象徴天皇制
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一般的な英国型立憲君主制イギリスの君主制)に比して、このような君主権力がよりいっそう消極的な、日本独特の君主制である「天皇制」を象徴天皇制としている[5]

佐藤功は「国際法の観点からは対外的に国家を代表する地位にある国家機関を元首とよび、元首たる君主を有する国家形態を君主制とよぶ」ため、「(日本国憲法下の)日本国は伝統的・典型的な君主制には属さないが、同時に伝統的・典型的な共和制にも属さない」とし、「国民主権下の君主制」と呼ぶのが適当であろうとしている[6]清宮四郎イギリスの君主に比べて権限が制約されているものの、「歴史的に見てこれを君主と言ってもあえて誤りというほどのものではない。」とする[6]。下條芳明や金子勝は「象徴君主制」と呼ぶ。

小説家の三島由紀夫は「日本は19世紀的な立憲君主国ではなくなったものの、憲法第1条に天皇に関する条項が存在するを根拠に一種の君主国である。」とする[7]
天皇非君主説

芦部信喜は日本国憲法下では天皇は「君主」では無いとする。「君主」の要件は「その地位が世襲で伝統的な権威を伴う(世襲君主制)」および「統治権、少なくとも行政権の一部を有する」だが、天皇は「象徴」という主権者の枠外におかれ(憲法第1条)、「国政に関する権能を有しない」者であると規定され(第4条)、国事行為においても「認証」「接受」という形式的・儀礼的行為しか認められていない。憲法1条の規定の主眼は、国の象徴たる役割を強調するというよりも、むしろ天皇が象徴以外の「君主」としての役割を持つことを積極的に禁止した、と解釈する。「国民主権」を原則とする以上、天皇に対し「象徴」以外の権能を、憲法改正等による主権者からの付託を伴わずに与えることには現行憲法上問題がある、とする[8]

このほか宮澤俊義[9]小林孝輔[10] なども、日本国憲法下では天皇は「君主」では無いとする。

日本共産党不破哲三は同党の81周年記念講演「党綱領の改定について」 で「日本は、憲法で国民主権を明確に宣言している国ですから、天皇主権の国ではなく、天皇と国民が主権を分かち持っている国でもありません。主権が国民に属する国ですから、日本の今の政治の体制を君主制だというと、これは大きな誤解を生むことになります」と述べた[11]
「元首」に関する議論詳細は「日本の元首」を参照

伝統的な意味での「元首」とは、行政権の長として対外的にその国を代表する者で、君主または大統領などである。しかし日本国憲法では内閣の長は内閣総理大臣だが、主権者は国民であり、「国権の最高機関」は議会で、天皇は一切の政治的権限を持たない。

学説では内閣元首説または内閣総理大臣元首説が多数派[6]だが、天皇元首説、衆議院議長元首説、元首不在説なども存在する。

日本国憲法制定時に、元首という言葉を使用するよう議論があったが、金森徳次郎憲法担当国務大臣は、「元首は主権者や行政の首長であるという印象を与える」が、象徴という言葉にはそのような悪い連想が無いと答弁した[6]。元首と申しまする言葉は、常識的に申しますれば、国の所謂主権者であるとか、或いは少なくとも行政の首長であるとか云うような意味でなければ、元首と云う言葉は恐らく意味をなさないものと思っております。だからこの元首と云う言葉を使いまして、縦んばそれに前後の関係で法律学的に色々緻密な説明を加えたり、条文の規定を工夫致しまして、特殊な、意味のない主権者とか行政の首長とか云う、特殊の意味のない言葉なりと制限を致しましても、成る程法律家にはそれで以て満足を得ることが出来ましょうが、(中略)国民はこの憲法に定まって居る天皇の御地位を、必要以上に権力的に考える虞が十分あろうと思います。(中略)象徴と云う言葉には左様な悪い連想がないのであります。 ? 1946年(昭和21年)9月11日 貴族院帝国憲法改正案特別委員会、金森徳次郎 国務大臣 答弁[6]

日本国憲法施行後の、国会答弁における政府側答弁には以下があり、天皇は外交的には形式的に国を代表する面を有しているが、元首と呼べるかは元首の定義次第、と述べた。天皇が元首であるかどうかは、要する元首の定義のいかんに帰する問題であると思います。この点は、先般、衆議院の内閣委員会においても私申し上げたところでございますが、かつてのように、元首とは内治外交のすべてを通じて国を代表して、行政権を掌握する存在であるという定義によりまするならば、現在の憲法のもとにおきましては天皇は元首ではないということになりますが、今日では、実質的な国家統治の大権を持たなくても、国家におけるいわゆるヘッドの地位にある者を元首とするような見解も有力になってきております。この定義によりまするならば、天皇は、現憲法下においても元首であると言って差しつかえないと存じます。 ? 1973年(昭和48年)6月28日 参議院内閣委員会、政府委員・吉國一郎内閣法制局長官答弁[12]内治、外交のすべてを通じて国を代表し行政権を掌握している存在である、こういう定義によりますならば、現行憲法のもとにおきまして天皇は元首ではないというふうに申し上げたわけであります。と同時に、先ほど元首に関連をして、天皇はごく一部ではございますけれども外交関係において国を代表する面を有するということを申し上げたわけでございますが、憲法七条におきましてはその第九号におきまして「外国の大使及び公使を接受すること。」と規定されておるわけであります。天皇はこの規定により、したがいまして内閣の助言と承認に基づいてでございますが、国事行為として、我が国に駐在するために派遣される外国の大使、公使の接受をされているのでございますが、これは、外交面において形式的儀礼的にではございますけれども国を代表する面を有しているというふうに解されるわけであります。 ? 1988年(昭和63年)10月11日 参議院内閣委員会、政府委員・大出峻郎 内閣法制局 答弁[12]
評価
世論

日本国憲法公布・施行前の1946年5月27日毎日新聞朝刊に結果が載った世論調査では、「象徴天皇制」を支持する回答が85%であった[13]

2009年NHKが行った世論調査では、「天皇は現在と同じく象徴でよい」を回答に選んだ人の割合が81.9%であった。また、「今の天皇が象徴としての役割を果たしていると思いますか」との質問に対しては、「十分に果たしている」「ある程度果たしている」が合わせて85.2%であった[14]
政党

自由民主党2010年に発表した「平成22年綱領」の中で、「我々は、日本国及び国民統合の象徴である天皇陛下のもと、今日の平和な日本を築きあげてきた」と好意的に言及、評価している[15]。また、2012年に発表した「日本国憲法改正草案」では、「前文」の中で「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」と言及し、第1条では天皇が元首であることを明記した上で、象徴天皇の規定を維持する方針を採っている[16]

2012年の自由民主党による改憲草案では「日本国」は「立憲君主国」とする[17]

立憲民主党2017年に発表した綱領の中で、「象徴天皇制のもと、日本国憲法が掲げる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を堅持します。立憲主義を深める立場からの憲法議論を進める」と言及しており、象徴天皇制を維持する方針を示している[18]
メディア各社

産経新聞2013年に発表した憲法改正草案「国民の憲法」の第1条で、「日本国は、天皇を国の永続性および国民統合の象徴とする立憲君主国である」と明記し、象徴天皇の規定を維持することを提案している。また、第2条では「天皇は、日本国の元首であり、国を代表する」とし、元首明文化も同時に提案した。[19]

読売新聞は、象徴天皇の規定を維持した「憲法改正試案」を発表している[20]
日本以外の君主国との比較

日本の天皇のように君主に政治的な権限を持たせない君主国は、北欧オランダスペインイギリスなどが挙げられる。君主の地位を何らかの文脈で「象徴」と表現するのは日本に特異のことではなく、以下のように複数の君主国に見られる。

日本の天皇以上に政治的な権限が制限されている例として、スウェーデン国王があげられる。


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