身長
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また、ホモ・ネアンデルターレンシスの身長は男性で166 cm、女性で154 cmくらいと推定されている[42]古代ギリシャのヒトの平均身長は男性で164 cm、女性で155 cmくらいだったとみられている[42]。 19世紀半ば以前は、身長には増加と減少の周期があったが[43]、骨格の検査では石器時代から1800年代初頭までの身長に有意な差は見られない[44]

経済学者ジョン・コムロスとフランチェスコ・チンニェッラの研究によると、18世紀前半のイギリス人男性の平均身長は165 cm、アイルランド人男性の平均身長は168 cmであった。イギリス人、ドイツ人、スコットランド人兵士の推定平均身長は 163.6 - 165.9 [cm] で、アイルランド人の平均身長は167.9 cmであった。北米の男性奴隷と受刑者の平均身長は171 cmであった[45]。また、1770年代後半のアメリカ生まれの植民地時代の兵士は、同時期に英国海兵隊に従軍していたイギリス人兵士よりも平均で7.6cm以上背が高かった[46]
身長の急上昇1897年のイギリスとアイルランドの男性の平均身長を示す地図。

一般的に、19世紀を通じて地域の身長レベルに大きな差はなかった[47]。 このような一様な身長分布の唯一の例外は、アングロサクソンの入植地地域の人々で平均よりも身長が高い人と、平均以下の身長を持つ東南アジアの人々であった。しかし、19世紀末から第一次グローバリゼーション期の中頃になると、豊かな国と貧しい国の間で身長が乖離し始めた[48]。バテンとブルーム(2014)は、19世紀には、身長の重要な決定要因は、その地域での牛・肉・牛乳の入手可能性と、その地域の疾病環境であったことを発見している[49]。しかし、20世紀後半になると、技術や貿易がより重要になり、農産物の地域的な入手可能性の影響が減少した。

19世紀半ば以降の150年間で、先進国の人間の平均身長は最大10cm増加している[50]。 しかし、こうした増加はほぼ横ばいになっているようである[44][50]1870年代初頭から1980年までのヨーロッパ15カ国の男性の平均身長を調査した所、1870年の平均が167.7cmだったのが1980年には177.8 cmになっている。国によって若干の差異があり、スペインは約163cmから約175cm、スウェーデンは約170 cmから約180 cmに伸びている[51][52]。埋葬物から得られたデータによると、1850年以前のオランダ・ライデンの男女の平均身長はそれぞれ166.7cmと156.7cmであったことが示されている。1865年の19歳のオランダの孤児の平均身長は160cmであったが[53]、今日のオランダ人は世界で最も身長が高く、若い男性の平均身長は183.8cmである[54]。18世紀から19世紀にかけて、北米のヨーロッパ系の人々は、ヨーロッパの人々よりもはるかに背が高く、世界で最も背が高かった[55]。 プレインズネイティブアメリカンの元々の先住民族もまた、当時世界で最も背が高かった人の1つであった[56]

日本では歴史を遡ると、成人男子の場合、縄文時代には156 cmから160 cmであったが、古墳時代には165 cmほどになり、平安時代初期にピークとなった以降は減少に転じ、江戸時代には157 cmと、歴史時代では最も低くなった。明治以降は増加に転じ急速に高くなった[注 4]

明治維新後には肉食の普及に伴って身長が伸びたとされる。この時代になるとナショナリズムや軍事上の理由もあって体格改良が国策となり、井上哲次郎は「体格に於ても、其他百般の事に於ても、多くは西洋人に劣る」「支那朝鮮二国よりも矮小なり」、三島通良は「野蛮人種ヲ除キ、最も矮小」と述べ、またその逆に海野幸徳は「日本人の矮小なるを恥づる必要もなきなり、身体の巨大なるものの中には愚人あり、白痴あり」と述べている[58]。東京帝国大学(現在の東京大学)男子学生を対象とした調査によると、1910年代から1940年代の30年間に3.1 cmの身長増加が認められ、同じく女子学生では1910年代から1950年代の40年間に3.4 cmの増加があり、戦前から男女共にほぼ10年間に1.0 cmという急速な身長の伸びが見られた事が分かる[59]

第二次大戦後には栄養状態が良くなりさらに伸び、1948年1994年の平均身長の比較では男子で約10 cm伸びて170.9 cm、女子で約6 cm伸びて158.1 cmに達した。しかし以降は高止まりしてむしろ数mm下がっており、日本人の身長のピークに達したと見られている[60]
急上昇の要因
栄養状態の改善

先進諸国での高身長化も含め、身長がどのような理由でどのように決まるかについては古今に様々な説があるが、一般には幼少期の栄養状態とその後の健康状態が身長の推移に影響を与えるといわれている[42]。ただし、身長の大小と栄養の間の相関性には不明な点も多い。近現代になって先進諸国では身長が大きくなったが、世界的には身長の高低と生活水準(文明)の高低は一致しないことが多いからである。例えば、世界の高い身長の集団はアフリカのサラ族(英語版。平均身長181.7 cm、以下同じ)、スマトラ島中央部のマレー人 (175.5 cm)、南米南部のパタゴンテウェルチェ族も参照。175.0 cm)、スウェーデン人 (174.4 cm) など、文化にも地域にも、共通点もまとまりもない[61]。一般に、コーカソイドは高身長の傾向があり、特に北欧に分布する北方人種は高い。モンゴロイドは中身長が多く、ネグロイドナイル川上流付近で平均180 cm以上の超高身長(サラ族、ディンカ族等)のものからネグリロ(ピグミー)のように150 cmを切るような超低身長まで幅広い変異を示す。こうした差異は生まれた時からあり、フランス人の新生児の身長の平均は50 cmなのに対し、インドシナ人の場合は46 cmしかない。人種あるいは地域によるこのような差がなぜ生じたのかは不明である。

2003年のユニセフによる「相次ぐ飢饉」による北朝鮮の栄養不良の影響に関する研究を引用した2004年の報告書では、若い成人男性の身長が著しく低いことが判明している。 対照的に、飢饉もなく「ますます西洋の影響を受けて食生活を楽しんでいる」韓国人は身長が伸びていた。身長差は、北の経済状況が南とほぼ同程度だった時期に育った40歳以上の韓国人にとっては最小限であり、一方で、身長格差は1990年代半ばに育った韓国人にとっては最も大きいもので、韓国人の身長が北よりも約12cmの身長差がある[62]。中国に亡命した北朝鮮の子供たちを対象とした韓国の人類学者による研究では、18歳の男性は栄養失調のために同年代の韓国人よりも13cm低いことがわかった[63]
社会階級

身長と実質賃金との間には相関関係が存在することが示唆されており、先進国ほど相関関係が高いことが示唆されている。興味深いことに、異なる社会階級の子どもたちの間では、子どもが2歳前後の時点ですでに身長の差が観察されていた[64]。インドネシアのデータを用いたバテン、シュテグル、ファンデルエンの研究では、経済発展と平均身長の正の関係が示唆されている[65]。インドネシアでは、人間の身長は自然または政治的ショックと同時に減少している[65]

アメリカ人とヨーロッパ人の平均身長は、急速な工業化の時期に減少したが、これはおそらく人口の急速な増加と経済的地位の広範な低下によるものである[66]。 これは、早期工業化成長のパズルとして知られているか、米国の文脈ではアンテベラム・パズルとして知られている。19世紀初頭のイギリスでは、イギリスの上流階級の若者(サンドハースト陸軍士官学校の学生)とイギリスの労働者階級の若者(マリン・ソサエティの少年)の平均身長の差は22 cmに達し、これまでに観測された中で最も高かった[67]

J.W. ドラッカーとビンセント・タセナールの研究によると、オランダ人の一人当たりの実質GNPが年平均0.5%以上のペースで成長していたにもかかわらず、1830 - 57年にかけてオランダ人の平均身長は減少した。減少が最も大きかったのは都市部で、1847年には都市部の身長減は2.5 cmとなっていた。また、都市部の死亡率は農村部よりもはるかに高かった。1829年には、都市部と農村部のオランダ人の平均身長は164 cmだった。1856年までには、農村部のオランダ人の平均は162 cm(5フィート3.8インチ)、都市部のオランダ人は158.5 cm(5フィート2.4インチ)であった[68]
その他の要因

栄養以外にも、照明の発達による昼間時間の延長がホルモン分泌に影響を与えた結果であろうとする意見もあるが[注 5]、現在でも決定的と言えるものはない。多くの要素が、中にはまだ知られていない原因も含めて複雑に影響し合っている可能性が考えられる。従って、巨人症や小人症のような明らかな異常の場合を除き、人為的に身長を制御する事(背を高くしたい云々)は困難な上、安易に行なうのは肉体的もしくは精神的に大きな危険を伴う恐れがある。また、成人の身長は集団間で大きく異なることがよくある。例えば、チェコ共和国の女性の平均身長はマラウイの男性よりも高い。これは、遺伝的な違い、幼少期の生活習慣の違い(栄養、睡眠パターン、肉体労働)、またはその両方が原因である可能性がある。

なお、身長の低下は、性別、遺伝、環境要因にもより、中年期から始まる人もいるが、高齢者には普遍的な傾向が見られる。


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