身体化
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元々はジークムント・フロイトヒステリー研究から考えられたものであり[2]、後に彼の娘のアンナ・フロイトが、父の研究を元に、キンダー・トランスポート(英語版)でイギリスに連れてこられたユダヤ人の子どもたちのケアをしながら行った児童精神分析の研究の中で整理した概念である。その経過は、アンナ・フロイト著作集の第7・8巻の「ハムステッドにおける研究 : 1956-1965」に詳しい。この研究の舞台になったハムステッドのクリニックは、今のアンナ・フロイトセンターである。

防衛機制には、発動された状況と頻度に応じて、健康なものと不健康なものがある[3]精神分析の理論では、防衛機制は無意識(スーパーエゴ)において行われ、不安や受け入れがたい衝動から守り、自分の自己スキーマを維持するためになされる、現実の否認または認知の歪みといった心理的戦略であるとされる[4]
防衛機制の仕組みと定義他の部分との関係性を含めた心の仕組みを説明する際には、氷山の比喩がよく用いられる

防衛には自我超自我に命令されて行うものと、自我それ自身が行うものとで分かれる。人間にはエス(イド)という心の深層があり、そのエス(イド)から来る欲動から自我が身を守ったり、それを上手く現実適応的に活用したりする方法が、防衛という形で現れる。防衛自体は自我の安定を保つ為に行われるので、健全な機能と言えるが、時にはそれは不快な感情や気分を人間に与えることもある。

ジークムント・フロイトにおける厳密な定義によれば、あらゆる欲動を自我が処理する方法が防衛である。よって人間は常に欲動を防衛している事になる。人間の文化的活動や創造的活動は全て欲動を防衛した結果であり、その変形に過ぎないとされている。しかし一般的には防衛は、自我(あるいは自己)が認識している、否認したい欲求や不快な欲求から身を守る手段として用いられると理解されている。

最初にフロイトが記述した防衛機制は「抑圧」である。アンナ・フロイトは主要な防衛機制として、退行抑圧、反動形成、分裂、打ち消し、投影取り入れ、自己への向き換え(自虐)[注 1]、逆転[注 2]昇華の10種類を挙げている。またフロイトの弟子であるメラニー・クラインは、分裂投影同一視取り入れなどの原始的防衛機制の概念を発展させた。
原始的防衛機制

原始的防衛機制とは、自我の分離 - 固体化が見られる以前から見られる、生後5か月くらいまでの乳幼児でも用いることが出来る基礎的な防衛機制の総称である。自我心理学が発展したアメリカに対し、イギリスでは対象関係論が発展し、フロイトの弟子であったメラニー・クラインが児童分析や重い病理を持つ者の精神分析をしていく中で、この原始的防衛機制を発見し概念化した。対象関係論の「対象関係」とは、主である自分と対象(人間を含む)との関係のことである。フロイトは人間の超自我は4 - 5歳頃に形成されると考えていたが、クラインは、超自我の形成は母子関係が重要な意味を持つ生後1年以内であるとし、母親との対象関係を通じて超自我が発達すると説いた。

クラインの記述した原始的防衛機制は、分裂、否認、投影同一視、原始的理想化、躁的防衛などがあった。
道徳的合理化

研究によると、道徳の合理化は人間の普遍的な心理的傾向の一部であることが示唆されている。この傾向は、文化や社会的な背景に関係なく存在する可能性がある。道徳の合理化は、一般的には識別度の低い状況でより頻繁に発生する。人々は、自分の行動や信念を正当化し、説明するために、より曖昧な状況を好む傾向がある。人間の心理は、しばしば自己の行動を合理化しようとする。道徳の合理化は、この心理的なメカニズムの一つである。人々は、自分たちの行動が道徳的であると信じることで、自尊心を保ちながら行動することができる。自己イメージを保護するための防御的なメカニズムとしても機能する。人々は、道徳的な価値観に反する行動を取った場合でも、自分自身を正当化するために、その行動を合理化しようとする。道徳の合理化は、個人の意思決定や行動の根底にある理由を説明する際に、よく見られるパターンである。人々は、自分たちの行動をより良く見せるために、合理的な理由や道徳的な原則を引用することがある。道徳の合理化は、個人や社会のエゴイズムを支える要素とも関連している。自己利益を最大化するために行動する人々は、その行動を道徳的に正当化することで、自分たちを正当化しようとする[5]
Vaillantによる防衛機制の分類

防衛機制は、階層的に分類することができる[6]。以下にヴァイラントの4分類に従って示す[6]
レベル1、精神病的防衛

自己愛的精神病的防衛とも[6]

転換(Conversion) - 抑圧された衝動や葛藤が、麻痺や感覚喪失となって表現される。手足が痺れたり、失立失歩(脱力し立ったり歩けなくなる)、声が出なくなる失声症視野が狭くなる、嚥下困難、不食や嘔吐などの症状が出る。

否認(Denial)- 不安や苦痛を生み出すようなある出来事から目をそらし、認めないこと[6]。「抑圧」はその出来事を無意識的に追い払うものだが、「否認」は出来事自体が存在しないかのような言動をとる。特に「原始的否認」は分裂を強化するような性質の否認を指す。理想化や脱価値化は、原始的否認を背景とし、また否認を強化する。

代替

歪曲(Distortion)- 内面ニーズを満たすよう外部の現実を再構成する[6]

投影(Projection)- 自分の内面にある受け入れがたい感情や欲動を、自分のものとして認めず、外部に写し出すこと[6]。これは明らかな妄想(迫害されるという被害妄想)の形を取る(精神病性妄想)[6]。妄想的投影(Delusional projection)。たとえば「私は彼を憎む」が「彼が私を憎む」になる[7]

分裂(Splitting, スプリッティング, スプリット) - 対象や自己に対しての良いイメージ・悪いイメージを別のものとして隔離すること。「良い」部分が「悪い」部分によって汚染、破壊されるという被害的な不安があり、両者を分裂させ、分けることで良い部分を守ろうとする。抑圧が「臭いものにフタをする」のに対し、分裂は「それぞれ別の箱に入れて」しまう。分裂させた自己の悪い部分は、しばしば相手の中に「投影」される。

躁的防衛(Manic defence) - 自分の大切な対象を失ったり、傷つけたりしてしまったと感じた時に生じる不安や抑うつなどの不快な感情を意識しなくするために行う。「優越感(征服感)」「支配感」「軽蔑感」の三つの感情に特徴づけられ、自分は万能であり相手を支配できると思い込んだり、逆に相手の価値をおとしめたりする。うつ気分を逆転させた躁の気分で抑うつの痛みを振り払おうとする。

レベル2、未熟な防衛

行動化(Acting out)- 抑圧された衝動や葛藤が問題行動として表出すること[6]。具体的には性的逸脱行動自傷行為、自殺企図、暴言暴力過食拒食浪費万引き薬物依存アルコール依存などが挙げられる。

途絶(Blocking)[6]

病気不安症(Illness Anxiety Disorder)[6] - 深刻な病気への過度の心配や思い込みの状態

取り入れ(摂取, Introjection)[6] - 投影と逆で、他者の中にある感情や観念、価値観などを自分のもののように感じたり、受け入れたりすること。特に他者の好ましい部分を取り入れることが多い。発達過程においては道徳心や良心の形成に役立つ。しかし度が過ぎると主体性のなさに繋がったり、他人の業績を自分のことと思い込んで満足する(自我拡大)、自他の区別がつきにくい人間となる。「相手にあやかる」[7]

シゾイド幻想(Schizoid Fantasy)[6] - 内部や外部への葛藤を解消するため、妄想へと退化する

理想化 - 自己と対象が「分裂」している状態で、分裂させた一方を過度に誇大視して「理想化」すること。分裂されたもう一方は「脱価値化」を伴う。高次の「理想化」は、対象の悪い部分を見ないようにすることで自分の攻撃性を否認し、それに伴う罪悪感を取り去るのに対し、「原始的理想化」は、対象の悪い部分に破壊されないようにその部分を認識しないようにする。

受動的攻撃行動[6] - サボタージュ[要曖昧さ回避]など。


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