赤血球
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α鎖スペクトリン (Spectrin) と β鎖スペクトリンが連結した一本の線状のタンパク質が並んで2本絡まった長さ 200nm のひも状のタンパク質(α鎖2本β鎖2本の4量体スペクトリン)が、4.1タンパク (Band4.1) やアクチン (Actin) など[注 7]のタンパク質によって連結され網状になり脂質二重層に接するように存在するのが膜骨格である[30]。スペクトリンは収縮性に富み、伸びきると4量体で 200nm の長さが普段はスプリングのように40nm程度に収縮し、その収縮したスペクトリンが網状に連結された膜骨格はアンキリン (Ankyrin) や4.1タンパクによって膜縦貫タンパク質・バンド3タンパク (Band3) やグリコフォリン (Glycophorin) に結合され脂質二重層にぶら下がるように接している[42]

この膜骨格は赤血球が狭い毛細血管に入り込むときに変形するとスプリングが伸びたような状態で赤血球の変形に対応し毛細血管をくぐり抜けた後には収縮して赤血球の形を保つ[42]。この脂質二重層の細胞膜を膜骨格が裏打ち補強している構造が赤血球膜の柔軟性と安定性をもたらしている[30]
表面タンパク

赤血球の役割は酸素や二酸化炭素の輸送であり、そのために赤血球膜では酸素 (O2)二酸化炭素 (CO2)重炭酸イオン (HCO?
3)
の交換が重要であり、また細胞の維持に必要なグルコースや各イオンなどの交換も重要である。

赤血球膜縦貫タンパク質であるバンド3は一つの赤血球に120万個あり赤血球膜縦貫タンパク質では最も多いが、赤血球膜に適度な間隔をおいて存在し、脂質二重層と膜骨格のアンカーの役とともに重炭酸イオンと塩素イオンの交換や一部の有機物の輸送を行っている。グルコースやナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどはその他の赤血球膜縦貫タンパク質によって輸送され、酸素分子や二酸化炭素分子などの電気的に中性で小さな分子は脂質二重層を直接通過する[30][43][44][45]

主要な赤血球膜上の物質輸送機関[44][46]物質輸送機関被輸送体輸送方法
脂質二重層

酸素 O2、二酸化炭素 CO2受動輸送(単純拡散)
Na+, K+ ATPaseタンパク質

(adenosine triphosphatase)Na+ と K+Na+ と K+ の交換を行う能動輸送(対向輸送)
Ca2+ ATPaseタンパク質

(adenosine triphosphatase)Ca2+Ca2+ の能動輸送(単輸送)
バンド3タンパク質

(anion exchange protein)HCO?
3, Cl?, ピルビン酸など受動輸送(陰イオン交換体)
バンド4.5タンパク質

(glucose transporter)グルコース受動輸送(促進拡散)
アクアポリン

(aquaporin)H2O(水)選択通過チャネル(選択透過孔)

上記以外にも多くのトランスポーターレセプターが赤血球膜にはあることが報告されている[47]

また、これらの赤血球膜縦貫タンパク質は血液型抗原にも関係している。一例では AB型はバンド3 とバンド4.5タンパクの赤血球膜外構造である糖鎖構造が抗原になっている[48]

また、物質輸送には関わらないが、赤血球膜状には膜貫通タンパク質であるグリコホリンが100万個[49]ほど存在する。赤血球膜上ではバンド3についで多いタンパク質であるが、グリコホリンの細胞質側は膜骨格に連結されアンカーの役を果たし、赤血球外面に出た部分には大量の糖鎖を有している[50]。糖鎖の先端にはシアル酸があり、シアル酸は COOH基を持つために陰性荷電しているので同じく陰性荷電している赤血球同士や血管内皮細胞との接着を防いだり、同じく陰性荷電している細菌の侵入を防ぐ働きを持っている。

※バンド4.1 や 4.5 などは名称は似ているが、電気泳動分析のバンド番号であり、分子量による命名であって、それぞれは異なるタンパク質である。
生成と破壊
生成血液疾患のために血液中に現れた赤芽球。右上に2つある有核細胞のうち丸い核のものが好塩基性赤芽球、左下にある2つの有核細胞の大きいほうが多染性赤芽球、小さいほうが正染性赤芽球。一番右上と右下のいびつな核の細胞は白血球である。造血幹細胞とその細胞系統
通常骨髄で観察される幼弱な赤芽球系の細胞は、染色性が塩基好性の細胞質を持つため、灰青色を呈する。これらは成熟するにしたがって、徐々にヘモグロビンの赤色が明らかになっていき、最終的に核が脱落した赤血球となって末梢血に送り出される。

造血幹細胞から分化し始めた幼若な血液細胞は盛んに分裂して数を増やしながら少しずつ分化を進めていく。最終的に赤血球に分化・成熟する場合は造血幹細胞、骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞 (BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞 (CFU-E)、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球、(網赤血球)、赤血球と成熟していく[51][52]

骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞 (BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞 (CFU-E) などの前駆細胞の段階では、細胞は非常に活発に細胞分裂して数を増やすが、顕微鏡による形態観察では赤血球系との判別は困難である[51][52]

前赤芽球の段階から形態的にも赤血球への分化の方向がはっきりしてくる。赤血球系と判別できるようになった前赤芽球から多染性赤芽球までの細胞も前駆細胞ほど盛んではないが細胞分裂能を持ち、1つの前赤芽球は多染性赤芽球の段階までに3-4回細胞分裂を起して8-16個の細胞に増える[53]

前赤芽球は直径が 20-25μm で前の段階の前駆細胞より大きくなり、赤血球への分化・成熟の段階で一番大きい細胞であり、顕微鏡観察で赤血球への分化の方向が明らかな最初の段階の細胞であり、核構造は繊細で、細胞質は塩基性[注 8]が強く、リボゾームが多い[52]

好塩基性赤芽球では大きさは前赤芽球より小さくなり(この後の段階でさらに小さくなり続ける)16-18μm ほどであり、前赤芽球ほどではないが細胞質は塩基性であり、核構造はやや粗くなる[52]

多染性赤芽球ではヘモグロビンの合成が開始され[54]、ヘモグロビン量が増えるにつれ細胞質の塩基性は弱くなり、細胞はさらに小さくなり、核構造は凝縮しさらに粗くなる。この段階でも弱いながらも細胞分裂能を残している[52]

正染性赤芽球では細胞分裂能は失われ細胞核は凝縮し細胞質は赤血球に近くなる。直径は 10-15μm でやがて細胞核が脱落して赤血球に成熟する[52]

これらの幼若な段階の細胞、造血幹細胞、前駆細胞、赤芽球は骨髄にのみ存在する。骨髄にはバリアがあり、幼若な血液細胞は骨髄から出ることができず、脱核して赤血球になって初めて血液中に出ることができるため、通常は末梢血では有核の赤芽球は観察されない。

正染性赤芽球から核が脱したばかりの若い赤血球では、まだリボゾームが残っており、ニューメチレンブルーによる超生体染色を行うとタンパク質と RNA の複合体であるリボソームがその他の細胞内小器官を巻き込みながら網状に凝集し、凝集したリボソームの RNA が青く染まり、顕微鏡観察では網状に見えるので網赤血球と呼ぶ。網赤血球の段階でも 10%-30% ほどのヘモグロビンが合成される。網赤血球は骨髄内に2日ほど留まり、その後血液中に移動して1-2日ほどでリボソームやミトコンドリアが抜け落ちて成熟し完成した赤血球になる[51]。通常、網赤血球は赤血球の 0.5-1.5% 程度であるが、造血が盛んになると若い出来立ての赤血球である網赤血球の割合が増え、骨髄での造血機能が衰えると網赤血球の割合が減る。

赤血球は骨髄造血幹細胞から作られるが、その分化・成熟には骨髄においてマクロファージが大きく関わっている。骨髄において、赤血球の幼若な段階である赤芽球はマクロファージを中心にその回りを取り囲むように数個から数十個が集団で寄り集まっている。中心に存在するマクロファージは赤芽球に接し、ヘモグロビンの合成に不可欠な鉄や細胞の生育に必要な物質を供給し、成熟をコントロールし、また脱核させた核の処理や、不要になった赤血球細胞の除去にも関与している[51][55]。この、骨髄内においてマクロファージを中心に赤芽球が集まり、赤血球の形成に関わっている細胞集団を赤芽球島もしくは赤芽球小島という[51]
胎児における造血

以上で説明しているのは出生後のヒトの造血であるが、胎児の造血は出生後とは様相が違う。まずは胎生15-18日頃に卵黄嚢において一次造血が始まり胚型赤血球が産出される。胚型赤血球は胎生4週以降血液循環を行って酸素を運搬する。一次造血で産出される胚型赤血球は胎生5-6週頃から始まる二次造血による胎児型赤血球および成体型(出生後の)赤血球とは大きく異なる。胎生初期に卵黄嚢で作られる胚型赤血球は胎児型赤血球および成体型赤血球と比べて4-5倍の大きさがあり、成熟しても脱核はせず有核である。形態的には赤芽球に似るが、胚型赤血球のヘモグロビンは胎児型ヘモグロビンとも出生後の赤血球のヘモグロビンとも違うものである[注 9]


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