[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

ストールの面積は1頭当たり1平方メートル前後である[49]。妊娠ストールは国によっては使用が規制されている[50]。詳細は「妊娠ストール」および「妊娠ストール#各国における妊娠ストールの規制状況」を参照

個体識別繁殖の管理のため、母豚は耳刻や入墨、耳標が入れられる。母豚は、生後8か月で初めて交配される。豚は自然交配の方が受胎率が高いことから、人工授精率が牛に比べて低い。牛の人工授精率99%に対し、豚は40%程度である[51]。祖先種のイノシシは2年目にならないと繁殖しないが、豚は8か月齢で人工交配される[52]分娩ストールの内部 母豚は鉄柵の中に拘束され、哺乳子豚は鉄柵の隙間から母豚の乳を吸う

妊娠した母豚は、約114日の妊娠期間を経て、1回につき十数頭の子豚を産む。祖先種のイノシシはの一年間の出産数は5頭弱であるが[53]、多産母豚系統の育種により、産子数は大幅に増加しており、豚は1年2-2.5産で20-30頭を出産する[52]。この産子数の増加は、養豚業界にとって経済的なメリットがある一方、動物福祉の懸念が指摘される。すなわち一腹あたりの子豚数の増加による分娩の長期化がもたらす母豚の苦痛とストレス、死産子豚の増加、子豚の低体重と活力の低下[54]である。乳頭はイノシシで5-6対。豚は7対であり、産子数の増加に対して十分ではない[52]。子豚の低体重は世界中で一般的になりつつあり、出生時の体重が 1 kg 未満の子豚は 15% であると推定されている[55]

母豚は、妊娠期間中は妊娠ストールに、そして出産の少し前から子豚を離乳させる生後21日前後までの間は分娩ストールに収容される。

分娩ストールは、母豚の行動を制限し、妊娠ストール同様転回はできない。分娩ストールは、子豚の圧死を防ぐ目的から分娩柵が両側に取り付けられた檻のことで、子豚はこの分娩柵の間から母豚の乳を飲む。分娩ストールでは母豚と子豚がコミュニケーションを取れる機会はほとんどなく、母豚と子豚の相互作用が損なわれることで、異常行動の発生につながる[56]。自然下では分娩が近づくと、物陰など分娩するのに適切な場所を探して鼻で土を堀り、藁や草などの材料を運び込んで巣作りを行う。養豚場ではそれができず、分娩前日になると、藁などの巣作り材料がないにもかかわらず、母豚は口や鼻を使って巣作りの真似事をする[57]。これは真空行動という葛藤行動の一つであり、巣作りが母豚の内的に強く動機づけられていることを意味する[58]

分娩ストールも妊娠ストール同様に動物福祉を阻害するため、スウェーデン、スイス、ノルウェーは、分娩ストールを禁止している[59]。また、オーストリアとドイツでは、分娩後 5 日間程度以降の分娩ストールを段階的に廃止する[60]。日本では禁止されておらず、分娩ストールの使用が一般的である。子豚の圧死を防ぐという目的で使用される分娩ストールであるが、研究では、適切な環境を用意すれば分娩ストールを使わなくても圧死を防ぐことが可能だとされる[61]。圧死の要因として、育種による大型化もある。母豚は大型化した自分の体をうまくコントロールできないことがあり、体を横たえる時はある程度まで体が傾くとドスンとそのまま倒れる。そのため子豚が圧死するリスクとなるとも言われる[62]

母豚での跛行率は高く、最大48%にのぼり[63]、蔓延率は8 - 16%の間とされている。15%の母豚が跛行が原因で淘汰されており[64]、アメリカでは跛行は母豚淘汰の3番目に多い理由としてランク付けされている[65]。原因としてはストールという拘束飼育による運動不足が挙げられる。しかし問題は育種と考えられている。イノシシは体重が90kgに達するのに1年以上要するが、育種の結果、豚は半年で100kgを超える。この増体を目的とした育種による骨形成不全(肢や関節の変形)が主因と考えられている[52][66]。跛行は生産性へも負の要素となる[67]。跛行の他、母豚の死の一般的な原因は、突然死、内臓脱出(子宮脱、膣脱、直腸脱)とされる[68]。内臓脱出の割合は高く、一部の農場では雌豚の死亡の25?50%を占めるとも言われる。妊娠ストール飼育は内臓脱出の要因とも言われる[69][70]

分娩後、母豚は自分の子豚を体臭などにより明確に識別して世話をする[71]。子豚への21日前後の哺乳期間を経た後、交配用の豚舎に移動させられ、次の交配が行われる。横断的な研究によると、5産次までに淘汰される母豚は50%[72]。一般的に2年間で4 - 6産し、繁殖用として役目を終えた雌豚(平均3歳)は、「飼い直し」をしても肉質の向上が見られないため、廃用となり屠殺される。その肉はソーセージなどの加工品に利用されることが多い[73]
新生子豚?肥育豚

産まれたばかりの子豚(新生子豚)は皮下脂肪が他の動物種に比べて薄く被毛も少ないので寒さに弱いため、保温が必要になる[74]。自然環境では、子豚の離乳は生後17週目ころに完了するが、現代の集約養豚では、子豚は生後21日齢ごろに人為的に母豚から離乳される[75][76][77]欧州連合(EU)のように、動物福祉への配慮から、離乳時期を28日齢以降と制限している地域もある[78]。早期離乳は子豚への大きなストレスとなり、下痢が増加する要因[79]にもなるため、離乳時期については再検討することが求められている[80]。近年、子豚の死亡率は、平均で15%から20%まで変動している[81]

離乳後、肥育豚として主に配合飼料を給餌し、豚舎内で群飼肥育される。成熟した豚は皮下脂肪が厚くなる。また豚の汗腺は未発達のため肥育豚は暑さに弱い。高温下では、摂食量を減らしたり、呼吸数を増やしたり冷たいコンクリート床に体を横たえたりして放熱量を増加させる。泥場でぬた打ちして体を冷やすという祖先種イノシシの習性を豚も持つが、飼育下では泥場がないため、糞尿を代わりにぬた打ちする[82]

豚の寿命は10年から15年ほどだが、食用豚は6 - 7か月で105 - 110kg程度に仕上げられ、屠殺される。屠殺される豚の大半に胃潰瘍が認められるが、ストレスが大きな要因となっている[83]
子豚への外科的処置

歯切り


新生子豚には8本の犬歯と切歯が生えており
[84]、母豚の乳頭の取り合いをする際に、他の子豚や母豚の乳房を傷つける可能性がある。また、母豚が乳頭を噛まれ授乳を拒否したり、急に立ち上がって子豚のけがや圧死の原因となったりする可能性もある。歯切りは、このような事故等を防止するための手段の一つと考えられている[85]。ただし、屋外放牧を行ったり、密飼いを避けるなどの、ストレスのない環境下では、歯の切断をしなくても損傷が起こらなかったり、かみつく行動が減ったりする[86]。研究では、歯切りの有無が、母豚乳房や同腹子豚への損傷や子豚の増体に影響せず、歯切りの必要性は認められないと結論付けている[87]

歯切は、子豚に、神経感染症や出血、骨折等の痛みを引き起こすことが知られる[88]。そのため、欧州連合(EU)では歯の切断を日常的に行うことを禁止しており、デンマーク、ノルウェーでは歯の切断自体を禁止している[89]

日本国内での法規制はなく[90]、日本の農家の63.6%が歯切りを実施しており、そのうち8割はほぼ根元から切断されている[91]。歯切りは通常生後7日以内に無麻酔で行われる。また、その道具として日本の農家の9割以上がニッパーを使用している[91][48]


断尾

狭いところに多頭収容したり敷料がない単調な環境が原因で尾かじりが発生する。豚にとって行動欲求が高い探査行動が発現できないことが、豚が他のブタの尾をかじるという転嫁行動を引き起こす
[92]。尾かじりは豚舎内で広がりやすく、受けた豚の増体量低下や死亡リスクとなる。[85]これを防止するために、生後7日以内に無麻酔で尾の切断が行われる。尾には血管および神経が通っており、切断による痛みが生じる。外傷性神経種が生じることもあり、これは恒常的な痛みをもたらす[93]。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}餌を得るための探査行動は動物にとって強い欲求を持つ行動の一つである。特にブタは嗅覚が優れており、強靭な鼻を利用して土を掘り起こすルーティングやものを噛むチューイングといった行動に対して強い発現欲求を持っている。その行動を制限されることでブタは強い欲求不満状態に陥る。十分に発現できない行動に対してブタは、施設をかじることや他個体の尾や耳をかじること、もしくは攻撃行動といった行動に転嫁して発現するのである。—月刊「畜産技術」2014年12月号27ページ-

日本国内での法規制はなく[90]、82.2%の農家で断尾が実施されている[48]。一方で、デンマークスウェーデンノルウェーフィンランドリトアニアでは麻酔なしでの尾の切断を禁止あるいは規制しており[94]カナダでは2016年7月1日から、年齢にかかわらず痛みを制御する鎮痛剤を用いて行われなければならないとされている[95]。フランスでは、豚の尾の切断により罰金に処せられたケースもある[96]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:143 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef