軌道塔、宇宙エレベータ、同期エレベータ、静止軌道エレベータなどとも呼ぶ。旧ソビエト連邦での発案者ユーリイ・アルツターノフ
(英語版)の命名から「天のケーブルカー」、旧約聖書(創世記)におけるヤコブの話に因んで「ヤコブの梯子」、童話『ジャックと豆の木』から「ビーンストーク(豆の木)」と呼ばれることもある。日本では芥川龍之介の蜘蛛の糸に喩えられることがある。吊り下げられている構造上も一番近い表現ではある。しかし、物語として糸が切れる終わり方をするために、どちらかと言えば軌道エレベータの実現に懐疑的な見方から用いられる表現である。欧米では同様に懐疑的な表現として「バベルの塔」がある。 軌道エレベータの着想は、宇宙旅行の父コンスタンチン・ツィオルコフスキーが1895年に既に自著の中で記述している。ツィオルコフスキーはパリで見たエッフェル塔に強い印象を受け、死後の1959年に刊行された著書の中で、赤道上から天に向って塔を建てていくと、次第に遠心力が強くなり、ある点(静止軌道半径)で遠心力と重力が釣り合うと述べている[5]。同じく1959年、ユーリイ・アルツターノフが逆に静止軌道上からその上下にケーブルを伸ばす前述のような軌道エレベータの構想(天のケーブルカー)を発表した[6]。 軌道エレベータを構築する上で一番の問題は、静止軌道まで約36,000kmも伸ばしたケーブルが自重によって切れてしまうのを防ぐことである。 1975年、ジェローム・ピアソンは、軌道エレベータの材料に関する研究を行った[7]。その結果、上空に行くに従い重力が小さくなり、かつ遠心力が強くなることを考慮すると、引っ張り強さ/密度(破断長)が4,960kmほど、すなわち一様な重力場で、一様な太さのケーブルを4,960km下に伸ばすまで切れない物質が必要なことがわかった。この数値はすべて一様な太さの軌道エレベータを構築した場合で、特に引っ張り力のかかる部分を太くするテーパー構造(末細り型)にした場合、多少改善されるものの、現実の物質と比較してみると、鋼鉄が50km、ケブラー繊維が200km程とまったく足りない。 そのため、長い間、軌道エレベータは空想上の素材や未来の工学として概念的なものとして扱われてきた。しかし、1982年に、破断長約1,000 km で、理論的にはテーパー構造の軌道エレベータを建造できる強度のグラファイト・ウィスカーが発見された。さらに1991年に極めて高い強度を持つカーボンナノチューブが発見されたことにより、実用化可能と言われるようになった。 2031年10月27日の開通を目指し(当初は2018年4月12日を予定していた)、1メートル幅のカーボンナノチューブでできたリボンを、赤道上の海上プラットフォーム上から10万キロ上空まで伸ばすプロジェクトを、全米宇宙協会
歴史
これらの研究報告に基づき、LiftPort社がアメリカ、ワシントン州シアトル郊外のブレマートンに設立され、NASAからの援助を受けて軌道エレベータの早期実現へ向けた研究開発を行っている[12]。
2005年9月、米リフトポート・グループ(英語版)社は同社が開発中の宇宙エレベータの上空での昇降テストを行った。このテストでは、カーボンナノチューブではないケーブルを使用して気球に接続し、次第に気球の高度を上げていき、3回目では高度約1,000フィート(約304.8m)に達した。実験写真を見る限りでは、SFなどで登場する塔のようなものではなく、上空から垂らしたケーブルを箱が昇っていくというシンプルなものである。 日本では、2009年から宇宙エレベーター協会主催の宇宙エレベーター技術競技会が開かれている。ルールは毎年改定され、2010年第2回大会では上空の気球から幅5 cm のベルト状のテザーを垂らし、高度300 m まで上昇・下降するというものである[13]。 宇宙エレベーター協会などは2018年8月14?15日、上空100mの気球から吊り下げたケーブルを昇降機で登らせたロボットを、高度90mからパラシュートを使って地上に軟着陸させる実験を、福島ロボットテストフィールド実証用地(福島県南相馬市)で行った[14]。 2012年2月には大林組が建設の視点から、宇宙エレベーターの可能性を探る構想を広報誌『季刊大林』に載せ、2050年の実現を目指すと報道された[15]。 代表的な建造方法として、長大な吊り橋を建設する場合と同じ方法を採ることが提唱されている。まず静止軌道上に人工衛星を設置し、地球側にケーブルを少しずつ下ろしていく。その際、ケーブル自体の重さによって重心が静止軌道から外れないように、反対側にもケーブルを伸ばす。地球側に伸ばしたケーブルが地上に達すると、それをガイドにしてケーブルをさらに何本も張って太くし、構造物を構築する。 この手法を小説『楽園の泉』(1979年)で提唱したアーサー・C・クラークは、ケーブルの素材として無重力環境でしか作れない物質を設定したため、小惑星帯から適切な鉱物を含む小惑星を運搬してきて静止軌道に設置し、工場を建設して静止軌道上で製造する工法を取った。この場合はまず小惑星を動かす段階で大量の資材を地球から持ち出さなければならず、「軌道エレベータを建造するために多数のロケットを打ち上げる」という本末転倒な事態になってしまう。 しかしカーボンナノチューブは地上でも製造可能である。ガイド用の細いケーブルと必要最小限の付帯設備だけはロケットで静止軌道まで運ばなければならないが、あとはケーブルを伝って地上側から敷設していくことができると考えられている。上端に達した敷設装置は、そのままアンカーの一部になる。なお、アース・ポートを赤道以外の場所に建設する場合でも、最初のケーブルの下端が赤道に向かって降りてくるのを捕まえ、建設予定地まで移動させなければならない。 現在の構想では、最終的にはケーブルの長さ1kmあたり7kg、アンカーまで含めた全体の質量は約1,400tとなる。建設費は100億ドルから200億ドル(1兆円から2兆円)とされている[16]。ただし、実際に十人単位の人を運べるものを建設する場合、値段はより高額となると考える研究者もいる[17]。なお、国際宇宙ステーションの建設・運用には1,000億USドル以上の費用が掛かっているが、こちらはすべてをロケットで打ち上げているため単純比較はできない。 SF作家のチャールズ・シェフィールドは、小説『星ぼしに架ける橋』(1979年)の中で、宇宙空間で建造した全長数万kmの軌道エレベータを、回転させながら一端を大気圏に突入させ、巨大な縦穴の底に接地したところで穴の壁を丸ごと爆破した岩雪崩で強引に押さえつけて固定するという、小説ならではのスリルある豪快なアイデアを示している。アーサー・C・クラークはこれを「髪の毛が逆立つような方法。この部分だけは信じられない。許可が下りないのは確かである」と評した。 なお、クラーク/シェフィールドの両作品とも現実の21世紀初頭より宇宙開発が進み、既に多数のロケットが地球と宇宙を行き来している世界の物語である。
日本での取り組み
建造方法
派生アイデア
月面での建造
月は地球に比べ重力が小さく、大気の影響も受けない。しかし、自転速度が遅く、公転と同期しているので、月と地球の引力の中心点(ラグランジュ点)にアンカーを置かなければならない。これは、建設地点・運用が大きく制限されることを意味する。また地表からラグランジュ点までの距離は最も近いL1でも56,000kmであり、地球?静止軌道間の36,000km以上である。そして、月のような低重力・真空の環境下では、SSTOやマスドライバーなど他の低コストな打ち上げ手段も現実的な選択肢となりえることを考慮しなくてはならない。
火星での建造
アーサー・C・クラークは軌道エレベータを題材にしたSF小説『楽園の泉』において、火星での建設可能性について言及している。ここでは地上駅を赤道直下にある巨峰パヴォニス山
宇宙のネックレス
赤道上に多数の軌道エレベータを建設し、それらを静止軌道よりも少し上の部分で互いにケーブルでつなぎ、力学的に安定させる方法。ケーブルは常に遠心力で円形に広がり各軌道エレベータを左右から引っ張るので、赤道上ならどこでも軌道エレベータを建設できる。