赤血球
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前赤芽球は直径が 20-25μm で前の段階の前駆細胞より大きくなり、赤血球への分化・成熟の段階で一番大きい細胞であり、顕微鏡観察で赤血球への分化の方向が明らかな最初の段階の細胞であり、核構造は繊細で、細胞質は塩基性[注 8]が強く、リボゾームが多い[52]

好塩基性赤芽球では大きさは前赤芽球より小さくなり(この後の段階でさらに小さくなり続ける)16-18μm ほどであり、前赤芽球ほどではないが細胞質は塩基性であり、核構造はやや粗くなる[52]

多染性赤芽球ではヘモグロビンの合成が開始され[54]、ヘモグロビン量が増えるにつれ細胞質の塩基性は弱くなり、細胞はさらに小さくなり、核構造は凝縮しさらに粗くなる。この段階でも弱いながらも細胞分裂能を残している[52]

正染性赤芽球では細胞分裂能は失われ細胞核は凝縮し細胞質は赤血球に近くなる。直径は 10-15μm でやがて細胞核が脱落して赤血球に成熟する[52]

これらの幼若な段階の細胞、造血幹細胞、前駆細胞、赤芽球は骨髄にのみ存在する。骨髄にはバリアがあり、幼若な血液細胞は骨髄から出ることができず、脱核して赤血球になって初めて血液中に出ることができるため、通常は末梢血では有核の赤芽球は観察されない。

正染性赤芽球から核が脱したばかりの若い赤血球では、まだリボゾームが残っており、ニューメチレンブルーによる超生体染色を行うとタンパク質と RNA の複合体であるリボソームがその他の細胞内小器官を巻き込みながら網状に凝集し、凝集したリボソームの RNA が青く染まり、顕微鏡観察では網状に見えるので網赤血球と呼ぶ。網赤血球の段階でも 10%-30% ほどのヘモグロビンが合成される。網赤血球は骨髄内に2日ほど留まり、その後血液中に移動して1-2日ほどでリボソームやミトコンドリアが抜け落ちて成熟し完成した赤血球になる[51]。通常、網赤血球は赤血球の 0.5-1.5% 程度であるが、造血が盛んになると若い出来立ての赤血球である網赤血球の割合が増え、骨髄での造血機能が衰えると網赤血球の割合が減る。

赤血球は骨髄造血幹細胞から作られるが、その分化・成熟には骨髄においてマクロファージが大きく関わっている。骨髄において、赤血球の幼若な段階である赤芽球はマクロファージを中心にその回りを取り囲むように数個から数十個が集団で寄り集まっている。中心に存在するマクロファージは赤芽球に接し、ヘモグロビンの合成に不可欠な鉄や細胞の生育に必要な物質を供給し、成熟をコントロールし、また脱核させた核の処理や、不要になった赤血球細胞の除去にも関与している[51][55]。この、骨髄内においてマクロファージを中心に赤芽球が集まり、赤血球の形成に関わっている細胞集団を赤芽球島もしくは赤芽球小島という[51]
胎児における造血

以上で説明しているのは出生後のヒトの造血であるが、胎児の造血は出生後とは様相が違う。まずは胎生15-18日頃に卵黄嚢において一次造血が始まり胚型赤血球が産出される。胚型赤血球は胎生4週以降血液循環を行って酸素を運搬する。一次造血で産出される胚型赤血球は胎生5-6週頃から始まる二次造血による胎児型赤血球および成体型(出生後の)赤血球とは大きく異なる。胎生初期に卵黄嚢で作られる胚型赤血球は胎児型赤血球および成体型赤血球と比べて4-5倍の大きさがあり、成熟しても脱核はせず有核である。形態的には赤芽球に似るが、胚型赤血球のヘモグロビンは胎児型ヘモグロビンとも出生後の赤血球のヘモグロビンとも違うものである[注 9]。この胚型赤血球は胎生10週頃には消滅する。ヒトでは胎生5-6週目辺りから肝臓での造血が始まる。この肝臓で始まる造血で生み出される赤血球は成人の赤血球と同じ造血幹細胞から産出され、同じ大きさ・構造であり、赤血球の細胞核は脱核する。この胎児型赤血球はヘモグロビンこそ主として胎児型ヘモグロビンで成体型とは違うものの出生後の造血に直接繋がるものであってこれを二次造血という。肝臓での造血は3-6ヶ月頃は造血の中心であり、胎生6-7ヶ月で肝臓での造血はピークに達する。また脾臓での造血も加わる。これらの肝臓・脾臓での造血はピークを迎えた後に減少し出生時には終了する。骨髄での造血は胎生4ヶ月頃から始まり徐々にその役割を増していく。6-7ヶ月以降は骨髄が造血の中心となり出生時には唯一の造血器官となる[56][57][58]。胎児の赤血球では妊娠のごく初期には胚型ヘモグロビンを含むが、まもなく胎児の赤血球は胎児型ヘモグロビン (HbF) を含むようになる。妊娠期間の大部分では胎児の赤血球のヘモグロビンは胎児型ヘモグロビン (HbF) が大半を占め、成体型ヘモグロビン (HbA) はわずかであるが、出生が近づいていくにつれ成体型ヘモグロビン (HbA) は急激に割合を増していく[59][60]。妊娠中期にはヘモグロビンのほとんどを占めていた HbF は、出生時にはヘモグロビンの60-80%になり[61]、あるいは別の資料では妊娠末期の臍帯血のヘモグロビンでは平均で83%が HbF であるとされるが[60]、出生後には急激に HbA に置き換わっていき、生後6ヶ月では HbF は3%程度まで減り、成人のヘモグロビンでは HbA が97%、HbA2 が2%、HbF は1%以下の割合になる[61]。HbF は HbA より高い酸素親和性を持ち、胎内での低い酸素濃度下での酸素運搬に適している(HbA は酸素濃度の高い環境(肺呼吸)での酸素運搬に適している)[62]
エリスロポエチン詳細は「エリスロポエチン」を参照

骨髄では1日あたり2000億個弱の赤血球を生み出すが、骨髄にはこれの3-5倍の赤血球産出能力があり、貧血などで低酸素状態になると赤血球の産出は盛んになる[1]造血幹細胞から赤血球などの血液細胞の分化・増殖には40種類以上の因子が関わるが、とくに赤血球の増殖にはエリスロポエチン (EPO) が大きく関わる[63]。エリスロポエチンは分子量約34kDa の糖蛋白質であり主に腎臓(一部は肝臓)で産出される[64][65]。貧血や慢性の肺疾患、空気の薄い高地での生活などで慢性の低酸素状態になると腎臓ではエリスロポエチンを盛んに産出するようになる。赤血球の造成の途中の段階である CFU-E(後期赤血球系前駆細胞)は非常にエリスロポエチンの感受性が高くエリスロポエチンを受け取ると細胞分裂能を高め、赤血球の数的増加に結びつく。やがて赤血球の数量が増え、貧血などの低酸素状態が改善されると腎臓ではエリスロポエチンの産出が減少し、したがって骨髄での赤血球産出も落ち着くようになる[65]。しかし慢性腎不全などで腎臓の機能が低下している患者では EPO の産出が減り、貧血になっても赤血球の産出が亢進されず貧血が改善されない[66]
破壊

赤血球は血液中で約120日働くと老化し、老化した赤血球は脾臓でマクロファージに捕捉・貪食され分解される。分解された赤血球の構成材のアミノ酸の多くや鉄は回収され再利用されるが、ヘムの分解代謝物であるビリルビンは胆汁もしくは尿として排出される。

赤血球が老化すると嫌気性解糖系のエネルギー産出が衰え、そのために細胞膜上の Na+, K+ ATPaseタンパク質や Ca2+ ATPaseタンパク質が働かなくなりイオンバランスが崩れるため細胞質は水分が減少し赤血球の変形能も衰えてくる。すると老化赤血球は脾臓や肝臓・骨髄の血管内に張り巡らされている網内系と呼ばれる血管内腔を覆う細網細胞と付随する細網線維による網目構造状の組織につかまるが、そこには老化赤血球を捕捉・貪食するマクロファージが待ち構えている[67][68]

赤血球の細胞膜に存在する膜縦貫タンパク質であるバンド3 は若い赤血球では間隔を空けて存在し、バンド3 から赤血球表面に露出している糖鎖には、それに対応する自然抗体(抗バンド3IgG抗体)が存在するが、この自然抗体はバンド3 の糖鎖が十分な間隔を置いている場合(単独の糖鎖)には親和性が低く結合することができない。しかし、赤血球が老化してくるとヘモグロビンの酸化物(この酸化物は、ヘムに酸素を取り入れたオキシヘモグロビンではない)が増え、ヘモグロビン酸化物はバンド3 の細胞質側に結合する。さらにバンド3に結合したヘモグロビンの酸化物はお互いに架橋し、バンド3 を凝集させる。バンド3 が凝集すると細胞表面の糖鎖も凝集し、凝集した糖鎖は抗バンド3IgG抗体との親和性が高いので抗体が結合することができるようになる。脾臓には抗バンド3IgG抗体に対するレセプターを持つマクロファージが存在し、凝集糖鎖に抗バンド3IgG抗体が結合した老化赤血球はマクロファージに容易に認識・捕捉されるようになる。このような過程で老化した赤血球は取り除かれると考えられている[67][69]

また、若い赤血球では脂質2重層を構成するリン脂質であるホスファチジルセリン (PS) は2重層では赤血球膜内面・細胞質側に多く存在するが、赤血球が老化し嫌気性解糖系のエネルギー産出が衰えてくるとホスファチジルセリンを膜内面側に移動させていた酵素flippase の働きも衰えホスファチジルセリンは膜表面に多く現れる。この赤血球膜外面側表面に多く現れたホスファチジルセリンもマクロファージによる貪食の標的になると考えられている[67][34][38][70]
赤血球と臨床
赤血球に関する基準値

赤血球に関する一般的な項目の基準値[注 10][2]を挙げる。


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