赤血球
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しかし、出血などで鉄を多く失うとヘモグロビンの合成に必要な鉄分が不足し、一般的には鉄欠乏性貧血の典型として赤血球は小型であったり低色素型になる[75]

ビタミンB12 はコバルトを含むビタミンの総称で、ある種のバクテリアしか生産することはできないが、食物連鎖によって動物は十分な量の B12 を体内に持っており、ヒトも肉類、魚類、乳製品などの動物性食品を食することで B12 を取り入れるので普通の状態では体内に数年分の量の B12 を貯えている。B12 は食物ではタンパク質と結び付いているが、胃酸によってタンパク質から遊離し、胃壁から分泌される内因子 (IF) と B12 とが膵液の作用によって結び付くことで B12 は回腸から吸収されるようになる。したがって胃の切除者、萎縮性胃炎での内因子分泌障害(悪性貧血)などで内因子が不足したり、あるいは腸の吸収障害、あるいは極端な菜食主義者などでは数年ののちに B12 は不足する。B12 が不足すると細胞の DNA の合成が障害されて、赤血球系造血では巨赤芽球(その名の通り巨大な赤芽球)が産生され、それは正常な赤血球に分化できないため無効造血となり巨赤芽球性貧血に陥る[76][77]

葉酸はレバー、緑黄色野菜、果物などに含まれている水溶性ビタミンであるが、B12 と共に働いて赤血球の成熟に関わる。通常では葉酸は食物から酵素の働きで空腸から吸収され、体内に数か月分の量が貯えられているが、何らかの理由で不足すると B12 の不足と同様に赤血球は DNA の合成が阻害され、正常な成熟ができずに巨赤芽球性貧血になる[78]
赤血球の変形
浸透圧による変形血漿の浸透圧による変化

赤血球は外部からの力が掛からずとも、様々な要因で変形することがある。赤血球膜には水分を効率的に輸送する輸送タンパク質アクアポリンがあり、浸透圧の低い、例えば真水に赤血球を入れると赤血球は水を吸収して膨らみ、赤血球膜が膨張の圧力に耐えられなくなると終いには破裂する(溶血)。逆に濃い塩水中などでは赤血球は水分を失う。人の生理食塩水(等張液)は0.9%だが、正常な赤血球は食塩水では濃度0.5%が溶血するかしないかのギリギリの濃度である。0.48-0.5%で溶血し始め、0.4-0.42%で50%が溶血し、0.33-0.35%ですべて溶血する[注 12][79][80]。遺伝性球状赤血球症などのように赤血球膜に異常があり脆弱であると、膨張に耐える力が弱いためにより容易に溶血する[79]
疾患による変形

ウニ状赤血球または金平糖の様な形状の有棘赤血球は解糖系酵素異常症尿毒症、血清βリポ蛋白欠乏血症、肝機能障害、便秘や下痢など腸の異常時などに現れ[81]、涙滴状の赤血球は骨髄線維症や癌の骨転移で現れる[82]。各種の溶血性疾患などでは粉々にされ破片となった破砕赤血球が見られ[83]、ある種の遺伝性の貧血病では鎌状赤血球が見られる[84]。赤血球が破裂したり、膜異常などで赤血球が壊れることを溶血と言い、大量に溶血すると貧血を招くばかりでなく、赤血球の内部に高濃度に存在していたカリウムが放出され一時的に高カリウム血症になる。元々高カリウム血症の者が大量の溶血を起こすと高カリウム状態が高度になり徐脈不整脈など心臓の異常が出現し最悪死に到る[注 13][85]。さらにヘモグロビンが分解される過程で生じるビリルビンによって高ビリルビン血症となり黄疸を生じ、特に出生時低体重児では生命の危険を伴うことがある[86]涙滴赤血球鎌状赤血球

赤血球に影響が現れる主な疾患

赤血球に影響が現れる疾患は無数にあるが、その中で成書において赤血球系の疾患として取り上げられた主なものを記す[87]

汎血球減少性疾患
再生不良性貧血骨髄異形成症候群急性白血病など

主に赤血球数もしくはヘモグロビン量が減少する疾患
赤芽球癆、腎性貧血、巨赤芽球性貧血鉄欠乏性貧血、無トランスフェリン血症、鉄芽球性貧血自己免疫性溶血性貧血[88]鎌状赤血球症[注 14]サラセミア発作性夜間ヘモグロビン尿症、脾機能亢進症など

赤血球数が増加する病気(多血症[注 15]
真性多血症など

色素代謝異常
ポルフィリン症メトヘモグロビン血症など
赤血球とレオロジー「レオロジー」、「ヘモレオロジー」、および「血液サラサラ」も参照

血液の粘稠性(ねばりけ)は、血液中の細胞成分によって規定される。中でも細胞成分の大部分を占める赤血球は、血液の物性を決定する因子として重要である。一般に流体の物性を定量化する学問領域をレオロジーと呼び、血流に関するものは特にヘモレオロジーと称される。この節ではヘモレオロジーのうち、赤血球に関する議論を概説する。

赤血球は生体では血管という管の中を血漿という流体に乗って流れ、その形状と柔軟性で肺や組織内の毛細血管を通過し循環しているが、血漿の浸透圧の低下や赤血球細胞膜の変質、薬剤の影響、各種疾患などで、赤血球形状がコンペイトウ形や球状に変形すると赤血球の変形能が低下して毛細血管を通過しにくくなり、あるいは赤血球が流れにくくなるため血液粘度が上昇し血圧が上昇したり血栓を起こしやすくなったりする[17][89][90]。また逆に浸透圧の上昇や薬剤の影響、各種疾患などで形状が扁平や奇形形状などの形態変化を起こしても赤血球の変形能は低下する[17][89]左が正常の赤血球 (a)、右は赤血球の連銭形成 (b)。文字通り、コインを積み重ねたように集合している。

また、赤血球表面はシアル酸で覆われ陰性荷電しているため、赤血球同士は陰性荷電同士が反発し合うので赤血球同士が接着することは通常はない[91]。しかし、血管内の低ずり応力領域内では高分子化合物の影響により血液粘度が上昇し、赤血球がコインを積み重ねたような状態(連銭形成、rouleau formation)になることがある[91][92][93]

ずり応力とは流体力学・ストークスの関係式で説明される力で、円筒管内を流れる流体の速度は管壁近傍では遅く、円筒管中央では早く、またその流速度の変化率は管壁に近いほど大きい。このとき生じる速度差によって生じる力がずり応力である[92]。したがって、流れの遅い血管、あるいは血管の中央付近では赤血球に掛かるずり応力は小さくなり、血管壁付近や血流の早い血管内ではずり応力が大きくなる。ずり応力が小さいと赤血球は集合しやすく、しかし、一旦集合した赤血球もずり応力が大きくなると分離する[91][93]


ストークスの関係式
いま、半径 r、長さ l の円筒管内に圧力差 ΔP で流体を流す。ΔP / l は圧力勾配になる。流れの方向に円筒管に働く外力(管の両端に働く力の差)は、πr2ΔP である。この流れとは逆方向に、円筒管内の流体の側面に対して接線応力が働いている。この力は、単位面積当りの接線応力(ずり応力 τ)と側面の全面積 (2πrl) の積 2πrlτ である。両者の力は釣り合っているので πr2ΔP = 2πrlτ となる。したがって、ずり応力 τ は τ = ΔP / 2l × r と表現される。-引用 菅原基晃、前田信治 共著『血液のレオロジーと血流』コロナ社、2003年、p.8-9

上記で説明されたようにずり応力 τ は血流が遅いほど、あるいは血管の中心に近いほど小さい。

ずり応力が小さくなると赤血球が集合し連銭形成する機序は正確には分かっていないが、血漿中のトリグリセリド(中性脂肪)、フィブリノーゲン免疫グロブリン(特に IgM)、その他高分子タンパク質が多いと赤血球は集合しやすい。中でも多発性骨髄腫・原発性マクログロブリン血症などで作られる病的な高分子タンパク質は特に赤血球を集合させることが知られている。また、赤血球の変形能が低下していても集合しやすい[91]


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