課税
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租税制度に関する一般的な基本原則として、アダム・スミスの4原則やアドルフ・ワグナーの4大原則・9原則、マスグレイブの7条件などの租税原則が知られており、それらの理念は「公平・中立・簡素」の3点に集約できる[6]。それらはトレードオフの関係に立つ場合もあり同時に満たされるものではなく、公正で偏りのない税体系を実現することは必ずしも容易ではない。種々の税目を適切に組み合わせて制度設計を行う必要がある[7]

租税原則[8]アダム・スミスの
4原則
公平の原則
税負担は各人の能力に比例すべきこと。言い換えれば、国家の保護の下に享受する利益に比例すべきこと。
明確の原則
租税は、恣意的であってはならないこと。支払時期・方法・金額が明白で、平易なものであること。
便宜の原則
租税は、納税者が支払うのに最も便宜なる時期と方法によって徴収されるべきこと。
最小徴税費の原則
国庫に帰する純収入額と人民の給付する額との差をなるべく少なくすること。
ワグナーの
4大原則・9原則

財政政策上の原則
課税の十分性
財政需要を満たすのに十分な租税収入があげられること。
課税の弾力性
財政需要の変化に応じて租税収入を弾力的に操作できること。

国民経済上の原則
正しい税源の選択
国民経済の発展を阻害しないよう正しく税源の選択をすべきこと。
正しい税種の選択
租税の種類の選択に際しては、納税者への影響や転嫁を見極め、国民経済の発展を阻害しないで、租税負担が公平に配分されるよう努力すべきこと。

公正の原則
課税の普遍性
負担は普遍的に配分されるべきこと。特権階級の免税は廃止すべきこと。
課税の公平性
負担は公平に配分されるべきこと。すなわち、各人の負担能力に応じて課税されるべきこと。負担能力は所得増加の割合以上に高まるため、累進課税をすべきこと。なお、所得の種類などに応じ担税力の相違などからむしろ異なった取扱いをすべきであること。

租税行政上の原則
課税の明確性
課税は明確であるべきこと。恣意的課税であってはならないこと。
課税の便宜性
納税手続は便利であるべきこと。
最小徴税費への努力
徴税費が最小となるよう努力すべきこと。
マスグレイブの
7条件
十分性
歳入(税収)は十分であるべきこと。
公平
租税負担の配分は公平であるべきこと。
負担者
租税は、課税対象が問題であるだけでなく、最終負担者(転嫁先)も問題である。
中立(効率性)
租税は、効率的な市場における経済上の決定に対する干渉を最小にするよう選択されるべきこと。そのような干渉は「超過負担」を課すことになるが、超過負担は最小限にとどめなければならない。
経済の安定と成長
租税構造は経済安定と成長のための財政政策を容易に実行できるものであるべきこと。
明確性
租税制度は公正かつ恣意的でない執行を可能にし、かつ納税者にとって理解しやすいものであるべきこと。
費用最小
税務当局及び納税者の双方にとっての費用を他の目的と両立し得る限り、できるだけ小さくすべきこと。

租税法律主義

租税法律主義とは、租税は、民間の富を強制的に国家へ移転させるものなので、租税の賦課・徴収を行うには必ず法律の根拠を要する、とする原則。この原則が初めて出現したのは、13世紀イギリスのマグナ・カルタである。

近代以前は、君主や支配者が恣意的な租税運用を行うことが多かったが、近代に入ると市民階級が成長し、課税するには課税される側の同意が必要だという思想が一般的となり始めていた。あわせて、公権力の行使は法律の根拠に基づくべしとする法治主義も広がっていた。そこで、課税に関することは、国民=課税される側の代表からなる議会が制定した法律の根拠に基づくべしとする基本原則、すなわち租税法律主義が生まれた。現代では、ほとんどの民主国家租税法律主義が憲法原理とされている。
租税が課される根拠

租税が課される根拠として、大きくは次の2つの考え方がある。
利益説 -
ロックルソー、アダム・スミスが唱えた。国家契約説の視点から、租税は個人が受ける公共サービスに応じて支払う公共サービスの対価であるとする考え方。後述する応益税の理論的根拠といえる。

能力説 - ジョン・スチュアート・ミル、ワグナーが唱えた。租税は国家公共の利益を維持するための義務であり、人々は各人の能力に応じて租税を負担し、それによってその義務を果たすとする。「義務説」とも称される。後述する応能税の理論的根拠といえる。

租税の種類

租税制度は仕組みの異なるさまざまな税目から成り立っている[7]。それぞれの税目には長所と短所があり、観点の違いによって様々な分類方法がある[7] OECD各国の主要税収構造(種類別, GDPに占める比率%)
青は所得税、橙は法人税、緑は社会保険(被用者)、赤は社会保険(雇用者)、紫は給与税、桃は資産税、灰は消費税、薄緑は物品税
所得税・消費税・資産課税など

OECD各国平均の
税収構造(2014年) [9].mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  個人所得税 (24%)  法人所得税 (9%)  社会保険 (26%)  給与税 (1%)  資産税 (6%)  一般消費税 (21%)  個別消費税 (10%)  その他 (4%)

税負担の尺度となる課税ベースに着目した分類として、「所得税」「消費税」「資産課税」などがある[7]。OECD諸国における各国平均の課税割合を右に記す。
所得税
個人の所得に対して課税される個人所得課税(所得税など)と、法人の所得に対して課税される法人所得課税(法人税など)がある[7]。累進課税による特性として、経済自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)をもたらすとされる[7]。所得控除、医療費控除をはじめ、年金貯蓄や住宅投資などに対する優遇措置など、納税者の負担軽減のための様々な制度を導入しやすいことが利点でもある反面、それらの制度が既得権化すると公平性を損なうだけでなく、課税ベースの縮小によって税収調達機能の低下、非効率化といった問題を生じる[10]。また、納税者個々の収入を把握し的確に課税し徴収する必要があるため正確な徴税が行いにくく、この制度を有効に活用するには税務当局の能力の向上が必須となる。このため3つの課税ベースのうちでもっとも開発が遅れ、所得課税が租税全体において大きな役割を果たすのは国家の徴税能力の向上した近代以降のことである。また同じ理由で、納税・徴税者双方に大きな事務的な負担がかかる課税である[11]。このことから、所得課税は先進国の税収において大きな割合を占めることが多いが、発展途上国においてはそれほどの重要性を持たないことが多い。
消費税
財・サービスの消費に対して課税される[7]消費税のほか、関税酒税などが含まれる。控除などによる特別措置の余地が少なく、業種ごとの課税ベース把握の不公平も生じないため、水平的公平、世代間の公平に優れており、広い課税ベースによる安定した歳入が見込める[12]。また所得税に比べて課税対象の把握が納税・徴税者双方にとってわかりやすく、税務当局の能力がそこまで必要ではないことから、特に発展途上国においては消費課税が税収の大半を占めていることが多い[13]。反面、所得全体に占める税負担の割合が低所得者ほど大きくなるため、逆進的な性質を伴う[14]
資産課税など
資産の取得・保有・移転などに対して課税される[7]固定資産税相続税贈与税などが属する。他者からも明確に把握できる土地や資産を課税対象とすることから徴税が行いやすく、近代以前においては最も中心的な課税であった。また資産を有する富裕層に対しての課税という性格が強いため、所得課税と同じく所得格差の是正の機能を有するとされる。一方であくまでも有資産者に対する税であるため、課税対象が少なく税収の柱にはしにくい面がある[13]

近年では就労の促進や所得再分配機能の強化などを目的として、所得課税などに対する給付付き税額控除の導入も進んでいる[15]。給付付き税額控除は制度の複雑化や過誤支給、不正受給などの課題を伴う反面、課税最低限以下の層を含む低所得世帯への所得移転を税制の枠内で実現でき、労働供給を阻害しにくい制度設計も可能であることから[注 1]、格差是正や消費税などの逆進性対策に適するとされる[16][注 2]。勤労所得や就労時間の条件を加味して就労促進策の役割を担う勤労税額控除は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など10か国以上が導入している[17]。子育て支援を目的とする児童税額控除はアメリカ、イギリスなどが採用しているほか、ドイツやカナダなども同趣旨の給付制度を設けている[18][注 3]。消費税の逆進性緩和を目的とする消費税逆進性対策税額控除はカナダやシンガポールなどが導入している[19]
国税と地方税OECD各国税収のタイプ別GDP比(%)。


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