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時としてこれは、さまざまな長さの視覚的なカエスーラを通して詩のリズムを補ったり、並置を作り出すことによって意味や多義性やイロニーを際立たせたり、また単純に審美的に心地よい形を作り出したりした[50]。最も極端な形としては、カリグラムや失象徴筆記 (en:asemic writing) のようなものまである[注釈 20]

源順の歌の藤原定信による色紙(1100年頃)

ニザーミーの詩のカリグラフィー(16-17世紀頃)

ウィリアム・ブレイク無垢と経験の歌』(1789)

ステファヌ・マラルメ『骰子一擲』(1897)(→全文

ギヨーム・アポリネールカリグラム(1915)

Marco Giovenale による asemic writing

詩語クリスティーナ・ロセッティ『「ゴブリン・マーケット」とその他の詩』(1862) のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティによるイラストレーション。『ゴブリン・マーケット』では童謡の形を取りながら複雑な詩語を駆使した。「ゴブリンたちを見てはだめ/その果物を買っちゃだめ/どんな土に生やしてるんだか/その渇いた貪欲な根っこを?」

詩語(en:poetic diction; 詩の用語法)は言語が使用される方式を扱う。音声だけでなく、内在する意味や、その音声や詩型との相互作用にも及ぶ。多くの言語や詩型は極めて独特な詩語を有しており、詩のための独自の文法方言を持つまでに至っている。これには20世紀後半の韻律論で好まれたような通常の言葉遣いの厳密な使用から、中世やルネサンス期のマーカー(en:makar. スコットランドの詩人を指す)などに見られる非常に華美できらびやかな言語の用法までの幅がある。

詩語には直喩や隠喩(メタファー)のような修辞技法イロニーのような口調なども含まれる[注釈 21]アリストテレスは『詩学』において「何よりも偉大なことは隠喩の名手であることだ」と書いている[51]モダニズムの台頭と共に、詩人たちの一部は修辞技法に重きを置かない詩語を選び、事柄や経験を直接表現し、口調を探求しようとした。他方で、シュールレアリストたちは修辞技法をその極限まで推し進め、誤転用を頻繁に使用した。

寓話アレゴリー)は多くの文化において詩語の中核となっており、古典期、中世盛期、ルネサンス期の西洋で顕著であった[注釈 22]。しかしながら詩は、全面的にアレゴリー的であるよりもむしろ、完全なアレゴリーを構築することなしに言葉の意味や効果を深化させる象徴引喩を含むこともある。

詩語の他の強力な要素としては鮮明なイメージを効果のために用いることが挙げられる。例えば、予期せぬ、あるいは有り得ないイメージの並置はシュルレアリスム詩(デペイズマン)や俳句で特に強力な要素となっている。鮮明なイメージはまたしばしば象徴性にも満ちている。

詩語の多くで、(ホメロスの「薔薇色の指をした暁(の女神)」や「葡萄酒の濃き海」のような)短いフレーズやより長いリフレインのようにして、効果を得るための語句の反復が行われる。このような反復は詩に頌歌の多くで見られるような厳粛な調子を付加し、あるいは言葉の文脈が変わればイロニーを交えたりもする。例えば、シェイクスピアジュリアス・シーザー』のアントニーの有名なユーロジーでは、アントニーが繰り返す「ブルータスは高貴な男ゆえ」という言葉は真摯な調子から皮肉が滲み出るものへと変化してゆく[52]
詩型

多くの文化がそれぞれ独自の詩型を発展させてきた。成熟・完結し、もしくは「広く認められた」詩型では、押韻構成やメーターやその他の要素は一連の規則に基づく。エレジーのように比較的ゆるやかな構成規則を持つものから、ガザルヴィラネルのように高度に様式化された構造を持つものまでがある。以下では複数の言語に跨って広く用いられている詩型の一部を記述する。
ソネットウィリアム・シェイクスピア詳細は「ソネット」を参照

ソネットは時代を通じて(西洋詩で)最も一般的な詩型であり、13世紀頃には14行から成り一式の押韻構成と論理構造に従う詩として成立していた。典型的には、ソネットの最初の4行は「a-b-a-b」の押韻構成を取り、主題を導入する。ソネットに纏わる慣習はその歴史と共に変化し、結果としてさまざまな異なったソネット形式が存在する。伝統的に、英語の詩人はソネットには弱強五歩格を用いる。特にスペンサー風ソネットやシェイクスピア風ソネットが代表的である。ロマンス諸語では、十一音節詩アレクサンドラン(十二音節詩)が最も広く使用されるメーターであるが、イタリアでは14世紀以降ペトラルカ風ソネットが使用された。ソネットは恋愛詩と特に結び付けられ、鮮明なイメージに基づく詩語を用いることが多かったが、8行から6行へ、及び最後の二行連への移行に伴う転換はまたソネットを数多くの主題にとって使いやすくダイナミックな形式ともした。シェイクスピアの諸ソネットは英詩で最も有名なものの1つであり、20作が『Oxford Book of English Verse』に収められている[53]

日本では明治以降蒲原有明上田敏中原中也立原道造などがソネットでの詩作を行ったほか、戦中・戦後にもマチネ・ポエティクの詩人たちが定型押韻詩の試みとして押韻したソネットを集団的に書いた。
セスティーナ詳細は「セスティーナ」を参照

プロヴァンストルバドゥールたちを起源とするセスティーナには6つのスタンザがあり、各々が押韻しない6行から形成され、最初のスタンザの各行末の単語が周期的なパターンで他のスタンザに再登場する。これを各語を2つずつ含む3行から成るスタンザが締め括る。
ヴィラネルW・H・オーデン詳細は「ヴィラネル」を参照

ヴィラネル(原義は「田園詩」)は5つの三行連と末尾の四行連から成る19行詩である。最初のスタンザの1行目と3行目に用いられた2つのリフレインが以降のスタンザの末尾で交互に用いられ、最後の四行連は両方のリフレインで締め括られるのが特徴となっている。それ以外の各行は「a-b」の交韻を持つ。19世紀末以降、ディラン・トマス[54]W・H・オーデン[55]エリザベス・ビショップ[56]などに見られるように英詩でしばしば用いられるようになった。全体として既存の詩型が用いられなくなる時代にあって、逆に広く用いられるようになった詩型である[要出典]。
パントゥーン

パントゥーン (en:pantoum) はヴィラネルに類似した比較的稀な詩型である。四行連の連続により構成されており、各スタンザの2行目と4行目が次のスタンザの1行目と3行目として繰り返される。
ロンドー詳細は「ロンドー」を参照

ロンドーは元々はフランスの詩型であり、2つの脚韻を用いた「5-4-6」の3連15行で書かれ、1行目の冒頭部がリフレインとして第2・第3連の最後の行に用いられる。
近体詩杜甫詳細は「近体詩」を参照

近体詩は古典中国語四声平声上声去声入声)を用いた各二行連での声調のパターンに基づく中国の詩型である。近体詩の基本形は二行連4つの計8行(8句)から成り、第2・第3の二行連の各行は対句となっている律詩である。


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