賃金
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オプション保有者たる労働者が権利の行使について任意であるため、制度として実施するには就業規則に記載すべきとされる[11]。なお、所得税法上は、ストックオプションは給与所得にあたると解される[12]

解雇予告手当は、賃金ではないが、解雇の申渡しと同時に通貨で直接支払わなければならない。

休業補償(法定超過額を含む)は、賃金に含まれない[13]。なお、休業手当(第26条)は法定超過額を含む全額が、賃金となる。

出張旅費、宿泊費は、賃金に含まれない。

生命保険料の補助、財産形成貯蓄奨励金の支給は、賃金に含まれない[14]

顧客から受け取るチップ等は、賃金に含まれない[15]。ただし、使用者がサービス料として一定率を定めて客に請求し、収納したものを集計し労働者に分配する場合は賃金となる[16]

他法による定義

最低賃金法賃金の支払の確保等に関する法律労働契約法勤労者財産形成促進法では労働基準法と同様の解釈となる[17]。しかし、以下の法令では若干の相違点がある。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律(労働保険徴収法)では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く)をいう。」と定義されている(労働保険徴収法第2条2項)。

労働基準法による「賃金」との相違点としては、

労働協約等によって支給条件の明確な見舞金、結婚祝い金等は賃金とはしない。

住宅を貸与する場合に、住宅の貸与を受けない者に均衡上一定額の手当を支給している場合には、その均衡給与相当額は賃金となるが、社宅入居者から賃貸料として3分の1を超える額を徴収している場合は、福利厚生とみなされ、賃金とは認められない。

通貨以外のもので支払われるものの範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか、所轄公共職業安定所長・所轄労働基準監督署長が定める。評価に関する事項は厚生労働大臣が定める。

健康保険法では、「この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。」と定義されている(健康保険法3条5項)。また、「この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものをいう。」とも定義されている(健康保険法第3条6項)。

労働基準法による「賃金」との相違点としては、

被保険者の在職時に、退職金相当額の全部または一部を給与に上乗せする等前払いされる場合は、報酬に該当する。

臨時に支払われたもの、3月を超える期間ごとに受けるもの(賞与等)は、報酬に含まない。ただし、年4回以上の賞与等は、報酬に含める。

報酬又は賞与の全部又は一部が、通貨以外のものによって支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によって、厚生労働大臣が定める。


賃金の決定労働条件通知書

賃金の決定は、個別の労働契約により決定されるものである。公共職業安定所の求人票に記載された賃金額は、その後に個別の労働契約を締結しなければ、労働基準法上の支払い義務のある賃金額とはならない[注釈 6]。賃金制度の体系・内容は、労働組合のある企業では労使の交渉によって合意されたうえ、労働協約・就業規則の賃金規定に定められ、また毎年の賃上げや賞与の額も労使交渉によって決せられる。この場合、使用者は労働組合との誠実な団体交渉に応じる義務がある(労働組合法第7条)。労働組合のない企業では、使用者が賃金制度の内容を就業規則に定め、賃上げ・賞与の額は市場の動向に応じて使用者が決定する。いずれの場合においても、賃金の計算方法等賃金制度の内容は使用者が就業規則に記載しなければならない(第89条)。

賃金を含め、労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである(第2条1項)。使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならず(第3条)、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない(第4条)。事業主は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、賃金その他の待遇について、短時間労働者であることを理由として通常の労働者との間で差別的取扱いをしてはならず、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当しない短時間労働者についても通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金を決定するように努めるものとする(パートタイム労働法第9条、第10条)。

また、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効となる。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(第28条、最低賃金法第4条)。

なお株式会社において取締役の「報酬」は定款の定めがない限り株主総会の決議に基づくことを要するが(会社法第361条)、取締役が使用人を兼務している場合、使用人として受ける賃金はこの報酬に含まれない旨を定めることも適法である(シチズン時計事件、最判昭60.3.26)。

厚生労働省「平成28年賃金引上げ等の実態に関する調査結果の概要」によれば、平成28年中に賃金の引き上げを実施しまたは予定していて額も決定している企業について、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素を見ると、「企業の業績」が51.4%(前年同調査では52.6%)と最も多く、「重視した要素はない」を除くと、「労働力の確保・定着」が11.0%(同6.8%)、次いで「親会社又は関連(グループ)会社の改定の動向」が5.9%(同5.4%)となっている。また、厚生労働省「平成29年賃金構造基本統計調査」によれば、一般労働者の賃金は、男女計304.3千円(年齢42.5歳、勤続12.1年)、男性335.5千円(年齢43.3歳、勤続13.5年)、女性246.1千円(年齢41.1歳、勤続9.4年)となっている。賃金を前年と比べると、男女計及び男性では0.1%増加、女性では0.6%増加となっている。女性の賃金は過去最高となっており、男女間賃金格差(男性=100)は、比較可能な昭和51年調査以降で過去最小の73.4となっている。
賃金支払五原則

(賃金の支払)

第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

賃金の支払いについて、第24条1項は「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」、第24項2項では「毎月一回以上の原則」「一定期日払いの原則」を定める。これらは「賃金支払五原則」と呼ばれる。
通貨払いの原則

使用者は労働者に対して原則として通貨で賃金を支払わなければならない。これは現物給与の禁止が本旨である(昭和22年12月9日基発452号)。労使協定で定めたとしても、賃金を通貨以外のもので支払うことはできない。

使用者は、賃金の支払について次の方法によることができ、通貨払いの原則については例外がある。
法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合(第24条1項但書)

現在法令による定めはないので、現物給与を支払うには労働協約に定めることが必要になる。それが許されるのは、協約の適用を受ける労働者に限られる。


労働者の同意を得た場合において、賃金について確実な支払の方法による場合(施行規則第7条の2各項)。2023年4月の改正法施行により、所定の要件を満たした電子マネー等による賃金支払いが可能になった(賃金のデジタル払い[18]

労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する労働者の預貯金への振込みによる方法(第1項第1号)

労働者が指定する金融商品取引業者に対する労働者の預り金への払込みによる方法(第1項第2号)

労働者が指定する指定資金移動業者に対する労働者の預り金への払込みによる方法(第1項第3号)

銀行その他の金融機関によって振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手の交付による方法(第2項第1号)※退職手当に限る

銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手の交付による方法(第2項第2号)※退職手当に限る

郵政民営化法に規定するゆうちょ銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を交付する方法(第2項第3号)※退職手当に限る

「労働者の同意」については、労働者の意思に基づくものである限りその形式は問わないが(通達上は書面による同意までは求めておらず、口頭でもよい。昭和63年1月1日基発1号)、労使協定の定めにより包括的に行うことはできない。

「労働者が指定する」とは賃金の振込先について銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味であり、この指定が行われれば「労働者の同意」が特段の事情がない限り得られているものとする(昭和63年1月1日基発1号)。さらに使用者として実際に賃金の振込みをするにあたっては、以下の要件を満たすことが必要となる(令和4年11月28日基発1128第3号)。
口座振込等は、書面又は電磁的記録による個々の労働者の申出又は同意により開始し、その書面には以下の事項を記載すること。

口座振込等を希望する賃金の範囲及びその金額


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