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イギリスの調査は、同国内スーパーマーケットの豚肉の10%が薬剤耐性菌に感染していると報告する[45]。現代の集約養豚システムにおける高い飼育密度は、豚をストレスや病原体、呼吸器系疾患リスクにさらしており、その結果、2030 年までに農場での抗生物質の使用は 11.5% 増加すると推定されている[42]
飼育数[ソースを編集]

ブタの飼育数(百万頭)(2022年4月時点)[46]国名2020年2015年2010年2005年
中国406.5471.6467.7421.2
アメリカ合衆国77.368.964.961.0
ブラジル41.139.839.034.1
ドイツ26.127.726.526.9
 ベトナム22.027.827.427.4
スペイン32.828.425.724.9
ロシア25.219.517.213.7
メキシコ18.816.415.415.2
フランス13.713.214.314.9
カナダ14.013.212.514.8
オランダ11.512.612.311.2
 デンマーク13.412.513.213.5
フィリピン12.812.013.412.1
ポーランド11.711.615.218.1
ミャンマー19.215.19.45.7
韓国11.110.29.99.0
日本9.19.49.89.6
インド8.99.910.612.3
イタリア8.58.79.29.0
インドネシア9.17.87.56.8
世界計952.6992.1971.1904.4

家畜豚のライフサイクル[ソースを編集]

種付け用の種雄豚は生後8 - 9か月、体重130kg(キログラム)を目安に交配が可能となり、5 - 8年間繁殖に用いられる。交配は自然交配か、雄豚から採取した精液による人工授精がある。繁殖用の雌豚は生後8か月齢、体重120 - 130kgから交配が開始される。妊娠期間は114日前後で授乳は21 - 35日、年に2.3 - 2.5回の分娩が可能。問題がなければ一生の内に10回以上の分娩が可能である。肉豚(肥育豚)は出生後5 - 6か月、100 - 110kgで食用とされる[47]
種雄豚[ソースを編集]

繁殖用の種雄豚は、8年前後、種付けに用いられた後に廃用となり屠殺される[47]。雄臭が強いため、主に皮革や肥料などとして利用される。
母豚[ソースを編集]分娩ストールで飼育される母豚

繁殖候補として選ばれた子取り用雌豚(繁殖用雌豚)は管理しやすいように妊娠ストールと呼ばれる檻(ストール)の中で飼育される(日本の農場では91.6%で妊娠ストールが使われている[48])。ストールの面積は1頭当たり1平方メートル前後である[49]。妊娠ストールは国によっては使用が規制されている[50]。詳細は「妊娠ストール」および「妊娠ストール#各国における妊娠ストールの規制状況」を参照

個体識別繁殖の管理のため、母豚は耳刻や入墨、耳標が入れられる。母豚は、生後8か月で初めて交配される。豚は自然交配の方が受胎率が高いことから、人工授精率が牛に比べて低い。牛の人工授精率99%に対し、豚は40%程度である[51]。祖先種のイノシシは2年目にならないと繁殖しないが、豚は8か月齢で人工交配される[52]分娩ストールの内部 母豚は鉄柵の中に拘束され、哺乳子豚は鉄柵の隙間から母豚の乳を吸う

妊娠した母豚は、約114日の妊娠期間を経て、1回につき十数頭の子豚を産む。祖先種のイノシシはの一年間の出産数は5頭弱であるが[53]、多産母豚系統の育種により、産子数は大幅に増加しており、豚は1年2-2.5産で20-30頭を出産する[52]。この産子数の増加は、養豚業界にとって経済的なメリットがある一方、動物福祉の懸念が指摘される。すなわち一腹あたりの子豚数の増加による分娩の長期化がもたらす母豚の苦痛とストレス、死産子豚の増加、子豚の低体重と活力の低下[54]である。乳頭はイノシシで5-6対。豚は7対であり、産子数の増加に対して十分ではない[52]。子豚の低体重は世界中で一般的になりつつあり、出生時の体重が 1 kg 未満の子豚は 15% であると推定されている[55]

母豚は、妊娠期間中は妊娠ストールに、そして出産の少し前から子豚を離乳させる生後21日前後までの間は分娩ストールに収容される。

分娩ストールは、母豚の行動を制限し、妊娠ストール同様転回はできない。分娩ストールは、子豚の圧死を防ぐ目的から分娩柵が両側に取り付けられた檻のことで、子豚はこの分娩柵の間から母豚の乳を飲む。分娩ストールでは母豚と子豚がコミュニケーションを取れる機会はほとんどなく、母豚と子豚の相互作用が損なわれることで、異常行動の発生につながる[56]。自然下では分娩が近づくと、物陰など分娩するのに適切な場所を探して鼻で土を堀り、藁や草などの材料を運び込んで巣作りを行う。養豚場ではそれができず、分娩前日になると、藁などの巣作り材料がないにもかかわらず、母豚は口や鼻を使って巣作りの真似事をする[57]。これは真空行動という葛藤行動の一つであり、巣作りが母豚の内的に強く動機づけられていることを意味する[58]

分娩ストールも妊娠ストール同様に動物福祉を阻害するため、スウェーデン、スイス、ノルウェーは、分娩ストールを禁止している[59]。また、オーストリアとドイツでは、分娩後 5 日間程度以降の分娩ストールを段階的に廃止する[60]。日本では禁止されておらず、分娩ストールの使用が一般的である。子豚の圧死を防ぐという目的で使用される分娩ストールであるが、研究では、適切な環境を用意すれば分娩ストールを使わなくても圧死を防ぐことが可能だとされる[61]。圧死の要因として、育種による大型化もある。母豚は大型化した自分の体をうまくコントロールできないことがあり、体を横たえる時はある程度まで体が傾くとドスンとそのまま倒れる。そのため子豚が圧死するリスクとなるとも言われる[62]

母豚での跛行率は高く、最大48%にのぼり[63]、蔓延率は8 - 16%の間とされている。15%の母豚が跛行が原因で淘汰されており[64]、アメリカでは跛行は母豚淘汰の3番目に多い理由としてランク付けされている[65]。原因としてはストールという拘束飼育による運動不足が挙げられる。しかし問題は育種と考えられている。イノシシは体重が90kgに達するのに1年以上要するが、育種の結果、豚は半年で100kgを超える。この増体を目的とした育種による骨形成不全(肢や関節の変形)が主因と考えられている[52][66]。跛行は生産性へも負の要素となる[67]。跛行の他、母豚の死の一般的な原因は、突然死、内臓脱出(子宮脱、膣脱、直腸脱)とされる[68]。内臓脱出の割合は高く、一部の農場では雌豚の死亡の25?50%を占めるとも言われる。妊娠ストール飼育は内臓脱出の要因とも言われる[69][70]

分娩後、母豚は自分の子豚を体臭などにより明確に識別して世話をする[71]。子豚への21日前後の哺乳期間を経た後、交配用の豚舎に移動させられ、次の交配が行われる。横断的な研究によると、5産次までに淘汰される母豚は50%[72]。一般的に2年間で4 - 6産し、繁殖用として役目を終えた雌豚(平均3歳)は、「飼い直し」をしても肉質の向上が見られないため、廃用となり屠殺される。その肉はソーセージなどの加工品に利用されることが多い[73]
新生子豚?肥育豚[ソースを編集]

産まれたばかりの子豚(新生子豚)は皮下脂肪が他の動物種に比べて薄く被毛も少ないので寒さに弱いため、保温が必要になる[74]。自然環境では、子豚の離乳は生後17週目ころに完了するが、現代の集約養豚では、子豚は生後21日齢ごろに人為的に母豚から離乳される[75][76][77]欧州連合(EU)のように、動物福祉への配慮から、離乳時期を28日齢以降と制限している地域もある[78]。早期離乳は子豚への大きなストレスとなり、下痢が増加する要因[79]にもなるため、離乳時期については再検討することが求められている[80]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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