謄写版
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資器材の流通が滞るようになった謄写版の最末期には、謄写ファックスより画質が落ちるものの、コンピューター用のドットインパクトプリンターを使用し、タイプライター用原紙に打刻製版する代用手法も一部で行われた。
印刷

印刷を行う謄写器は、製のスクリーンを張った木枠が刷り台にヒンジで取り付けられている。枠をはね上げてスクリーンの刷り台側に原紙を固定したのち、用紙をセットした刷り台に接するよう下ろし、スクリーン上からインクを付けたローラーを移動させ圧着させることで、インクが原紙の穴を透過して紙に転写される。

輪転謄写機においてはドラムまたはローラーと連動するスクリーン(単胴式にあってはインクパッド)に原紙を取り付け、ドラムやローラーからスクリーン側にインクを供給しながら紙に圧着回転させることで同様の転写が行われる。最初に考案された単胴式(Single-drum machine)はドラム内にインク供給機構があり、構造が比較的単純でドラムを交換するだけで違う色のインクが扱える。2本のローラーでインクを伸ばしながらスクリーンに供給する複胴式(Dual-drum machine)はむらの少ない安定した印刷ができる利点がそれぞれにある。

ロネオ社やA・B・ディック社に代表される単胴式は、金属メッシュなどで構成されたドラム表面に固定したインクパッドにドラム内部から直接インクを供給して転写する。

ゲステットナー社に代表される複胴式は、1つのローラーがチューブからインクをすくい取り、それに接するもう1つのローラーがインクを均一に伸ばしつつ、その上を連動回転するスクリーンにインクを供給して転写する。

初期のインクはラノリンを主体につくられたが、のちにターキーレッドオイルを使用した水中油滴エマルジョンが主体となった。版の耐久度は、薄い金属箔を用いた特殊な原紙を除いて比較的低く、一般的に数百枚程度の印刷で、線に囲まれた文字内の小さな「島」部分(a、b、d、e、gなど)の原紙ワックス部分が剥落するなどして印刷品質が突然極度に低下し、事実上印刷不能となる。

謄写版印刷の例。英陸軍士官で冒険家のロバート・アーネスト・チーズマン1930年から1931年にかけて行ったアフリカでの調査の行路報告書(部分)。本記をタイプライターで、図表を鉄筆で製版している(大英博物館

鉄筆による手製版の例。第二次世界大戦中の英陸軍ユダヤ人旅団に従軍した兵士が過越祭のために作成したハッガーダーの表紙(1945年

鉄筆による手製版の例。フランスのカトリック司祭で作家のマオデス・グランドゥール(Maodez Glanndour)が少数言語のブルトン語に翻訳出版した「ヨハネの黙示録」表紙(1953年

見出しやイラストを鉄筆で、記事本記をタイプライターで製版した例(1974年、米ワシントン州クレエラム高校)

1981年に始まった戒厳令下のポーランドで、自主管理労組「連帯」メンバーが地下活動に使用した謄写器。「ヴロツワフの枠」と呼ばれた。

イギリスの謄写器メーカー・エラムス製のインク、鉄筆、修正液(左から)。ナチス・ドイツ占領下のノルウェーレジスタンスが地下新聞の印刷に使用していたもの(ノルウェー・ベルゲンフス要塞博物館)

謄写版の製版・印刷作業風景。4人の担当は左から、タイプ製版、ヤスリ盤と鉄筆による手製版、電動輪転謄写機の操作、印刷用紙の補充(1942年、米アーカンソー州ジェローム戦争移住センター米国国立公文書記録管理局

製版が終わった原紙を単胴式輪転謄写機のインクバッドに取り付ける(1941年、米ニューメキシコ州ペナスコ高校、米国国立公文書記録管理局)

単胴式の電動輪転謄写機で印刷を行う。ドラムの手前側には回転動力を伝達するプーリーとゴムベルトが見える(1943年、米ユタ州トパーズ戦争移住センター、米国国立公文書記録管理局)

歴史
前史

欧米でヘクトグラフ(コンニャク版1869年開発)やオフセット印刷(1875年開発)などの新しい印刷技術が次々と生み出されていたさなかの1874年、ロンドンに留学中のイタリア人法学生、エウジェニオ・デ・ズッカート(Eugenio de Zuccato)が考案し商業化された「パピログラフ」(Papyrograph)が謄写版の始まりとされる[1][2][3]。パピログラフは、ニスを塗った紙に腐食性のインクを用いたペンで描画することで製版を行うもので、ズッカートはさらにタイプライターを用いて同様の原理で製版する技術について、1895年に米国特許を取得した[4]

米国の発明家、トーマス・エジソン1875年、「エレクトリック・ペン」を使用する製版印刷技術「オートグラフィック印刷」(Autographic Printing)を開発し、1876年8月8日付で米国特許(第180857号)を取得した[5]


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