認知症
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患者の多くは死ぬ場所に自宅を希望しているが、現状では大部分は病院で亡くなっている[12]

しかし、この問題は家族や貧困の問題とされており、社会問題とされることはまだまだ少ない。日本においては、患者の9割近くが65歳以上であり65歳未満の初老期の認知症患者(若年性認知症)の対策が遅れているため、その患者の家族負担は65歳以上よりも重いとされている。介護保険においては、要支援2以上の患者が認知症高齢者グループホームを利用できる。
介護士の負担

2018年に70代の認知症の男性が包丁を持って施設内部を徘徊していたのを発見した際に介護士の男性が包丁を取り上げたところ、襲いかかってきたために自衛のために投げ倒し、認知症の男性が軽傷を負った。高山市はこれを認知症患者への介護士による虐待と判断した。岐阜県は虐待にあたるか捜査中である。認知症患者の面倒を見る介護職員の9割近くがセクハラや暴言などを受けている[80]
自動車運転をめぐる問題

判断力が低下した認知症患者による自動車運転などの問題もある。各県の公安委員会は認知症にかかっている者の運転免許を取消しまたは停止することができる(道路交通法第103条)。認知症関連5医学会は連名でガイドラインを策定し、認知症が判断した際は、医師は患者および家族に対し自動車運転の中止ならびに運転免許証返納を行うよう説明し、かつその点をカルテに記載するよう勧告している[81]
鉄道事故をめぐる問題

認知症患者(疑いがある場合も含む)が鉄道事故に巻き込まれるケースが、2005年度から2012年度までの8年間で149件発生していることが明らかになった。事故被害者のうち115人は死亡しているが、こうしたケースについて鉄道事業者が、事故被害者が認知症であることを考慮せずに賠償請求をするケースが多く見受けられており、安全対策や、誰が賠償責任を負うかなど、新たな課題として浮上している[82]。事故被害者の遺族らからは、四六時中の見守りは無理などとして、鉄道事業者の動きに反発する声が強い[83]

2007年12月に認知症の男性がJR共和駅で線路内に下りて起こした事故でJR東海が親族に約720万円の賠償を求める訴えを起こしたが、2016年3月1日、最高裁はこの損害賠償請求を棄却し、認知症患者やその家族にとっては画期的な判決となったが、国の政策も含め、責任能力がない人が起こした事故の損害回復をどうすべきかという課題も浮かび上がった[84]。「共和駅#2007年12月7日の事故」も参照
所在不明者をめぐる問題

警察庁のまとめによると、2013年、捜索願(行方不明者届)が出された認知症の人の数は1万322人であり[85]、2012年度と2013年度に届出のあった19,929人の不明者のうち、2014年4月現在所在が確認できていない人数が258人である[86]。一方で警察に保護されたものの住所や名前などの身元不明の人が13人(2013年5月現在)いた[87]

2019年6月20日の警察庁の発表によれば、2018年中に警察に届け出があった認知症の行方不明者はのべ16,927人で、前年比1064人増であり、統計を取り始めた2012年から連続で増加、最多となった。行方不明者全体87,962人に占める割合は19.2パーセントで過去最大。70歳以上が9割を占めた。[88]

2023年6月の2022年中に全国の警察に届け出のあった認知症の行方不明者はおよそ1万8700人と10年連続で増加し、最多を更新。77.5%は届け出を受理した当日に、99.6%が受理から1週間以内に所在が確認されている。[89]
法的保護「日常生活自立支援事業」も参照

既に、認知症患者を対象にした悪徳商法などが発生している。悪質リフォームや、金融機関による認知症患者の金融商品の無断解約[90]などは、発生・発覚時にはよく報じられるが、解決策について議論されることは少ない。このため、家族などや弁護士司法書士社会福祉士地域包括支援センター成年後見人制度による対策が求められている。

法曹関係の論文では「判断不十分者」という語で認知症患者を指す場合がある。
刑事手続

2010年に認知症と診断された大阪府在住の82歳の男性が、無免許運転の容疑で略式起訴され堺区検から罰金刑を受け、納付しなかったために大阪刑務所労役場に留置された。この男性は、認知症で判断力が低下しており、また、相当額の年金収入があり強制執行が可能であるにもかかわらず、検察側は事情を考慮せず労役場に留置したなどとして、同区検を相手取り大阪地方裁判所に訴えを起こした[91]

執行猶予期間中に再び万引き行為を行った認知症患者に対し、2016年4月12日神戸地方裁判所で、再び執行猶予付きの判決が言い渡された。当該判決は、被告を診察した医師の「行動を抑制し難い状況にあった」との証言が受け入れられた形となった[92]

執行猶予期間中だった認知症患者の女性が2015年8月に、青果店で万引きをしたとして逮捕・起訴され、一審の高知地方裁判所では懲役8ヵ月の実刑となったが、二審の高松高等裁判所2016年6月21日に「一審では認知症の精神鑑定が行われておらず違法」として、審理を同地裁に差し戻した[93]

名称変更
経緯

日本老年医学会において、2004年3月に柴山漠人が「『痴呆』という言葉が差別的である」と問題提起したのを受け、6月から厚生労働省において、医療・福祉などの専門家を中心とした用語検討会で検討が始まった。その過程において、厚生労働省は、関係団体や有識者からヒアリングを行うとともに、「痴呆」に替わる用語として選定した複数の候補例などについて広く国民の考えを問うため、ウェブページなどを通じて意見の募集を行った。この結果、一般的な用語や行政用語としての「痴呆」について、次のような結論に至った。

「痴呆」という用語は、侮蔑的な表現である上に、「痴呆」の実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断などの取り組みの支障となっていることから、できるだけ速やかに変更すべきである。

「痴呆」に替わる新たな用語としては、「認知症」が最も適当である。

「認知症」に変更するにあたっては、単に用語を変更する旨の広報を行うだけではなく、これに併せて、「認知症」に対する誤解や偏見の解消などに努める必要がある。加えて、そもそもこの分野における各般の施策を一層強力にかつ総合的に推進していく必要がある。

国民の人気投票では「認知障害」がトップであったが、従来の医学上の「認知障害」と区別できなくなるため、この呼称は見送られた。こうして2004年12月24日付で、法令用語を変更すべきだとの報告書(「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書)がまとめられた。厚生労働省老健局は同日付で行政用語を変更し、「老発第1224001号」により老健局長名で自治体や関係学会などに「認知症(にんちしょう)」を使用する旨の協力依頼の通知を出した。関連する法律上の条文は、2005年の通常国会介護保険法の改正により行われた。

医学用語としては、まず日本老年精神医学会が「認知症」を正式な学術用語として定め、関係40学会にその旨通知した。現在の医学界では、「痴呆」はほぼ「認知症」と言い換えられている。

主に心理学や神経科学系の学会では、従来より「認知」という語を厳密に用いてきたため、学会として認知症という語に反対している[94]
行政用語の改正

平成16年12月24日付け、厚生労働省老健局長通知による「痴呆」からの改正用語例は、以下のとおりである。

痴呆 → 認知症

痴呆性高齢者 → 認知症高齢者

痴呆の状態にある高齢者 → 認知症の高齢者

痴呆性高齢者グループホーム →
認知症高齢者グループホーム

現在、第162回国会において審議されている「介護保険法等の一部を改正する法律案」による改正後の介護保険法では「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能およびその他の認知機能が低下した状態」として認知症を定義している。
表記改正への賛否議論

「痴呆」という呼び名が差別的であるとされたのは、「痴」「呆」ともに「愚か」「馬鹿」という意味を持つ漢字だからである。実際、厚生労働省のアンケートでは、「痴呆」という呼称が一般的な用語や行政用語として用いられる場合、また病院などで診断名や疾病名として使用される場合でも、不快感や軽蔑した感じを「感じる」人は、「感じない」人を上回った。

「痴呆」の呼び名の代替案として「認知症」とする事とした事に関して、「認知」の意味が正しく伝わらず、適切ではないのではないか、また日本語として破綻しているのではないか、という議論が出ている。

心理学会関係(検討会には参加者なし)からは、「認知」は人間の知的機能をあらわす概念であり、それをそのまま病名として用いると意味が不明確で誤解が生じる危険があるとして異論もある。社団法人日本心理学会・日本基礎心理学会・日本認知科学会・日本認知心理学会から連名で出された意見書の中でその不適切さが指摘され、代案として「認知失調症」を提起する意見書が厚生労働省に提出されている。


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