起輦谷
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例えば『蒙古源流』では、「主の黄金の亡骸をアルタイ・ハン山の南、ケンテイ・ハン山の北に、イェケ・オテクという地に葬ったという」と記され、多くのモンゴル年代記で同様の記述がなされている[4]。「otuk」とは突厥の聖地「ウテュケン山」とも共通する語彙で、『元朝秘史』 では主に「高地」と訳される。また、『元朝秘史』には「otugen eke=地母」という用例もあり、yeke otukとは「大地母神山」を意味する地名で、「チンギス・カンの葬られた聖なる山」として起輦谷=クレルグ山がモンゴル人の信仰の対象となった結果、後世になってつけられた呼称であると考えられている[5]

以上の記述を総合すると、チンギス・カンの埋葬地の呼び方について「ケルレン河の源流地であるブルガン・カルドゥンには『クレルグ山』という山があり、これを漢文史料では『起輦谷』と表記した。起輦谷=クレルグ山の中には垣で囲まれた『大禁地』と呼ばれる聖地があり、その一角にモンゴル帝国歴代皇帝の墓所が作られたが、その地は極秘の場所として限られた者にしか知られていなかった。後世のモンゴル人はチンギス・カンと歴代皇帝が葬られた一帯を尊崇して『大地母神山』と呼んだ」と総括することができる。
起輦谷に葬られた歴代カアン
チンギス・カン/太祖テムジン(初代カアン)[6]

太宗オゴデイ(第2代カアン)[7]

定宗グユク(第3代カアン)[8]

憲宗モンケ(第4代カアン)

セチェン・カアン/世祖クビライ(第5代カアン、大元ウルスとしては初代皇帝)[9]

オルジェイトゥ・カアン/成宗テムル(第6代カアン、大元ウルスとしては2代皇帝)[10]

クルク・カアン/武宗カイシャン(第7代カアン、大元ウルスとしては3代皇帝)[11]

ブヤント・カアン/仁宗アユルバルワダ(第8代カアン、大元ウルスとしては4代皇帝)[12]

ゲゲーン・カアン/英宗シデバラ(第9代カアン、大元ウルスとしては5代皇帝)[13]

泰定帝イェスン・テムル(第10代カアン、大元ウルスとしては6代皇帝)[14]

クトクト・カアン/明宗コシラ(第11代カアン、大元ウルスとしては7代皇帝)[15]

ジャヤガトゥ・カアン/文宗トク・テムル(第12代カアン、大元ウルスとしては8代皇帝)[16]

寧宗リンチンバル(第13代カアン、大元ウルスとしては9代皇帝)[17]

ウカアト・カアン/順帝トゴン・テムル(第14代カアン、大元ウルスとしては10代皇帝)[18]

脚注^ イリンチン1989
^ 例えばaltanは「按檀(antan)」、oljeiは「完沢(wanze)」と表記され、元音がlの個所がn音となっている(イリンチン1989)
^ 『黒韃事略』「其墓無冢、以馬踐蹂、使如平地。若?没真之墓、則挿矢以為垣、邏騎以為衡」
^ 岡田2004,139頁
^ ブヤンデルゲル1997
^ 『元史』巻1太祖本紀,「太祖法天啓運聖武皇帝、諱鉄木真……寿六十六、葬起輦谷」
^ 『元史』巻2太宗本紀,「太宗英文皇帝、諱窩闊台……在位十三年、寿五十有六。葬起輦谷」
^ 『元史』巻2定宗本紀,「定宗簡平皇帝、諱貴由……在位三年、寿四十有三。葬起輦谷」
^ 『元史』巻17世祖本紀17,「癸酉、帝崩於紫檀殿。在位三十五年、寿八十。親王・諸大臣発使告哀於皇孫。乙亥、霊駕発引、葬起輦谷、従諸帝陵」
^ 『元史』巻21成宗本紀4,「[大徳]十一年春正月丙寅朔、帝大漸、免朝賀。癸酉、崩於玉徳殿、在位十有三年、寿四十有二。乙亥、霊駕発引、葬起輦谷、従諸帝陵」
^ 『元史』巻23世祖本紀2,「[至大四年春正月]庚辰、帝崩於玉徳殿、在位五年、寿三十一。壬午、霊駕発引、葬起輦谷、従諸帝陵」
^ 『元史』巻26仁宗本紀3,「辛丑、帝崩於光天宮、寿三十有六、在位十年。癸卯、葬起輦谷、従諸帝陵」
^ 『元史』巻28英宗本紀2,「[至治三年]八月癸亥……遂弑帝於行幄。年二十一、従葬諸帝陵」
^ 『元史』巻30泰定帝本紀2,「[致和元年秋七月]庚午、帝崩、寿三十六、葬起輦谷」
^ 『元史』巻31明宗本紀,「[天暦二年八月]庚寅、帝暴崩、年三十、葬起輦谷、従諸陵」
^ 『元史』巻36文宗本紀5,「[至順三年八月]己酉……帝崩、寿二十有九、在位五年。癸丑、霊駕発引、葬起輦谷」
^ 『元史』巻37寧宗本紀,「[至順三年十一月]壬辰、帝崩、年七歳。甲午、葬起輦谷、従諸陵」
^ 『元史』巻47順帝本紀10,「又一年、四月丙戌、帝因痢疾?於応昌、寿五十一、在位三十六年。太尉完者・院使観音奴奉梓宮北葬」

参考文献

岡田英弘『蒙古源流』
刀水書房、2004年

白石典之 編『チンギス・カンとその時代』勉誠出版、2015年

イリンチン(亦隣真)「起輦谷和古連勒古」『内蒙古社会科学(文史哲版)』第03期、1989年

ブヤンデルゲル(宝音徳力根)「成吉思汗葬地『大斡禿克』及相関的幾個問題」『内蒙古社会科学(文史哲版)』第02期、1997年


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