詩語(en:poetic diction; 詩の用語法)は言語が使用される方式を扱う。音声だけでなく、内在する意味や、その音声や詩型との相互作用にも及ぶ。多くの言語や詩型は極めて独特な詩語を有しており、詩のための独自の文法や方言を持つまでに至っている。これには20世紀後半の韻律論で好まれたような通常の言葉遣いの厳密な使用から、中世やルネサンス期のマーカー(en:makar. スコットランドの詩人を指す)などに見られる非常に華美できらびやかな言語の用法までの幅がある。
詩語には直喩や隠喩(メタファー)のような修辞技法やイロニーのような口調なども含まれる[注釈 21]。アリストテレスは『詩学』において「何よりも偉大なことは隠喩の名手であることだ」と書いている[51]。モダニズムの台頭と共に、詩人たちの一部は修辞技法に重きを置かない詩語を選び、事柄や経験を直接表現し、口調を探求しようとした。他方で、シュールレアリストたちは修辞技法をその極限まで推し進め、誤転用を頻繁に使用した。
寓話(アレゴリー)は多くの文化において詩語の中核となっており、古典期、中世盛期、ルネサンス期の西洋で顕著であった[注釈 22]。しかしながら詩は、全面的にアレゴリー的であるよりもむしろ、完全なアレゴリーを構築することなしに言葉の意味や効果を深化させる象徴や引喩を含むこともある。
詩語の他の強力な要素としては鮮明なイメージを効果のために用いることが挙げられる。例えば、予期せぬ、あるいは有り得ないイメージの並置はシュルレアリスム詩(デペイズマン)や俳句で特に強力な要素となっている。鮮明なイメージはまたしばしば象徴性にも満ちている。
詩語の多くで、(ホメロスの「薔薇色の指をした暁(の女神)」や「葡萄酒の濃き海」のような)短いフレーズやより長いリフレインのようにして、効果を得るための語句の反復が行われる。このような反復は詩に頌歌の多くで見られるような厳粛な調子を付加し、あるいは言葉の文脈が変わればイロニーを交えたりもする。例えば、シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』のアントニーの有名なユーロジーでは、アントニーが繰り返す「ブルータスは高貴な男ゆえ」という言葉は真摯な調子から皮肉が滲み出るものへと変化してゆく[52]。 多くの文化がそれぞれ独自の詩型を発展させてきた。成熟・完結し、もしくは「広く認められた」詩型では、押韻構成やメーターやその他の要素は一連の規則に基づく。エレジーのように比較的ゆるやかな構成規則を持つものから、ガザルやヴィラネルのように高度に様式化された構造を持つものまでがある。以下では複数の言語に跨って広く用いられている詩型の一部を記述する。 ソネットは時代を通じて(西洋詩で)最も一般的な詩型であり、13世紀頃には14行から成り一式の押韻構成と論理構造に従う詩として成立していた。典型的には、ソネットの最初の4行は「a-b-a-b」の押韻構成を取り、主題を導入する。ソネットに纏わる慣習はその歴史と共に変化し、結果としてさまざまな異なったソネット形式が存在する。伝統的に、英語の詩人はソネットには弱強五歩格を用いる。特にスペンサー風ソネットやシェイクスピア風ソネット
詩型
ソネットウィリアム・シェイクスピア詳細は「ソネット」を参照
日本では明治以降蒲原有明、上田敏、中原中也、立原道造などがソネットでの詩作を行ったほか、戦中・戦後にもマチネ・ポエティクの詩人たちが定型押韻詩の試みとして押韻したソネットを集団的に書いた。