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[注釈 11]

詩の定義や他の文学ジャンルとの区別を巡る論争は詩の形式の役割を巡る議論と表裏一体である。20世紀前半に始まった詩の伝統的な形式と構造の拒絶は、詩の伝統的な定義や詩と散文の区別(特に散文詩と詩的散文のような例)の持つ目的や意味の疑問視と同時に進行した。数多くの現代詩人は、伝統的でない形式や、伝統的には散文と見做されるような形式を用いて書いたが、その作品には概して詩語や、韻律によらない手段で確立されたリズムやトーンが染み込んでいた[20]。現代派の中にも詩の構造の衰退に対する形式主義的な反動があったが、こうした動きでは古い形式と構造の再生だけでなく、新しい形式構造と統合の開拓にも焦点が当てられていた[21]

さらに最近では、ポストモダニズムはマクリーシュのコンセプトを全面的に受け入れ、散文と詩との境界や、さらには詩の諸ジャンル間の境界にも文化的な遺物としての意味しかないと見做すようになっている。ポストモダニズムはモダニズムにおける詩人の創造的役割の強調からさらに進み、テクストの読者の役割を強調(解釈学)し、詩が読まれるところの複雑な文化的な網の目に光を当てた[22]。今日では、世界中で、詩は他の文化や過去から形式や詩語を取り入れており、かつては例えば西洋の古典体系のような1つの伝統の中では理に適っていた定義と分類の試みにさらなる混乱を引き起こしている。
要素
韻律論

韻律論 (en:Prosody) は詩のメーター、リズム、イントネーションの研究である。リズムとメーターは密接に関係し合うものであり、日本語ではどちらも「韻律」と訳されることがあるが、別の概念である[23]。メーターは韻文の確立されたパターン(例えば弱強五歩格など)であるのに対し、リズムは詩行から実際に結果として得られた音である。従って、詩行のメーターは「イアンボス(強弱格)」であるといったように記述されうるが、言語がどこで休止または加速を引き起こすか、いかにメーターが言語の他の要素と相互作用するかといったリズムの完全な記述にはこれといった規定はない。韻律論はまたより特定的に、メーターを示すために詩行を解析することを指す場合もある。
リズムロビンソン・ジェファーズ

詩的リズムを作り出すのに用いられる方法は言語や詩の伝統によってさまざまである。言語は、どのようにしてリズムが確立されるかによって、アクセント(強勢アクセント)、音節モーラのいずれかに主によるタイミング (en:isochrony) のセットを持つとしてしばしば記述されるが、それ以外にも複数の方面からの影響を受ける[24]日本語はモーラ・タイミングの言語である。音節タイミングの言語にはラテン語カタルーニャ語フランス語レオン語ガリシア語スペイン語などがある。英語ロシア語はアクセント・タイミングの言語である。ドイツ語も概ねアクセント・タイミングに含まれる。さまざまなイントネーションもリズムがどう感受されるかに影響する。また高低アクセント(ヴェーダ語古代ギリシア語など)や声調などに依存する場合もある。声調言語には中国語ベトナム語リトアニア語、およびニジェール・コンゴ語族の大半の言語が含まれる[25]

メーターによるリズムは一般的に、各行の中で強勢や音節を韻脚と呼ばれるパターンの反復に正確に配置することを意味する。近代の英詩では強勢のパターンが主に韻脚に違いを付けるので、メーターによるリズムは専ら強勢・非強勢の音節(単独、またはエリジオンして)のパターンによって確立される。一方、古典語では、メーターの単位は同様であるが、強勢よりもむしろ母音の長短がメーターを定義していた。古英語の詩は、各行で音節数は不定であるが強勢の数は一定というメーターのパターンを用いていた[26]

詩篇の内の多くも含む古代ヘブライ語の聖書の詩での主要な道具は、連続する詩行が文法構造、音声構造、概念的内容、もしくはその全てにおいて互いを反映し合う修辞構造であるパラレリズムであった。パラレリズムはアンティフォナコールアンドレスポンスといった実演に適しており、イントネーションによってさらに強化されうるものであった。従って、聖書の詩はメーターによる韻脚にはあまり頼らず、行・フレーズ・センテンスといったより大きな音の単位に基いてリズムを作り出していた。古典的な詩の形式の中には、タミル語のヴェンパ(ヴェン調、en:Venpa)のように、(文脈自由文法として表せるほどまでに)厳密な文法を持ちそれがリズムを確保していたものもあった[27]漢詩では、強勢と並んで声調がリズムを作り出す。中国の古典詩は四声を区別していた。平声上声去声入声である。他の分類法では中国語で最大8つ、ベトナム語で6つの声があることもある。

近代の西洋詩でリズムを作り出すのに使われる正式なメーターのパターンは、現代では最早支配的なものではない。自由詩の場合、リズムはしばしば規則的なメーターよりもより緩やかなケイデンスの単位に基いて構成される。ロビンソン・ジェファーズ、マリアン・ムーア、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズは英詩に規則的な強勢メーターが不可欠だという考え方を拒絶した代表的な詩人である[28]。ジェファーズは強勢によるリズムに代わる選択肢としてスプラング・リズムを実験した[29]
メーター詳細は「韻律 (韻文)」を参照

西洋詩の伝統では、メーターは特徴となる韻脚と、行あたりの脚数によって分類されるのが通例である。「弱強五歩格」は1行につき5つの韻脚から成り、支配的な韻脚は「イアンボス」(弱強格/短長格)である。このメーター方式は古代ギリシア詩に起源を持ち、ピンダロスサッポーといった詩人たちやアテネの偉大な悲劇作家たちに使われた。同様に、「強弱弱六歩格」(長短短六歩格)は1行につき6つの韻脚から成り、支配的な韻脚は「ダクテュロス」(長短短格/強弱弱格)である。長短短六歩格はギリシア叙事詩の伝統的なメーターであり、ホメロスヘーシオドスの作品が現存する最古の例である。後世では、弱強五歩格はウィリアム・シェイクスピア、強弱弱六歩格はヘンリー・ワズワース・ロングフェローによって用いられている。リラを奏でるホメロス。フィリップ=ローラン・ロラン作(1812)

メーターはしばしば韻脚の詩行への配列に基いて解析される[30]。英語では、各々の韻脚には強勢を持つ音節1つと強勢を持たない1-2つの音節が含まれる。他の言語では、音節数や母音の長さの組み合わせが韻脚の解析方法を決定する場合もある。この場合、長母音を持つ1つの音節は短母音を持つ2つの音節と等価として扱われる。例えば、古代ギリシア詩では、メーターは強勢ではなく音節の長さのみに基いていた。英語などの一部の言語では、強勢のある音節は概してより大きな声で、より長く、より高いピッチで発音され、詩のメーターの基盤となる。古代ギリシアでは、これらの属性はそれぞれ独立したものであった。長母音と、母音と2つ以上の子音を持つ音節は実際に凡そ短母音の2倍の長さを持っていたが、ピッチや強勢(アクセントによって決定される)は長さには関係しておらず、メーター上の役割も持っていなかった。従って、長短短六歩格の詩行は6つの小節を持つ音楽のフレーズのように考えることができ、それぞれには二分音符が1つと四分音符が2つ(1つの長い音節と2つの短い音節)もしくは二分音符が2つ(2つの長い音節)含まれていた。2つの短い音節を1つの長い音節に置き換えても同じ長さの韻脚が得られるわけである。このような置き換えは、英語などのような強勢言語では、同じリズムの規則性はもたらさない。アングロ・サクソン族の(頭韻詩の)メーターでは、詩行を構成する要素は韻脚ではなく2つの強勢を含む半行であった[31]。メーターの解析はしばしば韻文の根底にある基礎的・根本的なパターンを明らかにするが、強勢、ピッチ、音節長などのさまざまな違いについては明らかにしない[32]

メーターの定義の例として、英語での弱強五歩格では、各行は5つの韻脚から成り、各韻脚はイアンボス(強勢のない音節に強勢のある音節が続く)である。個々の行を調べる際には、メーターの基本パターンの上にバリエーションがある場合もある。例えば、英詩の弱強五歩格では最初の韻脚は頻繁に倒置されており、強勢が最初の音節に来ている[33]。最もよく使われる韻脚の種類の一般的な名称は:ヘンリー・ホリデーによるルイス・キャロルスナーク狩り』のイラストレーション。弱弱強四歩格で書かれている。 "In the midst of the word he was trying to say / In the midst of his laughter and glee / He had softly and suddenly vanished away / For the snark was a boojum, you see."

イアンボス(iamb, 弱強格/短長格)


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