軌間
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ただしこれらには様々な要因があり、単純に軌間のみで決まるわけではない[1]。また時代によりその評価は変わっており、論拠の一部は特定の時代の技術に依存したものである[50]
安定性BART

鉄道車両には鉛直方向の重力のほか、横風や走行時の車両の動揺、曲線通過時の遠心力などにより横方向の力がかかっている。車両の重心からこれらの力の合力方向にひいた直線が線路面と交わる位置が、片方のレールの外側になると、車両は転覆してしまう。また、軌道の中心から軌間の6分の1以上ずれると、脱線の確率が高まることが知られている[51]

このため、重心の高さが同じであれば広軌のほうが横方向の力に対してより安全であるといえる。特に列車の速度が速くなるほどこうした力の影響は大きくなるため、高速運転には軌間の広いほうが適している。狭軌の場合は、横方向の力の発生を防ぐためより精度の高い保線作業が必要となる。また同程度の安定性を求めるのであれば、軌間の広いほうが重心を高くすることができ、大型の車両を用いることができる[52]

1850年代インドの鉄道で広軌(1676 mm)が採用された理由のひとつとして、軌間が広いほうがサイクロンなどの強風に対して安全であるということが挙げられている[53][14]。また1973年アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアで開業したBARTでも、湾岸地域での横風に対する安定性を考慮して1676 mm軌間とコンクリート道床の組み合わせを採用した[54]
機関車の性能グレート・ウェスタン鉄道の広軌機関車

蒸気機関車の用いられていた時代には、軌間の広いほうが機関車の性能が高いとされていた。これは1830年代から20世紀前半に至るまで、広軌の優位性を主張する最大の根拠であった[55]

1830年代から40年代初頭まで、蒸気機関車のシリンダーは車輪の内側に取り付けられていた。これは、シリンダーを外側にすると蒸気が空気で冷やされて効率が落ちると考えられたこと、また機関車の車体に左右交互に力が加わるため、当時の技術ではこれに耐えられるような台枠が作れなかったことによるものである。このため、シリンダーの大きさは軌間に大きな影響を受けた。加えて、この時代の弁装置は大きく、頻繁な保守作業を必要とした。これも車輪の内側におかれたため、狭い軌間はメンテナンスが困難であるとして嫌われることになった[55]。これ以外にもシリンダーから動輪の軸に力を伝えるクランク部分が広軌の方が広くとれるので摩耗や強度的に有利orクランクが同じ幅ならより外側にずらすことでボイラー下部と干渉しにくくなり、ボイラー高さを抑えられたり太いボイラーが使えるというメリットもあった[56]

ただし、1840年代半ば以降になると、車体の製造技術の向上などにより外側シリンダーの蒸気機関車が製造可能になり、シリンダーの大きさが軌間に制約されることはなくなった[55]。むしろ外側シリンダーでは車両限界や特にボイラーの太さが同一ならば広軌の方がシリンダーをより外側につけるため、シリンダーの大きさを妨げる原因になり[57]イギリスの軌間問題に関する王立調査委員会は、1845年の報告で7フィート軌間のほうが4フィート8 1/2インチ軌間より機関車の性能が優れていることは認めつつ、その差は僅かであると指摘している[11]

一方で、軌間の広いほうが高い重心が許容されるため、火室(英語版)やボイラーを大型化し、出力を向上させることができる[55]。19世紀半ばまでは低い蒸気圧しか使えなかったため、この点は大きな差にはならなかった。しかし使用蒸気圧の増した19世紀末から20世紀であれば、軌間と蒸気機関車の性能にはより強い関係があった[11]20世紀初頭の段階では、狭軌の蒸気機関車は標準軌の半分程度の性能しか出せないとされていた[55]1912年日本で行われた実験では、国鉄の2120形と呼ばれたタンク機関車のグループのうち2323号機を広軌化(1067 mm→1435 mm)して、左右車輪の間に空間ができたのを利用して火室の幅を広げた所、牽引能力が上昇して1067 mm時には10 ‰勾配上で250 tの列車を引けたものが1435 mm時には350 tまで牽引可能になった[58][59]。1920年代のアメリカ合衆国では、標準軌でも不十分であり、6フィート(1829 mm)などの広軌に改軌したほうがより高性能の機関車を設計できるという主張があった[55][注釈 5]

ただし、蒸気機関車でも従輪で火室を受ければ軌間を超える幅の広い火室を重心を上げずに採用できるし、ボイラーもガーラット式機関車のようにボイラーの前後に走り装置をつけて支える形式にすれば、動輪に邪魔されずナローでも太いボイラーを使う[注釈 6]ことは可能である。

一方、電動機(モーター)を動力源とする電車や電気機関車(電気式動力伝達の内燃機関動力車も含む)の場合は、通常動輪のすぐ横でモーターを軸と平行に置くので車輪直径で上下方向、軌間で左右方向の大きさに制約が生じる[注釈 7]。この影響は電車より電気機関車、電気機関車より電気式動力伝達の内燃機関動力車の方が大きい。
このためモーターの大型化・車輪直径を抑える・狭軌の3つはすべて満たすことが難しくなり、日本の例では明治の末に国鉄が山手線で初めて電車を運行したころはモーターが50馬力だったので車輪径が客車や貨車と同じ大きさでもさほど問題はなかったが、大正3年に京浜間に100馬力の大型モーターの電車を走らせることになった際、このサイズの車輪ではモーターの下端とレール上面の隙間が構造規定を下回ってしまうため車輪径を大きくして910 mmの車輪を採用し、以後これが電車の標準になったことがある[60]。私鉄でも小田急箱根は急勾配を理由に標準軌を採用している[注釈 8]
逆に路面電車など床高さを抑えるため車輪が小さくならざるを得ない車両では、狭軌になるとモーターを収める空間に余裕がなくなるため、モーターの位置を変え直角カルダン駆動方式車体装架カルダン駆動方式などを採用したり、逆に路面電車に多い急カーブや狭小建築限界に不利とわかっていても軌道施設時に標準軌を選択する場合がある。

なお、内燃機関を機械式もしくは液体式で動力伝達をする車両の場合は、元々エンジンが車輪の間と無関係の位置にあるので軌間と出力の間に直接的な関係はほとんどない。但し内燃機関は電動機に比べて小型化が難しく、重心が高くなりがちであり、この点が蒸気機関車に似ている。
車両の搭載能力

貨車に貨物を搭載する場合の効率については、広軌のほうが有利であるという主張と狭軌のほうが有利であるという主張の双方が存在する[61]

広軌を有利とするのは、広軌のほうが重心を高くすることができるため、車体を横方向のみならず垂直方向にも大型化することができるためである。このとき(車体長を不変とした場合)床や壁の面積は軌間の1乗のオーダーで増加するが、容積は2乗のオーダーで増えるため、より効率よく貨物を積むことができる[61]

一方狭軌を有利とする根拠は、軌間が広いほど台車などが大きくなってしまい、運ぶべき貨物の重量に対して貨車そのものの重量が大きく効率が悪いことによる[61]

結論を言えば、これは貨物の比重と輸送量に影響される。農産物など比重の小さい貨物を大量に運ぶときには前者の影響が大きく、広軌のほうが有利である。一方鉱石など比重の大きな貨物を少量運ぶときは後者の影響が大きい。鉱山などの専用鉄道で狭軌が採用される例があるのはこのためである[61]

ただし、車体を大きくするには車両限界建築限界(特に橋梁トンネルの設計)、レールや路盤の強度なども関係してくるため、単純に軌間が広ければよいというわけではない[62]。1676 mmの広軌を採用しているインドの鉄道でも、欧米の標準軌鉄道と比べて車両限界は僅かに大きい程度である[63]

これについては日本の鉄道院初代総裁である後藤新平も広軌化検討時に「ドイツ鉄道で現在(注:1909年)使用されている有蓋貨車は狭軌でこれは採用できる、したがって貨車においては広狭関係ない。アメリカの貨車は最も大きいが、南ア(注:南アフリカ共和国の事)のボギー貨車はこれに劣らないので貨車についてはボギーとすれば広狭同等と考える。」、「元九州鉄道の貴賓車(九州鉄道ブリル客車のこと)はイギリスよりも大きく、プロシャ(ドイツ)とほぼ同じである、したがって狭軌でも建築限界を広げれば「萬国寝台会社」サイズの客車を運転できる。」としている[64]
曲線の通過

曲線部では、外側のレールのほうが内側のレールより長くなるが、同一の曲線半径であれば軌間が狭いほどその差は小さい。このため、狭軌のほうが小さな半径の曲線を作りやすいとされている[65]。特に山岳路線では、地形に沿うように線路を敷くことができるため、トンネル橋梁などの高価な施設を最小限に抑えることができる。


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