軌間
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1920年代のアメリカ合衆国では、標準軌でも不十分であり、6フィート(1829 mm)などの広軌に改軌したほうがより高性能の機関車を設計できるという主張があった[55][注釈 5]

ただし、蒸気機関車でも従輪で火室を受ければ軌間を超える幅の広い火室を重心を上げずに採用できるし、ボイラーもガーラット式機関車のようにボイラーの前後に走り装置をつけて支える形式にすれば、動輪に邪魔されずナローでも太いボイラーを使う[注釈 6]ことは可能である。

一方、電動機(モーター)を動力源とする電車や電気機関車(電気式動力伝達の内燃機関動力車も含む)の場合は、通常動輪のすぐ横でモーターを軸と平行に置くので車輪直径で上下方向、軌間で左右方向の大きさに制約が生じる[注釈 7]。この影響は電車より電気機関車、電気機関車より電気式動力伝達の内燃機関動力車の方が大きい。
このためモーターの大型化・車輪直径を抑える・狭軌の3つはすべて満たすことが難しくなり、日本の例では明治の末に国鉄が山手線で初めて電車を運行したころはモーターが50馬力だったので車輪径が客車や貨車と同じ大きさでもさほど問題はなかったが、大正3年に京浜間に100馬力の大型モーターの電車を走らせることになった際、このサイズの車輪ではモーターの下端とレール上面の隙間が構造規定を下回ってしまうため車輪径を大きくして910 mmの車輪を採用し、以後これが電車の標準になったことがある[60]。私鉄でも小田急箱根は急勾配を理由に標準軌を採用している[注釈 8]
逆に路面電車など床高さを抑えるため車輪が小さくならざるを得ない車両では、狭軌になるとモーターを収める空間に余裕がなくなるため、モーターの位置を変え直角カルダン駆動方式車体装架カルダン駆動方式などを採用したり、逆に路面電車に多い急カーブや狭小建築限界に不利とわかっていても軌道施設時に標準軌を選択する場合がある。

なお、内燃機関を機械式もしくは液体式で動力伝達をする車両の場合は、元々エンジンが車輪の間と無関係の位置にあるので軌間と出力の間に直接的な関係はほとんどない。但し内燃機関は電動機に比べて小型化が難しく、重心が高くなりがちであり、この点が蒸気機関車に似ている。
車両の搭載能力

貨車に貨物を搭載する場合の効率については、広軌のほうが有利であるという主張と狭軌のほうが有利であるという主張の双方が存在する[61]

広軌を有利とするのは、広軌のほうが重心を高くすることができるため、車体を横方向のみならず垂直方向にも大型化することができるためである。このとき(車体長を不変とした場合)床や壁の面積は軌間の1乗のオーダーで増加するが、容積は2乗のオーダーで増えるため、より効率よく貨物を積むことができる[61]

一方狭軌を有利とする根拠は、軌間が広いほど台車などが大きくなってしまい、運ぶべき貨物の重量に対して貨車そのものの重量が大きく効率が悪いことによる[61]

結論を言えば、これは貨物の比重と輸送量に影響される。農産物など比重の小さい貨物を大量に運ぶときには前者の影響が大きく、広軌のほうが有利である。一方鉱石など比重の大きな貨物を少量運ぶときは後者の影響が大きい。鉱山などの専用鉄道で狭軌が採用される例があるのはこのためである[61]

ただし、車体を大きくするには車両限界建築限界(特に橋梁トンネルの設計)、レールや路盤の強度なども関係してくるため、単純に軌間が広ければよいというわけではない[62]。1676 mmの広軌を採用しているインドの鉄道でも、欧米の標準軌鉄道と比べて車両限界は僅かに大きい程度である[63]

これについては日本の鉄道院初代総裁である後藤新平も広軌化検討時に「ドイツ鉄道で現在(注:1909年)使用されている有蓋貨車は狭軌でこれは採用できる、したがって貨車においては広狭関係ない。アメリカの貨車は最も大きいが、南ア(注:南アフリカ共和国の事)のボギー貨車はこれに劣らないので貨車についてはボギーとすれば広狭同等と考える。」、「元九州鉄道の貴賓車(九州鉄道ブリル客車のこと)はイギリスよりも大きく、プロシャ(ドイツ)とほぼ同じである、したがって狭軌でも建築限界を広げれば「萬国寝台会社」サイズの客車を運転できる。」としている[64]
曲線の通過

曲線部では、外側のレールのほうが内側のレールより長くなるが、同一の曲線半径であれば軌間が狭いほどその差は小さい。このため、狭軌のほうが小さな半径の曲線を作りやすいとされている[65]。特に山岳路線では、地形に沿うように線路を敷くことができるため、トンネル橋梁などの高価な施設を最小限に抑えることができる。広軌論者のイザムバード・キングダム・ブルネルも、広軌の欠点としてこの点を認めており、1860年代以降の狭軌鉄道の流行においてもその最大のメリットとされていた[66]。広軌を用いているスペインでは、曲線通過のため左右の車輪が独立して回転するタルゴ車両が開発された[67]

鉄道では車輪に踏面勾配を持たせることで、曲線部では外側の車輪とレールの接触部の半径が内側よりも大きくなり、外側の車輪の走行距離が内側よりも長くなって自然に曲がることができる。しかし内外の走行距離の差が踏面勾配によって吸収できないほど大きい場合には、フランジがレール側面と接触し、内外いずれかの車輪がレール上を滑ることになり、大きな摩擦を生じることになる[65]

一方で、鉄道車両の曲線通過能力において、軌間の違いは本質的ではないとする見解もある[66]

複数の車軸をもつ鉄道車両では、曲線部では車輪の向きとレールの向きが異なってしまう。この角度をアタック角といい、これが大きいほど走行抵抗が大きく、脱線の危険も高まる。アタック角は車軸の間隔に依存し、軌間とは関係ない。転向可能なボギー台車を用いることでアタック角を小さくすることができる[注釈 9]。実際、19世紀後半のアメリカの標準軌鉄道では、ボギー台車を用いることで、同時代の二軸車主体のヨーロッパの狭軌(軽便)鉄道より小さな曲線半径を実現していた[66]

ボギー台車を用いたとしても、今度は車両の進行方向と台車の向きが異なるため、台車を転向させるための横圧が加わる。これは台車の中心間隔に依存する。アーサー・M・ウェリントンは1887年の著書において、車体各部の寸法がそのままで軌間のみを狭くしても、こうした曲線通過時の抵抗にはほとんど影響がなく、台車中心間隔を同時に小さくすることではじめて抵抗を減らす効果があると論じた。彼はさらに、軌間の広いほうが高重心が許容されるため、機関車や貨車の性能は同程度のまま車軸や台車の間隔を縮めることができ、曲線通過に適しているとすら述べている。ウェリントンの見解はなかなか受け入れられなかったが、例えばペルーにおいてはこの説に基づき山岳路線を標準軌で建設している[66]
下部構造

レールを支える枕木の長さや、その下のバラストの量は、軌間の大きさに直接影響される。狭軌の鉄道ほど軌道に専有される幅は狭くなる。19世紀末から20世紀前半のヨーロッパの軽便鉄道は、多くが既存の道路の端を使って敷設されたため、この点が狭軌を使用する大きな利点となった。一方、軌道を支える路盤の強度や橋梁の設計は、走らせる列車の重量(軸重)や速度によって決定され、軌間にはほとんど影響されない[44]

2001年南アフリカハウトレイン建設の際に行なわれた試算では、1 kmあたりの建設費は標準軌(1435 mm)の場合180万ランドであるのに対し、ケープ軌間(1065 mm)であれば160万ランドと見積もられた。この差は枕木とバラストによるものであり、事業全体のコストに比べればそれほど重要ではないと評価された[68]

なお、実際に2140 mmもの広軌を使っていたイギリスのグレート・ウェスタン鉄道では上記の問題から枕木を倹約するため、通常のレールのように枕木を並行に無数に並べ、その上に直角にレール2本を置くのではなく「レールに沿うように切れ目なく枕木を敷いて(つまり鉄のレールの下に木のレールがあるような外見)重量を分散させ、その枕木を約10フィートおきに横木で結び、ずれないように固定する。」という独特の敷き方を行っていた[69]
軌間と直通運転
直通の可否

一般に鉄道車両は特定の軌間に合わせて製造されている。車輪の内側にはフランジがあるため、両側の車輪のフランジの間隔より狭い軌間の線路に乗り入れることは不可能である。また軌間が大きすぎる場合にも脱線してしまう[70]

しかし、車輪にもレールにもある程度の幅があるため、軌間の1 %程度の差異であれば直通運転にはほとんど支障がない。フィート・インチからメートル法へ単位系の切り替えの際の考え方の違いなどで、1067 mmと1065 mm、1524 mmと1520 mmのような数ミリメートル異なる軌間が存在するが、これらは実用上は同一軌間とみなしうる[71]19世紀アメリカ合衆国では、4フィート8.5インチ(1435 mm)軌間用の車両がそのまま4フィート10インチ(1475 mm)軌間の鉄道に乗り入れていた例もある。この場合、脱線の危険が増すものの、当時の安全水準からはそれほど問題とはされなかった[71]
故意の異軌間採用
軍事的理由


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