認知症
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AChE薬は初期状態の認知症に多く処方されているが、しかしその利益は大きくない[42]

「治療可能な認知症 (treatable dementia)」の場合は原因となる疾患の治療を速やかに行う。慢性硬膜下血腫または正常圧水頭症が原因の場合は手術で治す事ができる。

ハーバード健康出版局によると、「認知症様症状は決して元に戻らない」(Dementia-like symptoms are never reversible)という認識は不正確であり、バドソン医師(Dr. Budson)は「多くの場合、体調を治療することが認知症様症状を逆戻りさせるかもしれない」(In many cases, treating the condition may reverse the dementia-like symptoms)と述べている[43]
援助の方針

介護者には、認知症の介護はもどかしく非常にストレスになることを心理教育し、ネグレクトにならないよう陰性感情を認識させる[1]。介護者についてもうつ病を罹患している可能性を診察する[1]

介護保険障害年金デイケア通所など社会資源の利用も有用である[1]。専門医(老年内科、精神科神経内科など)、介護職(介護福祉士など)の協力・連携の元にチーム医療を行う事が望ましい[1]
心理療法「心理療法」および「認知症患者への心理療法(英語版)」も参照

軽中程度の認知症患者(タイプを問わない)に対しては、NICEは投薬(認知機能改善を目的とする)の有無に関わらず、認知刺激グループ療法(Cognitive Stimulation Therapy)プログラムへの参加機会が与えられるべきであるとしている[44]。日中の散歩や作業療法などで昼夜リズムを整える(光療法[45]、思い出の品や写真を手元に置き安心させる回想法テレビ回想法なども有効な場合がある。

患者の不安感など精神状態の影響を受ける周辺症状は、介護者がそれらを取り除く事で発症を抑制することが可能となることもある(ユマニチュード)。

BPSDに対して、多数の非薬理学的な介入の手法があるが、音楽療法などアートセラピーと行動管理技術が効果的である[46]。興奮状態に対しては、介護施設において、パーソンセンタードケア、コミュニケーション技術の訓練、認知症ケアマッピングが、ただちに、あるいは6か月後でも有効であり、音楽療法と、活動(標準的な活動状態)は有効だが長期的な試験はなく、アロマテラピーと光療法は有効でない[47]

認知症患者の睡眠障害に対して、薬物を用いない方法では、光療法が有効だとするランダム化比較試験が複数存在する[48]
薬物療法

アルツハイマー型認知症 (AD) の認知機能改善薬には、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChE、抗コリン剤)としてドネペジル(商品名アリセプト)、ガランタミン(商品名レミニール)、リバスチグミン(商品名イクセロン、リバスタッチ)が存在する。NICEの2006年のガイドラインはAChEを軽中度ADへの選択肢として推奨している[49]

また全く異なる薬理機序に基づく治療薬にNMDA受容体拮抗薬としてメマンチン(商品名メマリー)があり、NICEは重度またはAChEが不適の中等度アルツハイマー病への管理のオプションとして推奨している[49]

しかしこれらの薬剤は、診断が確定された場合のみに投与すべきであり、ルーチン的に用いてはならない[1]。NICEは、血管性認知症にAChEおよびメマンチンを処方してはならない、および軽度認知障害 (MCI) にAChEを処方してはならないとしている[49]

大うつ病を併発する認知症については、NICEは教育を受けた専門家によって抗うつ薬を投与すべきであるとしている[50]

米国老年医学会(英語版) (AGS) は、2014年に、認知症状改善と消化器系の副作用についての定期評価なしには、AChEを処方してはならないとしている[51]

オーストラリア総合医学会の2006年のガイドラインでは、AChEを投与しても最初の6か月間にて状態が安定・改善しない患者については、投与を続けても利益を得られる可能性は低いとされている[52]

抗うつ、抗パーキンソン、泌尿科領域などの抗コリン剤が認知症リスクと強く関連(症例対照研究) (薬害オンブズパースン会議2018年7月23日記事)

日本のアルツハイマー病治療ガイドラインでの薬物治療の強い推奨は根拠に欠ける (薬害オンブズパースン会議2018年7月23日記事)

薬物でのBPSD管理

また認知症患者は認知機能低下のみならず、不眠抑うつ、易怒性、幻覚(とくに幻視)、妄想といった周辺症状 (BPSD) と呼ばれる症状を呈すことがある。これらには向精神薬の投与が有効でありえるが、第一に心理療法を試みるべきであり[1]、薬物の正しい利用に努め[53]、低用量にて副作用を監視しながら慎重に投与すべきである[52][18]。厚労省はBPSDに対して、向精神薬は原則使用すべきではないとしている[18]

NICEの2006年ガイドラインは、BPSDに対して薬物介入を第一選択肢とするのは、深刻な苦痛または緊急性のある自害・他害リスクのある場合に限らなければならない[注釈 3]、2013年の厚労省のガイドラインでは第一選択は非薬物介入が原則であり処方時には患者・保護者に承諾を取るべきである[18]としている。
抗精神病薬

イギリス政府は、抗精神病薬が死亡につながるため使用の削減を国家戦略としており、2006年の約17%の使用率を5年後には約7%まで減らしたことを、2013年の認知症G8サミットにて報告した[54]。アメリカでは2016年末までに16%まで削減することを目標としている[55]

米国老年医学会 (AGS) は2014年、BPSDに対しては抗精神病薬の処方を第一選択肢としてはならないと勧告している[51]

厚労省は2013年のガイドラインで、BPSDへの抗精神病薬投与は適応外処方であり、使用しない姿勢が必要で、中等度から重度のBPSDが対象となり、身体拘束を意図した投薬、多剤併用はすべきではないとしている[18]

NICEの2006年のガイドラインは、アルツハイマー病 (AD)、血管性認知症 (VaD)、混合型認知症について、軽度から中等度のBPSDであるならば有害事象および死亡リスクが増加するため抗精神病薬を処方してはならないとしている[注釈 4]

またNICEはDLB認知症について、軽度から中等度のBPSDであるならば、重大な有害事象リスクのため抗精神病薬を処方してはならないとしている[56]


漢方薬

遠志イトヒメハギの根で、その主治は鎮静作用であるが、『神農本草経』(後漢?三国時代に成立)に「不忘」とあり、健忘症状に有効であることが記載されている。近年の研究では、遠志が高齢者への記憶を含めた認知機能を改善させた報告や、βアミロイド(Aβ)によるラット皮質ニューロンへの傷害を抑制した報告などがある。『神農本草経』の記載は、現在の認知症の中核症状と同等のものとは考えにくいが、健忘を使用目標のひとつとして、遠志を含有する漢方薬を考慮できる。[57][58]

健忘を主治とする生薬の「遠志」を含む漢方エキス製剤は、帰脾湯、加味帰脾湯、人参養栄湯である。「遠志」を含まないが、認知症に効果が期待できる漢方薬には、抑肝散抑肝散加味陳皮半夏釣藤散当帰芍薬散八味地黄丸がある。[58]


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