軌道_(力学)
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しかしこの方法では、計算機が持つ演算精度の限界によって微小な計算誤差が生じるため、数値積分の方法によっては誤差が累積し、解の精度も制限される。

これと同様の微分方程式を解く方法によって、多体問題と呼ばれるような非常に多数の天体からなる系のシミュレーションも行なわれている。実際には全ての二体間に働く力を直接計算する直接N体計算と呼ばれる手法や、天体を重心間の二体問題として階層的に集合化して計算する方法などがある。このような方法で銀河星団、その他の大規模な天体のシミュレーションが行なわれている。
軌道運動の解析「軌道運動」および「ケプラーの第1法則」を参照

常にある固定点に向かう力の影響の下で運動する物体の運動を解析する場合には、力の中心を原点とする極座標を使うのが便利である。このような座標系では、加速度の動径方向成分と方位角方向成分はそれぞれ以下のようになる。

d 2 r d t 2 − r ( d θ d t ) 2 {\displaystyle {\frac {d^{2}r}{dt^{2}}}-r\left({\frac {d\theta }{dt}}\right)^{2}} ,

及び

1 r d d t ( r 2 d θ d t ) {\displaystyle {\frac {1}{r}}{\frac {d}{dt}}\left(r^{2}{\frac {d\theta }{dt}}\right)} .

ここで物体に働く力は常に動径方向を向いているので、方位角方向の加速度は0であり、以下の式が成り立つ。

d θ d t = h u 2 {\displaystyle {\frac {d\theta }{dt}}=hu^{2}} ,

ここで h は積分定数である。また、ここで 1/r を補助変数u に置き換える。この時、力の動径成分の大きさを、運動する物体の単位質量当り f(r) とすると、運動方程式の動径成分から時間変数が消去され、以下の式を得る。

d 2 u d θ 2 + u = f ( 1 / u ) h 2 u 2 {\displaystyle {\frac {d^{2}u}{d\theta ^{2}}}+u={\frac {f(1/u)}{h^{2}u^{2}}}} .

今、力が距離の2乗に反比例する場合を考えると、この方程式の右辺は定数となり、(従属変数の原点をずらすと)方程式は調和方程式となる。

これにより、この天体の軌道の方程式は以下のようになる。

r = 1 u = L 1 + e cos ⁡ ( θ − ϕ ) {\displaystyle r={\frac {1}{u}}={\frac {L}{1+e\cos(\theta -\phi )}}} ,

ここで φ と e は積分定数で、L は半直弦 (semi-latus rectum) である。この式は極座標での円錐曲線の方程式と見なせる。
軌道パラメータ「軌道要素」を参照

一般の楕円軌道では、楕円の軸と離心率、最小・最大距離は以下の関係にある。

軌道長半径 = (近点距離 + 遠点距離)/2 = 半径の極値の平均

近点距離 = 軌道長半径 × (1 ? 離心率) = 最小距離

遠点距離 = 軌道長半径 × (1 + 離心率) = 最大距離

ここで、平均半径または平均距離には別の定義もあることに注意すべきである。軌道一周にわたって半径を時間について平均した場合(平均近点角に対する平均値)、また主星から見た従星の軌道角について平均した場合(真近点角に対する平均値)には異なる結果を得る。
軌道周期詳細は「軌道周期」を参照
軌道の摂動
軌道の減衰

天体の軌道の一部が母天体の大気中を通過する場合には、その軌道は抗力によって減衰 (decay) する。すなわち、近点を通過するたびに天体は大気と擦れあってエネルギーを失う。これにより、天体の運動エネルギーがちょうど最大に達する点でエネルギーを失うため、天体の軌道は1周ごとに離心率が小さくなる(円軌道により近づく)。最終的には軌道は円軌道に近づき、螺旋軌道を描いて大気中に落下する。

地球大気の上限高度は大きく変化する。太陽活動の極大期には地球の大気は極小期に比べて約100km厚くなる。

長い導電性のテザーを持つような人工衛星も、地球の磁場によって電磁気的抗力を受けて軌道が減衰する。これは基本的には、ワイヤーが地球の磁力線を横切ることで発電機の役割を果たすためである。このためにワイヤー内で電子が運動し、軌道運動のエネルギーがワイヤー内の熱に変換されるのである。

人工的に衛星の軌道に影響を与える別の方法としては、ソーラーセイル磁気セイルを用いる方法がある。このような形の推進方法には推進剤やエネルギー入力を必要としないため、無制限に運用することができる。

軌道の減衰は、母天体との同期軌道を運動するような天体の場合にも潮汐力によって引き起こされる。軌道運動を行なう衛星の重力によって、母天体には潮汐力による膨らみ (tidal bulge) が生じる。そのため、同期軌道をとる衛星が母天体の自転よりも速く公転していると、母天体の膨らみ部分は衛星の公転から少し遅れた場所に位置する。この膨らみが衛星に及ぼす重力ベクトルは母天体と衛星の中心を結ぶ線からわずかにずれているため、衛星の軌道運動方向の成分を持つことになる。衛星に近い側の母天体の膨らみは衛星の公転を減速し、遠い側の膨らみは衛星を加速するが、減速する膨らみの方が距離が近いために加速の効果よりも強い。この結果、衛星の軌道は減衰する。逆に、衛星が母天体の膨らみに及ぼす重力によって母天体はトルクを受けて自転が加速する。人工衛星は母惑星に潮汐効果を及ぼすには小さすぎるが、太陽系にある衛星のいくつかはこのしくみによって軌道減衰を受けている。火星の内側の軌道にある衛星フォボスはこの代表的な例で、この衛星は5,000万年以内に火星表面に落下するか、潮汐破壊されて環を形成すると考えられている。

最後に、天体の軌道は重力波の放出によっても減衰する。このメカニズムはほとんどの天体では極端に弱く、非常に大きな質量の天体が非常に大きな加速度を受けて運動する場合にしか効果は表れない。このような例としては、複数のブラックホール中性子星が近い軌道を互いに回っているような場合が挙げられる。


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