軍事
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しかし陸海空軍の軍種、そして兵卒下士官将校という階級によってその後の訓練内容は細分化されており、小銃射撃の能力を付与する射撃訓練から大規模な戦力を運用する能力を付与する図上戦術まで分かれている。これら教育訓練で付与された能力を評価する方法として閲兵や想定された状況で実際に行動する軍事演習を実施することが行われている。
政軍関係詳細は「政軍関係」を参照

政軍関係とは政府軍隊の関係のあり方であり、政治はあらゆる軍事行動の上位に位置して目標を規定するべきであると考えられている。その理由としてクラウゼヴィッツの「戦争は他の手段を以ってする政治の延長である」という命題が引用できる。軍事力は侵略防衛のために運用されるものであるが、それは政治の意志に従属するものであり、このことは文民統制の理念として知られている。ハンチントンは『軍人と国家』において軍隊の本来的なあり方について職業主義の概念を使用して分析している。そして軍隊は軍事的な職業主義を最大限に発揮することで軍隊は軍事に専門化し、政治に介入する動機や機会は失われると論じた。このような職掌主義を最大化する政軍関係をもたらすための文民統制を客体的文民統制と呼んでおり、これは主体的に政府が軍隊に介入するのではなく、政府と軍隊を分離した上で客体として統制する方式である[9]

ただしこのハンチントンの客体的文民統制とそれによりもたらされる職業主義の概念は批判を受けている。社会学者ジャノヴィッツはそもそも軍人が政治化することは不可避的な事態であり、軍人は国益の保護者である以上、政治決定に対して国益を保護するように介入する権利を持っていると考える。そのため、軍人が文民の価値観を持つことで文民統制が実現されると主張した。そして具体的には軍隊に対して行政や立法府の監視を強め、軍隊の職業訓練に文民が介入すること有効性を述べている。またファイナーはさまざまな軍によるクーデタの事例を示しながら軍隊の政治介入を防止するために文民の絶対的な優位性に軍人が従属しなければならないと論じた。ファイナーも『馬上の人』において軍人が政治に介入することは軍人の宿命であり、特に政治文化が未熟な国家においては文民政治家にはそれほど正統性が認められないために政治介入に至る傾向があると考えた[10]
戦争能力
軍事力詳細は「軍事力」を参照

軍事力とは平時、戦時において国家の政策の目標を達成または支援するために活用される能力であり、これは政治的、経済的、社会的、軍事的な資源から構成されている。根本的に軍事力とは人間や装備から組織化された暴力であり、この組織的、技術的な組合せや計画的運用によって平時での抑止、危機管理、戦争での攻撃や防御などの能力が左右される。軍事力の機能は基本的には安全保障に関する、抑止、強制および抵抗の三種類にまとめることができる。抑止とは敵の軍事行動を思いとどまらせる機能であり、これは敵に対抗可能な軍事力を準備することで果たすことができる機能である。一方で強制や抵抗はより直接的な機能である。強制は自分の意志を相手に強制する機能であり、威嚇的な軍事力から全面的な攻撃など幅広い軍事行動の機能に該当する。逆に抵抗は相手の強制を退ける機能であり、威嚇的な軍事行動への対処や徹底抗戦にわたる軍事行動の機能が該当する[注釈 26]

軍事力の構成要素を理解するためには物質的要素だけではなく精神的要素を考慮することが重要であることが論じられている。フランスの軍人モーリス・ド・サックスは軍隊の精神的要素を発見した軍人であり、著作『我が瞑想』の中で「戦争にまつわる、あらゆる事柄は人間の「こころ」に端を発する」と述べている。サックスは自らの軍務経験から軍隊の士気が重要な働きを持つことを軍事思想として展開した。したがって軍事力の構成要素には軍用車両軍艦軍用機などの有形の戦力だけではなく、指揮統制能力、兵站能力、錬度や士気などの無形の戦力から成り立っていると考えられている[11]。さらに軍事力の潜在的な構成要素である政府の指導力や外交力などの政治力、軍需産業や備蓄資源などの経済力、技術革新を進めるための科学技術力、軍隊に対する国民的支持などを考慮することも可能である。

軍事力の構成要素は単に集合しているのではなく、戦闘教義の下で有機的に統合された能力である。戦闘教義は軍事史において装備の革新や部隊編成を伴いながら変革されてきた。古代ローマの軍事学者ヴェゲティウス古代ローマの軍制についての研究を通じてレギオンと呼ばれた戦闘教義を記している。レギオンは120名の中隊を三列で間隔を保って横隊に戦闘展開して作戦するものであり、必要に応じた疎開や密集、機動が可能となっている。レギオンは古代ローマの戦闘教義であっただけでなく、近世における軍事思想史でマキアヴェリの『戦術論』によって模範として参照されている。現代のアメリカの軍事学者ビドルは『軍事力 (ビドル)』の中で軍事力の運用方法に注目して近代的軍事力の特徴を近代システムであると主張する。近代システムとは射撃と運動の組織的な連携であり、第一次世界大戦でドイツ軍により本格的に導入されて戦果を挙げた[12]。現在では、軍事力はDOTMLPF(ドクトリン、オーガニゼーション、トレーニング、軍需品、ロジスティックス、リーダーシップ、人事、施設の略)の総合力としてのケイパビリティとして把握するのが、アメリカを中心とした西側先進国で常識化しており、望ましい軍事ケイパビリティを達成するための軍事能力の分野別の軍事能力の不足(ケイパビリティギャップ)の数量的把握とそれに対する合理的な対処が制度化されている。
陸上戦力詳細は「陸軍力」を参照

陸上戦力とは陸上において作戦行動する能力を持つ戦力である。陸上戦力の役割とは人間の本来的な生活領域である陸上において軍事作戦を展開することであり、陸上戦力を代表する軍事組織としては陸軍がある。ただし治安部隊や国境警備隊、また場合によっては海兵隊陸戦隊も陸上戦力として機能することができる。陸上戦力が活動する陸上には土地、資源、そして住民の三つの基本的要素が存在するが、陸上戦力はそれらを統制下に置くことが可能である。これら三つの要素はいずれも密接に関連しており、土地を支配することはその地域の交通を管制することになるため、天然資源の使用を制約することが可能となり、同時にそれは住民生活に必要な物資を統制することをも可能とする。陸上戦力はその特性から地形と密接に関係するものであり、運用によって地形を戦力化することが可能である一方で、森林、市街、砂漠、山岳などの地形によって弱体化される可能性もある[注釈 27]

陸上戦力の戦略的役割を表現するランドパワーと呼ばれる概念がある。イギリスの地政学者ハルフォード・マッキンダーは『デモクラシーの理想と現実』においてランドパワーとは海洋に対して大陸に根拠地を持つ勢力を指す地政学の概念である。マッキンダーによれば世界の覇権を獲得するためにはユーラシア大陸の内陸部に位置するハートランドを支配することが重要であると論じた。つまりハートランドから投射されるランドパワーは全世界的な支配権を確立することができる[注釈 28]。加えてこの大陸に基づいた戦略思想を展開したドイツの地政学者には『太平洋地政学』の著者であるカール・ハウスホーファーがいる。ハウスホーファーは第一次世界大戦で敗北したドイツが自給自足するために必要な生存圏をユーラシアからアフリカに至る地域と定め、アメリカ、日本、ロシアとともに世界を分割する統合地域理論を主張した[13]

陸上戦力の具体的な組成について観察すれば、その最小単位の部隊である分隊から出発し、小隊、中隊、大隊、連隊そして師団という部隊編制が採用されている。これは師団制度と呼ばれる部隊編制であり、この師団制度に基づいて歩兵、砲兵、機構などの戦闘兵科を担う各部隊が師団の中で組織されている。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}近代的な師団制度は歴史的にはスウェーデンの国王グスタフ・アドルフによって確立されたものであり[独自研究?]、今日の陸軍の部隊編制でも広く採用されている[注釈 29]。また近代以後では火器の破壊力が向上したために要塞を使用する効率性が失われ、機動力を活用することが重視されるようになっている。ドイツの軍人ハインツ・グデーリアンによって実践された電撃戦は近代陸上作戦において戦車の最大限に活用した戦闘教義であり[注釈 30]、現在でも陸上戦力にとって機甲部隊の重要性は変わっていない。
海上戦力詳細は「海軍力」を参照

海上戦力とは海洋において戦闘力を発揮する戦力の形態であり、海軍によって海上戦力は造成、運用されている。しかし海軍だけでなく沿岸警備隊も海上戦力として把握することは可能である。人間の生活にとって海洋という地理的環境は陸地の住民にとっては障害となるが、船舶港湾などの交通手段が確立されれば広大な交通路となるものである。海上交通によって大量の物資の輸送やその輸送を通じた沿岸地域または海外地域との交易で得られる経済的便益がもたらされる。海上戦力とはこの海上交通路を保持して管制する意義があり、さらに敵の海上交通を防止する意味もある。海洋の環境は気象や海象によって変化するが、それを戦力として活用することは困難であり、戦力の優劣がそのまま戦闘結果に反映されやすい[注釈 31]

海上戦力の戦略家として代表的な人物にアメリカの戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンがいる。マハンは『海上権力史論』や『海軍戦略』などの著作があり、海洋が巨大な公道であり、海上交通の防衛が海軍の最重要目的であると指摘した。そして生産、海運植民地を連環として繋ぐ能力としてシーパワーの概念を提起する。シーパワーは海上戦力だけでなく、地理的位置や自然的形態、領土範囲、人口、国民性、政府の性格など海洋に関する総合能力である[注釈 32]。マハンと同じく海上戦力の戦略的意義を論じたイギリスの戦略家にジュリアン・コーベットがいる。


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