財政再建
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1940年代に経済学者のE・D・ドーマーによって提唱されたと日本でいわれている条件。名目経済成長率が名目公債利子率を上回れば基礎的財政赤字は維持可能であるといわれる[3][4][5]
ボーン条件

財政破綻が起こらないための十分条件の一つ。前期に財政赤字だった場合には、今期はプライマリー・バランス規模が改善するように財政が運営されていればよいとするもの[6]
マクロバランスとの関係

財政の信認が失われると、国債金利の暴騰・国債価格の暴落が起こり、同時に通貨の信認も失われる[7]。ここで重要な事は通貨の種類である。通貨発行権を持つ政府の場合、自国通貨建ての債務が増加してもそれが返済不能に陥ることはない。しかし、ユーロ圏の国家や、外貨建てで債務を抱えている場合は、徴税や通商取引で債務返済の財源となる通貨を確保するしかないため、債務が巨大になりすぎると信用リスクが膨らみ国債金利の暴騰・国債暴落とそれに伴う通貨安が発生する事となる。

エコノミストの村上尚己は「政府部門は、本質的に企業家計などと全く異なる性質を持っている。一国の経済全体は、政府部門だけで成り立っているわけではない。家計・企業など民間部門の経済行動を合わせて、『国の借金』を考えなければ問題の本質は見えてこない。財政の専門家は、政府部門だけに着目して財政赤字を論じるので、処方箋は税制変更(増税)や歳出削減だけになる。政府部門の財政赤字の問題は、一国経済全体の広い視点で捉えて、処方箋を考えることができる」と指摘している[8]。村上は「一国経済全体のパフォーマンスは突き詰めれば、民間の経済活動によって決まる。民間主導で経済活動が活発化することによって、政府の財政赤字を減らすことにつながる」と指摘している[8]

また、社会保障が充実している成熟型社会では、高齢化の進展による社会保障給付の拡大が財政支出を拡大させるため財政赤字が膨らむ[9]UFJ総合研究所調査部は「成熟型社会では高い成長が見込めないため、制度を工夫しコストを抑制するとともに社会を効率的に運営していく必要がある」と指摘している[9]
金利

ある国の財政赤字が金利を上昇させる原因は、長期的に財政状況が悪化すれば国債の償還能力に疑念を持たれ、そのリスクを考慮した金利でなければ、資金を集めることができなくなるからである[10]。経済学者の原田泰は「短期的な財政赤字よりも、長期的な財政状況が金利に影響を与えるはずである」と指摘している[10]
経済成長率

経済成長率が低いと税収の伸びは鈍くなる[9]。景気判断は物価変動を除外した実質経済成長率で見極められるが通常であるが、政府の財政については企業収益・給与ともに名目の指標であるため、実質経済成長率よりも名目経済成長率が重要とされている[11]。税収は名目経済成長率と同じ方向に変化する[12]。GDPが低下すると税収は減少するが、どれだけ減少するかについては、大きく減少するという説とGDPの低下率と同じだけ減少するという説がある[10]

森永卓郎は「名目GDPがプラスであれば税収は増え、重点配分が可能であり、財政も運営しやくなる」と指摘している[13]

経済学者の飯田泰之は「名目経済成長率より国債の名目利子率が高い状況である限り、財政は破綻する。つまり、名目経済成長率を増加させなければならない」と指摘している[14]

エコノミストの米山秀隆は「名目経済成長率と長期金利の関係は、財政再建シナリオを描く場合、極めて重要な要素となる。先進国の歴史をみると、経済が急成長する時期には、名目経済成長率が長期金利を上回っているが、成熟期に入ると名目成長率が長期金利を下回るようになっている」と指摘している[15]

経済学者の高橋洋一は「2000年代以降の経済協力開発機構OECD)諸国で年次の長期金利と成長率を419のケースについて、国の数でみると、長期金利が成長率を上回ったのは192(46%)、一方で長期金利が成長率を下回ったのは227(54%)となっている。時期でみると、リーマン・ショック前では長期金利が経済成長率を下回り、リーマン・ショック後では長期金利が経済成長率を上回る国が多かった。結果として、長期金利と経済成長率のどちらが上回るかは、ほぼ五分五分という状況である」と指摘している[16]。「日本の経済論争#成長率・金利論争」も参照
税収弾性値

税収弾性値とは、経済成長によって税収がどの程度増えるかを示す値であり、税収弾性値が高ければ、経済成長による税収増と財政再建の効果は大きくなる[17]。GDP1%の変化に対して、税収が1%変化すれば税収弾性値は1となる[17]
対GDP比

一般的に主要国の政府債務の状況を見る場合、政府の債務額をその国のGDPで割った数字で評価する[18]。GDPはその国の経済を表したものであり、GDPに対してどの程度の割合の政府債務であるかを確認することで、その国の債務の程度が解る[18]。今年のGDPに対する国債残高の割合を式で表すと、分母が「今年のGDP」、分子が「今年の国債残高」となる[19]。長期的な財政状況は、政府債務を名目GDPで割ったものが適当な指標になる[10]

経済学者のロバート・シラーは「ある国の債務が、GDP比で100%を超えたら財政は破綻すると考えるのは誤りである。債務とGDPから計算される比率は、純粋な時間を単位とするが、その単位として1年を用いることに必然性はない」と指摘している[20]

経済学者の田中秀臣はドーマーの公債命題を引用し「公債負担の問題は、国民所得拡大の問題である[21]」「国民所得の増加を維持できれば、公債負担が増加しても財政を懸念する必要はなくなる[22]」と指摘している。
非ケインズ効果「リカードの等価定理」も参照

経済学者のジュヴァッツィ、パガーノの研究によると、財政赤字の急拡大、政府債務残高の対GDP比率が高い水準にある、といったように財政が不健全な状態では、大胆な財政の引き締め策が人々の将来への不安を打ち消すことになり、それに関連した効果で現在の民間の消費などが拡大・刺激されGDPの落ち込みを防ぐ可能性もあるとしている[23]。これは「非ケインズ効果」と呼ばれ、1980年代以降、デンマーク・アイルランドなどでこのようなことが観察されたとされている[23]

大和総研は「『非ケインズ効果』は、政府支出を抑えて金利上昇を抑制し、景気にプラスの効果を与えるとされている」と指摘している[24]

経済学者の若田部昌澄は「スウェーデンは非ケインズ効果の代表例としてよくとりあげられるが、スウェーデンの景気回復を支えたのは、通貨危機による為替の大幅な切り下げである。クローネ安で輸出が伸び、企業の景況感がよくなったため、それが投資が増加させ消費に向かったのである」と指摘している[25]

増税によって可処分所得が減少し、消費が減少することを「ケインズ効果」という[26]
インフレ課税

インフレーションになると、現金価値の低下によって政府債務が減少し、課税と同じような効果がある[27]通貨を発行すれば、シニョリッジが国庫に収入として帰属し、直接徴税をしているかのような効果が生じる[27]。これらを「インフレ課税」という[27]

エコノミストの山崎元は「財政支出もインフレに連動するため、財政支出を同じように拡大させてしまえば財政収支は赤字のままとなってしまうが、過去のストックベースの財政赤字は実質価値が減価していく」と指摘している[28]。山崎は「インフレは実質的に、現金及び現金の同等物の保有者に対する課税である」と指摘している[28]

経済学者のトマ・ピケティは「財政についての歴史的な教訓としては、1945年のフランス・ドイツは対GDP比で200%の公的債務を抱えていたが、1950年には大幅に減少した。それは債務を返済したわけではなく、物価上昇が要因である。物価上昇なしに公的債務を減らすのは困難である」と指摘している[29][30]


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