個々の形式に加え、詩はさまざまなジャンルやサブジャンルによって捉えられることも多い。詩のジャンルは概して、主題、スタイル、その他のより広範な文学的特徴に基づく詩の伝統もしくは分類である[65]。ジャンルを文学の自然な形式であると見做す批評家もいる[66]。またジャンルを、異なった作品がいかに他の作品と関連し言及するかの研究であると見做す批評家もいる[67]。
叙事詩は広く認められるジャンルの1つであり、その時代の文化にとって英雄的もしくは重要な性質の出来事に関する長大な詩としてしばしば定義される[68]。抒情詩も広く認められるジャンルであり、短く、美しい調子を持ち、観照的な傾向を持つ。批評家によってはより細かいサブジャンルへと詩を分類し、個々の詩は数多くの異なったジャンルに同時に属すると見做されもする[注釈 25]。多くの場合、共通する伝統の結果として、詩のジャンルは文化を超えて同じ特性を見せる。
以下に一般的なジャンルをいくつか記述するが、ジャンルの分類、その特質の記述、そして詩をジャンルに分類しようとする理由そのものすらもさまざまな形を取りうる。
物語詩ジェフリー・チョーサー詳細は「物語詩」を参照
物語詩は物語を語る詩のジャンルである。広義には叙事詩も物語詩に含まれるが、「物語詩」という用語はより小さな、概してより人間的興味に訴えるような作品に用いられることが多い。
物語詩は最も古い詩の種類であったかもしれない。多くのホメロス研究者は、『イーリアス』と『オデュッセイア』が一晩の娯楽により適している個別のエピソードに関する短い物語詩の編集(コンピレーション)により構成されたものであると結論している。多くの物語詩――スコットランド人やイングランド人のバラッドやスラヴ人の英雄詩など――は文字使用以前の口承に起源を持つ実演詩 (en:performance poetry
) である。メーター、頭韻法、ケニングなどの詩を散文と区別する要素のいくつかはかつて伝統的な物語を暗唱する吟遊詩人たちの記憶術として機能していたのではないかと推測されている。主要な物語詩人としては、オウィディウス、ダンテ・アリギエーリ、ファン・ルイス、ジェフリー・チョーサー、ウィリアム・ラングランド、ルイス・デ・カモンイス、ウィリアム・シェイクスピア、アレキサンダー・ポープ、ロバート・バーンズ、フェルナンド・デ・ロハス、アダム・ミツキェヴィチ、アレクサンドル・プーシキン、エドガー・アラン・ポー、アルフレッド・テニスンなどがいる。
叙事詩『ラーマーヤナ』よりランカの戦争。サヒブディン画(1649-53)詳細は「叙事詩」を参照
叙事詩は詩のジャンルの1つであり、また物語文学の主要な形式の1つでもある。叙事詩は持続的な語りにより英雄的もしくは神話的な人物(たち)の生涯と業績を物語る。
叙事詩の例として、ホメロスの『イーリアス』と『オデュッセイア』、ウェルギリウス『アエネーイス』、『ローランの歌』、『ニーベルンゲンの歌』、ルイス・デ・カモンイス『ウズ・ルジアダス』、『わがシッドの歌』、『ギルガメシュ叙事詩』、『マハーバーラタ』、ヴァルミキ (en:Valmiki)『ラーマーヤナ』、フェルドウスィー『シャー・ナーメ』、ニザーミー『ハムセ』(「五部作」)、チベットの叙事詩『リン・ケサル大王伝』、アイヌのユーカラなどがある。
西洋では20世紀初頭以降は叙事詩や長詩全般があまり書かれなくなったが、それでも若干の重要な叙事詩は書かれ続けている。デレック・ウォルコットはその叙事詩『オメロス』に主によりノーベル文学賞を受賞した[69]。