身長
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例えば、ある調査では、ドイツの最も身長の高い州と最も身長の低い州の間に10.8cmの差があることが示されている[86]。このような状況下では、異なる地域グループの加重平均を用いて、すべての地域から適切にサンプルを採取しなければ、平均身長は総人口を代表するものではない可能性がある。

社会集団によって平均身長が異なることもある。フランスの調査によると、エグゼクティブや専門職の身長は全国平均より2.6cm高く、大学生の身長は全国平均よりも2.55cm高くなっている[87]。この事例が示すように、特定の社会集団から得られたデータは、国によっては総人口を表していない場合がある。

比較的少数のサンプルが測定されている可能性があり、このサンプルが正確に全人口を表しているかどうかは不確かである。

人の身長は、測定の直前に行われた運動による身長の増加(通常は逆相関)や、かなりの時間に渡って横になってからの身長の増加(通常は逆相関)などの要因により、1日の間に変化することがある。例えば、ある研究では、朝にベッドから起きてからその日の午後4時から5時までの間に、100人の子供の身長が平均1.54 cm減少したことが明らかになっている[88]。このような要因は、いくつかの研究ではコントロールされていない可能性がある。

ボスニア・ヘルツェゴビナオランダクロアチアセルビアモンテネグロの男性は、平均身長が最も高い[89][90]。データによると、ヘルツェゴビナ人はオランダ人よりも5.08cm以上高い身長を持つ遺伝的潜在能力を持っていることが示唆されている。オランダでは男性の約35%がY ハプログループI-M170の遺伝的プロファイルを持っているが、ヘルツェゴビナではその頻度は70%異常となっている。この遺伝的傾向線を外挿してみると、ヘルツェゴビナの平均的な男性の身長は190 cmになる可能性があることがわかっている。一方で、多くのヘルツェゴビナ人は貧困のために身長が190 cmの高さに到達していない(ボスニア・ヘルツェゴビナの市民は、両親の両方が大学に行った場合の身長が1.9 cm高く、これは裕福さの指標と考えられている)。イスラム教徒のヘルツェゴビナ人の平均身長が低いのは、主にそれが原因の可能性がある[91]

ディンカ族は身長が高いことで注目されることがある。ルワンダツチ族とともに、彼らはアフリカで最も身長の高い民族であると考えられている[92]。ロバーツとベインブリッジは、1953年から1954年に測定された52人のディンカ・アガーの平均身長が182.6cmであることと、227人のディンカ・ルウェンの平均身長が181.3cmであることを報告している[93]。また、歴史的な身長データと栄養状態を比較した他の研究では、ディンカ族が世界で最も高い身長を持つ民族であるとされている。

身長と生活
人間工学上の設計

生活空間においては、ドアの高さやベッドの長さなど、身長を意識して設計されているものが多く、人間工学では身長は重要な要素の一つである。学童の体位向上(身長増加)により、学校で使用する机や椅子が合わなくなり、規格の変更が為される例もある。

自動車オートバイ飛行機などの乗り物においては、設計時に想定された操縦者の身長から大きく外れている体格の場合、乗降や操縦に重大な支障を来たす場合がある。座席や操縦に使用するインターフェイスの取替えなどによってある程度の身長差はカバーできるが、それでもなお過不足を生じる程操縦席と操縦者の身長のミスマッチが大きい場合、低身長や高身長が直接の障害となって、その乗り物への搭乗を断念しなければならない事態が生じうる。

マッサージチェアの対応する身長を 140 - 185 cmとするメーカーが多く、範囲から外れる場合は座布団を敷いたり体をずらすなどの工夫が必要となる[94][95]
身長制限

施設・設備によっては、安全上の理由から利用に身長制限を設けることがある。プール・遊園地の乗り物では、多くの場合に最低身長が定められている。子供向けの遊具・施設やスーパー銭湯(異性の子供)などでは、最高身長を制限しているところがある。年齢だと個人差が大きいし、身分証明書で確認をとるのは現実的ではない。※しかし子供運賃は平等にするため小学生(幼児は、大人1人あたり2人まで無料)であり、公衆浴場条例は身長表記だと適切でないので9歳以下(多くの県)となっている。

職種によっては、身長によって制限が設けられている職業がある。消防士は消防服のサイズが決まっているため多くの自治体で男子160 cm以上、女子155 cm以上としている。警察官は犯人の制圧などを遂行するため『体格基準』が規定されており各都道府県警によって異なるが、おおむね「男子160 cm以上」「女子150 cm以上」を基準としていた[96]。近年では志願者数の減少やサイバー犯罪に対処するサイバー捜査官など体力を重視しない職種も増えているため、健康であれば身長体重を不問とする動きが広がっている[97]。アメリカ軍のパイロットでは、160 - 200 cmの身長が求められ、座高は86 - 102 cmはなければならないとされている[98]力士新弟子検査は、身長167 cm以上(就職場所と言われる3月場所は中学卒業見込者に限り身長165 cm以上)が必要となる[99]

英国内情報機関の情報局保安部 (MI5) は2004年(平成17年)、「男性は身長180 cm、女性は173 cmを上回らないことが望ましい」との職員採用の新基準を設けた[100]。諜報活動においては、極端な長身は目立つため相応しくないものとみられる。
航空業界

航空機耐空証明などの保安基準があるため操縦席の交換が難しく、操縦士には体格の制限が設けられている。パイロットは男女共通で158 cm以上とする国が多く、軍隊では操縦席が狭い戦闘機を想定し190 cm以下という制限も設けていることが多い。これはアメリカ軍が第二次世界大戦時の徴兵でパイロットの採用基準とした『62インチ (約 157.5 cm) から75インチ (約 190.5 cm)』という成人男性の平均身長を元にした基準をそのまま使っているためである。アメリカ軍は多くの国の軍にも影響を与える存在であり、自衛隊では自衛官防衛大学校の採用基準が『男子155cm以上、女子150cm以上』であるが、操縦士候補生である航空学生のみ男女共通で『158 cm以上、190 cm以下』としている。

航空機メーカーではボーイングロッキード・マーティンなど軍用機・民間機の両市場で業界標準を主導するアメリカの企業が多く、他国のメーカーでもこの基準に倣うことが多い。法律面でも多くの国の航空機関は連邦航空局の基準を参考にしており、航空業界では民間は『62インチ以上』、軍は『62インチ以上、75インチ以下』が事実上の標準となっている。なおアメリカ空軍では現在、身長『63 - 79インチ』、座高『34 - 40インチ』の基準を採用している[98]

第二次世界大戦まではメーカーは自国の成人男性の平均身長を基準に設計していたため、零式艦上戦闘機のように当時の日本人男性の平均身長に合わせた結果、アメリカの成人男性ではラダーペダルが踏み込めないサイズとなり、飛行させるために座席を後退させるなどの改造が必要な機体も多い[101]

客室乗務員は会社ごとに異なるが、航空機に搭載される座席や救命胴衣などが『62インチ以上』の基準となっていることが多いため、おおむね62インチ前後である。例としてはシンガポール航空日本航空は158 cm、ユナイテッド航空は152.4 cmとなっている。韓国では、大韓航空を始め多くが162 cm以上としており、他国のものより厳格である。韓国国家人権委員会は、この身長制限は合理的な理由がなく、差別であるとして2008年に是正勧告を行っているが、2014年時点で大韓航空(女性乗務員)以外の会社は廃止している[102]。2015年には大韓航空の女性乗務員の募集要項から身長制限が廃止された[103]

宇宙開発初期には宇宙飛行士の多くが空軍パイロットであったため、NASAの基準も軍の基準(62インチから75インチ)で採用された人間に合わせた設計となり、民間出身者が増えた現在でも訓練で使用する練習機やシミュレータなどは過去の基準で作られているため、制限がそのまま引き継がれている。日本ではJAXAの規定は『149 cm以上、193 cm以下』という独自基準だったが、2008年度の募集からNASAや多くの宇宙機関で使われるアメリカ軍の基準(158 cm以上、190 cm以下)に変更している。さらに、船外活動では宇宙服のサイズの関係で165 cm以上が必要とされる[104]
ファッションモデル業界

スーパーモデルブランドコレクションショーなどに出演するモデルは、通常175cm以上の高身長である。雑誌に関しては身体のバランスがよければ特別な身長の高さは求められないが、170 cm前後を満たしているモデルが多い。また、雑誌・CMのモデルなどにはカメラの前での動きのよさや、いわゆるフォトジェニックであることも要求される。日本国外においていわゆるハイファッションの仕事をこなすモデル達は、ほとんどの場合これらの条件をクリアしている。
個人の身長の役割
身長と健康

研究によると、身長が低いことと平均余命が長いことには相関関係がある。また、低身長の人は低血圧である可能性が高く、がんになる可能性も低い。ハワイ大学は、加齢の影響を減少させる「長寿遺伝子」のFOXO3が、より小さな体格の個人においてより一般的に認められることを見出した[14]。低身長は慢性静脈不全のリスクを低下させる[15]。いくつかの研究では、身長が全体的な健康の要因であることが示されているが、身長が高いほど心血管の健康が良くなり、身長が低いほど寿命が長いことが示唆されている[105]。また、癌のリスクは身長とともに増大することもわかっている[106]

それにもかかわらず、身長と健康との関係に関する現代の西洋化された解釈では、世界的に観察された身長の変動を説明できない[107]カヴァッリ=スフォルツァは、世界的な身長の変動は、環境の違いによる進化的圧力に一部起因する可能性があると指摘している。これらの進化的圧力は身長に関連した健康影響をもたらす。ヨーロッパのような寒冷気候では背の高さが適応上の利点であるが、温暖気候地域では短さが体温の放散で役に立つ[107]。その結果、背が高いことと低いことの両方が異なる環境条件で健康利益を提供できるので、健康と身長の間の関係を容易に一般化することはできない。

身長と寿命の間の全体的な関係については、情報源の間で意見が一致していない。サマラスとエルリックは、「Western Journal of Medicine」誌で、ヒトを含むいくつかの哺乳類における身長と寿命の間に逆相関があることを示している[105]

身長が150 cm(4フィート11インチ)未満の女性では骨盤が小さく、出産時に肩甲難産などの合併症を起こすことがある[108]

2005年にスウェーデンで行われた研究は、スウェーデン人男性の身長と自殺の間には強い逆相関があることを示した[109]

ヒトや動物で得られた多くの研究によれば、体が短く小さいほど加齢が遅くなり、慢性疾患が少なく寿命が長い。例えば、ある研究では、「長寿命化」という主張を支持する領域が八つ見つかった。これらの領域には、長寿、平均寿命、100歳代、男性と女性の寿命の違い、より背の低い人における死亡率の利点、生存の知見、カロリー制限によるより小さな体の大きさ、および種内の体の大きさの違いに関する研究が含まれる。それらはみな、背の低い人は健康な環境と栄養状態で長生きするという結論を支持している。しかし、その寿命の差は小さい。ヒトを対象としたいくつかの研究では、0.5年/cmの身長低下(1.2年/インチ)が認められている。しかし、すべての背の高い人が若くして死ぬわけではない。多くは高齢まで生き、中には100歳以上になる人もいる[110]
身長と認知症

また近年の研究では、身長が高くなるほどアルツハイマー病になりにくいという研究結果が報告されている。デンマークのコペンハーゲン大学がjournal eLifeに報告し、2020年2月19日付のMedical News Todayに紹介された研究結果によると、平均身長175cmよりも6cm高い人は認知症になる危険が10%低くなり、調査対象者の知能指数や教育レベルなどの関係を調整しても、上述の結果はあまり変わらなかった[111]。イギリスのエディンバラ大学の研究でも身長が認知症リスクを左右する可能性があると発表し、2014年11月3日発行のデイリーメールが伝えた。平均身長1.7メートル以下の男性のアルツハイマー病発症率は50%以上高い事が判明した[112]
身長とスポーツ

多くのスポーツでは身長が高いことが有利に働く。特に、バレーボールバスケットボールなど高さを要求するスポーツでその傾向が顕著である[113][114]サッカーでもリーチや打点の高さなどの面で、長身[注 7]がキーパー、ディフェンダーといった守備的なポジションで有利となる。逆にフォワードなどの攻撃的なポジションでは低身長でも活躍している選手は多い。大相撲では新弟子検査の項目に身長があり、基準に満たない者は入門することができない[注 8]ラグビーのようにポジション毎に平均身長が異なる競技もある。

柔道ボクシングなどの格闘技では体重別に階級があるため、無差別級を除き、身長もある程度近い選手同士が対戦する事になる。

身長の低い選手の活躍を場を増やすためバレーボールでは全日本バレーボール小学生大会第1回大会(1981年)から後衛専門の選手を配置する特別ルール「バックセンター固定制」が取り入れられ[115]、後に国際ルールとしてリベロが制定された。バスケットボールのポイントガードマグシー・ボーグスのように低身長の選手もいるが、近年では大型選手も登場している[114]。サッカーではFWMFなどの攻撃的なポジションでよく見られる[116]

フェンシングでは、身長やリーチの差を瞬発力が補う場合があるという[117]。同じく武具を使用して一撃で勝敗に繋がる競技剣道も同様ではあるが、面に限れば身長が高いほうが有利になるとされる。

一方で、身長が高いことが不利に働く競技も少なからず存在する。競馬競艇モータースポーツなど動物や乗り物に乗る競技ではこの傾向が顕著である。可能な限り体重を落とす必要があるため、身長が低い競技者が有利となり、長身は圧倒的に不利になる。また、乗り物によっては余りにも長身であると、操縦席に身体が収まらない事態を生じる場合があり、結果としてその乗り物を使用する競技への志望を断念しなければならなくなる場合もある[注 9]


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