的な事態であり、軍人は国益の保護者である以上、政治決定に対して国益を保護するように介入する権利を持っていると考える。そのため、軍人が文民の価値観を持つことで文民統制が実現されると主張した。そして具体的には軍隊に対して行政や立法府の監視を強め、軍隊の職業訓練に文民が介入すること有効性を述べている。またファイナーはさまざまな軍によるクーデタの事例を示しながら軍隊の政治介入を防止するために文民の絶対的な優位性に軍人が従属しなければならないと論じた。ファイナーも『馬上の人』において軍人が政治に介入することは軍人の宿命であり、特に政治文化が未熟な国家においては文民政治家にはそれほど正統性が認められないために政治介入に至る傾向があると考えた[10]
戦争能力
軍事力詳細は「軍事力」を参照

軍事力とは平時、戦時において国家の政策の目標を達成または支援するために活用される能力であり、これは政治的、経済的、社会的、軍事的な資源から構成されている。根本的に軍事力とは人間や装備から組織化された暴力であり、この組織的、技術的な組合せや計画的運用によって平時での抑止、危機管理、戦争での攻撃や防御などの能力が左右される。軍事力の機能は基本的には安全保障に関する、抑止、強制および抵抗の三種類にまとめることができる。抑止とは敵の軍事行動を思いとどまらせる機能であり、これは敵に対抗可能な軍事力を準備することで果たすことができる機能である。一方で強制や抵抗はより直接的な機能である。強制は自分の意志を相手に強制する機能であり、威嚇的な軍事力から全面的な攻撃など幅広い軍事行動の機能に該当する。逆に抵抗は相手の強制を退ける機能であり、威嚇的な軍事行動への対処や徹底抗戦にわたる軍事行動の機能が該当する[注釈 26]

軍事力の構成要素を理解するためには物質的要素だけではなく精神的要素を考慮することが重要であることが論じられている。フランスの軍人モーリス・ド・サックスは軍隊の精神的要素を発見した軍人であり、著作『我が瞑想』の中で「戦争にまつわる、あらゆる事柄は人間の「こころ」に端を発する」と述べている。サックスは自らの軍務経験から軍隊の士気が重要な働きを持つことを軍事思想として展開した。したがって軍事力の構成要素には軍用車両軍艦軍用機などの有形の戦力だけではなく、指揮統制能力、兵站能力、錬度や士気などの無形の戦力から成り立っていると考えられている[11]


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