赤血球
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これらの観察はラフなものであったが[注 23]、1674年レーヴェンフックは単レンズの単式顕微鏡としては最高度の性能の顕微鏡[注 24]を自作し、ヒトの赤血球を観察して大きさが 8.5μm の円盤状であると報告している[注 25][108]。またレーヴェンフックは、哺乳類の赤血球は円盤状であるが哺乳類以外の動物の赤血球は卵型であることも発見している[109]

その後、1747年にメンギニが赤血球は鉄を含むことを磁石を用いて発見し、1774年プリーストリーは赤血球が酸素に反応することを観察し、1780年ラヴォアジエとラプラスは赤血球が酸素を運搬することを明らかにしている[110]

1825年ライヘルトによって結晶化に成功したヘモグロビンは、1865年 ホッペ=ザイラーによって研究されている[110]。ABO型の血液型は1900年に ラントシュタイナーによって発見されたが、当初ラントシュタイナーは A, B, C の3型に分類し1901年の発表論文では A, B, O の3分類、1902年に共同研究者らと現在の A, B, O, AB型に分類し直している[111][112]。1904年デンマークの ボーアは赤血球の酸素の結合と遊離と二酸化炭素の関係を調べて酸素解離曲線を示し、二酸化炭素の存在によって赤血球のヘモグロビンと酸素の結合し易さが変化することを発見した(ボーア効果[113]

1933年ロートンらが赤血球内に炭酸脱水酵素を発見し[114]、1948年 サンガーポーターはヘモグロビンの構造研究の開始し、1961年ペルーツはヘモグロビンの立体構造を解析した[115]

1967年チャヌタンは赤血球に含まれる DPG(2,3-ビスホスホグリセリン酸)の量の変化によっても酸素解離曲線が移動することを発見した[116]

赤血球を真水に入れると溶血し細胞膜が得られるので、細胞膜の存在自体は早くから知られていたが、当初は赤血球細胞膜については何も理解されていなかった。1935年ダブソンらは細胞膜のリン脂質二重層構造を提唱し、1966年シンガーとニコルソンによって現在の知られている膜構造の流動モザイクモデルの基本モデルが提案されるようになった。さらに1970年代以降電子顕微鏡の発達で赤血球膜の微細構造は次々に明らかになっている[117]
人工赤血球リン脂質分子は自発的に集合し、二重層、あるいはリポソームミセルを形成する。図はそれぞれを切断した図である。人工赤血球ではリポソームの内部にヘモグロビンを封入する。

大怪我などで大量に出血すると人は生命の危険があり、緊急に輸血を行わないとならないが、血液はいつどこでも十分な量を確保できるとは限らない。そのため、救急用に人工赤血球の開発の必要は昔から指摘されていた。古くは欧米にてヘモグロビンを加工したものを血液に流せないか研究が進められていたが、剥き出しのヘモグロビンの毒性[注 26]を除去することは困難であり、1製品が南アフリカで承認されたものの安全性と有用性に疑問が持たれ主要国では実用化の目途は立っていない。そのため、現在ではヘモグロビンを内包した小胞体の開発が行われている[118][119][120]

リン脂質分子は自発的に二重層、あるいはリポソーム、ミセルの形状に並ぶので、リポソームの内側にヘモグロビンを封入すれば酸素運搬能力を持たせることができ、またヘモグロビンの毒性も閉じ込めることができる[119][120]

2010年現在では赤血球の数十分の一の大きさ(直径数百ナノメートル程度)のリポソーム内に(輸血に使用されなかった廃棄血液から抽出した)ヘモグロビンを封入したヘモグロビン小胞体が動物実験で短期的には効果を認められるところまで開発が進んでいる[119][121]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 血液の55%程度を占める血漿はやや黄色を帯びてはいるがほとんど透明であり、血液の色は主に45%程度を占める赤血球の色である。
^ 基準値の設定は研究機関・検査施設ごとに違う
^ ヒトでは安静時に心臓は4-8L/分の血液を拍出し-出典、寺野『シンプル内科学』p.110-人の体内の血液はおよそ3.5-5Lなので血液は平均しておよそ1分弱で体内を巡ることになる。1日で2000回前後、120日では20-30万回程度になる。
^ 造血幹細胞を源とし、完成形を赤血球とすると、造血幹細胞から赤血球への分化・成熟の途中段階である。
^ 短距離走などの激しい運動をしている筋肉では組織内の酸素分圧は一気に 5mmHg 程度に下がる。この酸素分圧レベルになると筋肉組織内のミオグロビンが蓄えていた酸素を放出して一時的に賄うがミオグロビンは酸素に対する親和性がヘモグロビンより高いので通常の組織内の酸素分圧レベル 20mmHg 以上では酸素を供給することはできない。
^ リン脂質二重層の厚さに関しては文献によって異なり、浅野『三輪血液病学』p.129では 7.5nm、H. Lodish, 他 著『分子細胞生物学』p381では 3.5-5.6nm、日本検査血液学会編『スタンダード検査血液学』では 8nm、浅島『図解分子細胞生物学』では 3-5nm など様々である。これは膜に存在するタンパク質の厚さも影響していると思われる。タンパク質を考慮しない脂質二重層のみの厚さは3-6nmの範囲と思われる。ここでは『分子細胞生物学』の数字を挙げた。
^ スペクトリンの結合・連結には4.1タンパク (Band4.1) やアクチン (Actin) が関わり、結合部には他に4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンなどのタンパク質が見られるが、4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンの役割は不明である-出典、日本生化学会『新生化学実験講座6』(上)p405-408
^ 血液細胞はヘモグロビン以外の物質は無色半透明であり、そのままでは顕微鏡を用いても細胞の様子を見ることはできない。そのために細胞に染色をして特徴を見やすくする。染色の方法は目的によって様々であるが、一般的なライトギムザあるいはメイギムザ染色は二重染色であり、塩基性色素が DNA や RNA, 細胞質のアズール顆粒などを青色に染め、エオジン色素がヘモグロビンや好酸性顆粒を赤橙色に染めるが、若い赤芽球では細胞質が塩基性色素で特に青色が強く染まり、ヘモグロビンが作られ始めた多染性赤芽球では細胞質の青が弱くなってヘモグロビンを染める赤が加わって「多染」となり、さらにヘモグロビンが増えた正染性赤芽球では赤が強くなり細胞質の青色は分からなくなる。
^ 成人のヘモグロビン (HbA) は2本のポリペプチドα鎖グロビンと2本のポリペプチドβ鎖グロビンからなる四量体 (α2β2) であるが、人のグロビンには α鎖と β鎖の他に、γ鎖、δ鎖、ε鎖、ζ鎖がある。α鎖とζ鎖の遺伝子は16番染色体上に並び、ζ鎖は胚期初期にのみ発現する。胎生期の大部分と出生後は α鎖のみが発現する。11番染色体上ではグロビン遺伝子は ε鎖、γ鎖、δ鎖およびβ鎖の順に並びスイッチングが起きて発現するグロビンが変化する。胚性ヘモグロビンは α2ε2, ε4, ζ2ε2, ζ2γ2 などであるが、グロビン遺伝子のスイッチングで ε鎖、ζ鎖はまもなく作られなくなり、次に作られる胎児型ヘモグロビンHbF は α2γ2 であるが、出生に近づくとγ鎖も次第に減っていき、出生後にはヘモグロビンの大半を占める α2β2 の HbA と少数の α2δ2 からなる HbA2 に置き換わっていく。-出典 三輪『赤血球』1998年、pp.114-118および野村『赤血球』1994年、pp.22-24
^ 研究機関・検査施設ごとに多少の基準値設定の差はある。
^ 赤血球の120日の寿命の間中に赤血球内のヘモグロビンはグルコース(血糖)と結びついていくが、その反応は緩徐的(ゆっくり)で非酵素反応のため、一時的なグルコース濃度の変化やグルコース以外の要素の影響を受けにくく、Hb 中の HbA1c の割合は過去1 - 3か月のグルコース濃度(血糖値)の平均に相関することが分かっている。血中にはグルコースは必ずあるため健康人でもヘモグロビンの4.3%-5.8%は HbA1c であるが、血中の血糖値が長期間の平均で高いほど HbA1c も高値になり、糖尿病では6.5%以上の高値になる ⇒日本薬学会・HbA1c、 ⇒糖尿病教室 2011.05.12閲覧
^ 数値は文献によって微妙に違い岡田泰伸監訳『ギャノング生理学23版』p.613では0.5%がギリギリの濃度で0.35%ですべて溶血するとし、杉晴夫編著『人体機能生理学』p.305では0.48%で溶血し始め、0.33%で完全に溶血するとしている
^ ただし、実際には正常な血液が採血後に採血管の中で溶血し高カリウム血症状態になることが多く、それを偽性高カリウム血症と言い、この場合は体を流れている血液が高カリウム血症であるわけでないので心配要らないことが多い。急激な上昇や腎疾患でない限り過剰なカリウムは迅速に排出されるが、しかし、原因がはっきりするまでは高カリウム血症は要注意である。また輸血用の血液製剤に含まれる赤血球はある程度は必然的に壊れ、輸血用赤血球製剤は高カリウム状態である。輸血量が多いと一時的に高カリウム血症となるため、急激な輸血は注意が必要である。
^ 鎌状赤血球症は遺伝疾患であり、その遺伝子を持つものは本来は生存競争に不利であるが、鎌状赤血球症の赤血球はマラリアに抵抗性がある。そのため、マラリアの流行地では鎌状赤血球症の遺伝子を持つものが淘汰されずに現代に残っていると考えられている。
^ 多血症も大きく分けると3パターンある。
赤血球の絶対量は増加していないのだが、血漿が減少するために血液単位量あたりの赤血球量が相対的に増える、脱水やストレス多血症などの相対的多血症


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