課税
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給付付き税額控除は制度の複雑化や過誤支給、不正受給などの課題を伴う反面、課税最低限以下の層を含む低所得世帯への所得移転を税制の枠内で実現でき、労働供給を阻害しにくい制度設計も可能であることから[注 1]、格差是正や消費税などの逆進性対策に適するとされる[16][注 2]。勤労所得や就労時間の条件を加味して就労促進策の役割を担う勤労税額控除は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など10か国以上が導入している[17]。子育て支援を目的とする児童税額控除はアメリカ、イギリスなどが採用しているほか、ドイツやカナダなども同趣旨の給付制度を設けている[18][注 3]。消費税の逆進性緩和を目的とする消費税逆進性対策税額控除はカナダやシンガポールなどが導入している[19]
国税と地方税OECD各国税収のタイプ別GDP比(%)。
赤は国家間、青は連邦・中央政府、紫は州、橙は地方、緑は社会保障拠出[20]

租税は課税権者に応じて国税地方税に区分できる[7]。子ども手当のような生存保障の支出は、国が全額財源を負担するのが論理的には一貫するが、対人社会サービスなど現物給付については、地方自治体が供給主体となる[21]。国税では富裕層への課税や矯正的正義(応能原則)が重視されるが、所得の多寡を問わないユニバーサリズムの視点からすれば、地方税に関してはむしろすべての参加者が負担する配分的正義(応益原則、水平的公平性)が基準となる[22]

国税の課税権者は国、地方税の課税権者は各地方自治体となるが、地方税に関する税率などの決定は必ずしも各自治体の自由裁量ではなく、税率の上下限など、国によって様々な形での制約が設けられている[23]。チェコ、デンマー ク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ポルトガル、スペインといった国々では地方税の税目に対して上限と下限両方の制限が存在し、オーストラリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、オランダ、ポーランド、スイス、イギリス、アメリカなどは上限のみが存在する[23]。イタリアの州生産活動税のように、国が定めた標準税率を基準に税率の上下限幅が決められているケースもある[23]。日本では法人課税を中心に税率の上限(制限税率)が設けられているが、直接的に下限を定めた規制は存在せず、法的拘束力の無い標準税率地方債の起債許可や政府間財政移転制度(地方交付税交付金)の交付額算定と連動させることで、それを下回る税率の選択を抑制する制度設計となっている[24][注 4]。上位政府による起債制限と政府間財政移転の双方を背景として地方税率が下方硬直的になっている例は、日本以外の主要国には見当たらず、日本の標準税率制度は国際的にみてもかなりユニークな制度であるといえる[25]
普通税と目的税

租税は、特にその使途を特定しないで徴収される普通税と、一定の政策目的を達成するために使途を特定して徴収される目的税とに区分できる[7]目的税は公的サービスの受益と負担とが密接に対応している場合は合理性を伴った仕組みとなる反面、財政の硬直化を招く傾向があり、継続的に妥当性を吟味していく必要がある[7]
直接税と間接税

租税を負担する者から直接徴収する租税を直接税と言い、納税者以外の者に転嫁する租税を間接税という[26]。ただし、租税の転嫁の有無が税目ごとに不明確な場合もあり、直接税と間接税の分類の基準には諸説ある[26]

言い換えると、具体的な商品サービスの価格を通じて税が納税義務者から消費者に転嫁されることを予定した租税を間接税と言い、それ以外の租税を直接税と呼ぶ。例えば、「たばこ税」や「法人税」は両者とも消費者に転嫁されているが、たばこ税は具体的な商品に転嫁されているので間接税となる。法人税は具体的な商品やサービスに転嫁されていないため、直接税である[7]

直接税はオフショア市場の活用により税収が減っている。
直接税の例

所得税法人税相続税地方税における住民税事業税固定資産税[27]
間接税の例

印紙税、登録税、通行税などの流通税酒税物品税関税などの消費税[26]たばこ税 [28]
従量税と従価税

数量あたりで税率を定めた税を従量税、価額単位で課される税を従価税という[7]
応益課税と応能課税

納税者の担税力、すなわち租税の負担能力に応じて賦課する立場の考え方を応能課税、公共サービスの受益に応じて課税すべきとする考え方を応益課税という[6]。租税は公益サービスのための財源であることから、少なからず応益課税の要素が内在するが、個別の受益と負担との関係が必ずしも明確でなく、応益負担だけでは成り立たない[6]。地方税は地域住民による負担分任という性格上、応益課税の要素がより重視される[6]。「受益者負担の原則」も参照
税の帰着詳細は「税の帰着」を参照

法においては、税を誰から徴収するかを定めている。多くの国では、税は事業者に課されている(たとえば法人税給与税)。しかし最終的に誰が税を支払うか(税を負担するか)は、その税が製品コストに組み込まれることで、市場が決定する。経済学理論では、税による経済的効果は、必ずしも法的課税者に降りかかるわけではない。たとえば雇用主が支払う雇用に対する税は、少なくとも長期的には従業員に影響を及ぼしている。
国民所得に対する負担率
租税負担率と社会保障負担率各国の租税負担率一覧については「en:List of countries by tax revenue to GDP ratio」を参照

国民所得に占める租税の総額(国税と地方税を合わせた租税収入金額を国民所得で除した額)を租税負担率という[29]。また、国民所得に占める社会保障負担額の総額(医療保険年金保険などを合わせた社会保障負担額を国民所得で除した額)を社会保障負担率という。
国民負担率

国民全体の所得に占める租税負担率と社会保障負担率の合算を 国民負担率(national burden ratio)という[29]。なお、国民負担率に次世代の国民負担(財政赤字分)を加味して算出した割合を潜在的国民負担率という[29]
徴収方式

税の徴収方式としては、申告課税と賦課課税の二つの方式が主な方式となっている。賦課課税方式は各政府が納付義務を持つものに税額を計算して賦課するものであり、申告課税は逆に納付義務を持つものが自ら税額を計算して政府に申告するものである[30]。賦課課税方式は近代までは中心的な徴収方式であったものの、20世紀後半に入ると申告課税が主流の納付方式となった。このほか、いくつかの国家においては納税者への給与などの支払いの際にその雇用者があらかじめ税額相当を天引きしておく、いわゆる源泉徴収が行われている[31]。また、文書に対し収入印紙を貼り付けて納付する印紙納付もある。
租税の歴史

租税の歴史は国家の歴史と密接に関連する。極端な増税は、農民など税の負担者を疲弊させ反乱を招き国家の滅亡につながることもあった。歴史的には、労働、兵役やその地方の特産物などによる納税が行われた時代があった。例えば万里の長城など歴史的な建造物の多くは、強制的な労働力の徴発より作られたものと考えられている。

租税制度は主に次のような変遷を遂げた[32]
古代

原始には、神に奉じた物を再配分する、という形を取っていたとされている。社会的分業によって私的耕作や家内工業の発展とともに集団の中で支配者と被支配者が生じ、支配者は被支配者から財産の一部を得るようになった。これには、被支配者が支配者に差し出す犠牲的貢納と支配者が被支配者から徴収する命令的賦課があった。古代の税としては、物納賦役が主に用いられた。物納は農村においては穀物を主とする収穫が主であり、それに古代においては貴重品であったや、その地方の特産品を特別に納付させることも行われた。賦役は税として被支配者に課せられる労役のことであり、土木工事などの公共事業や、領主支配地における耕作など様々な形態を取った。

古代エジプトパピルス文書に当時の農民に対する厳しい搾取と免税特権をもつ神官・書記に関する記述がある。

古代インドマウリヤ朝では、農民に対し収穫高の四分の一程度を賦課し、強制労働も行われていた。


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