詠春拳
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古勞偏身詠春拳

齢70歳になって佛山の「贊生堂」を閉鎖した梁贊は故郷の古勞鎮に戻って隠棲生活を送った。梁贊が亡くなる75歳までに伝えた詠春拳を特に古勞偏身詠春拳と呼ぶ。
葉問派詠春拳

詠春拳のなかでも有名なスタイルの1つとして葉問派詠春拳がある。その極端にコンパクトで直截性を強調した動作は、古伝の詠春拳を意図的に整理、近代化したものであり、詠春拳の全体像から見れば独特なものであって、これが詠春拳の代表的スタイルというわけではない。更に葉問派詠春拳は實用詠春拳と伝統詠春拳に分類される。

葉問系詠春拳は中国伝統武術についてまわる陰陽五行八卦などの東洋哲学から脱却し、練習者に科学的論理性と徹底した理解を求める教授スタイルで知られ、合理的、実戦的であるのを特徴とする。また他の中国武術のような内功、外功といった概念を持たず、呼吸法も自然呼吸である。武術一般の内功にあたると思われる「内力」という概念もあるが、そのための特別な養成法があるわけではなく、正しく練習をしていけば長い間に自然と自覚されていくものとされている。ただし初級套路の小念頭に内功を養う効果があると指導する指導者もおり、小念頭には各種の意念を用いることや、集中力、自然呼吸を重視する点において立禅と共通する要求が多い。

目視に頼らず、むしろ接触感覚を重視するために、比較的スタイルの近い門派で必要とされる視力の訓練も存在しない。身体に負荷をかけたり、身体を打ち付けて鍛えるといった外功的な訓練も行なわず、力みを極端に嫌い、南方の拳法にある剛強なイメージからは外れた訓練体系であることで知られる。この「無駄なことをしない」という思想は、ジークンドーにも受け継がれている。

シンプルではあるが戦闘理論に関しては非常に厳密な理解と体現を要求されるため、実際には習得、体現の難しい武術である。そのため対人練習に非常に多くの時間を割き内部感覚を養成する。そして、世界的に広まったことにより、他の格闘技術などの影響を受けて改変、変容し、新たな一派が誕生するという傾向がある。内部感覚さえ身につけば自由に改変できるという考えから、香港の伝統的詠春拳といえど指導者や武館によっては指導内容に違いがあるのも特色のひとつとされる。

近年では、欧州に広く伝播した梁挺の門下生から新たに派生したものとしてEBMAS(Emin Boztepe Martial Arts System)や、イスラエルの軍隊格闘術であり徒手格闘の一部に詠春拳の技術を採用しているクラブ・マガも誕生している。現在も世界的な普及発展を続けているが、これは主に香港返還による人材の海外流出によるもの。また、葉問派詠春拳のイメージとしてブルース・リーに加え、ドニー・イェン主演の映画『イップ・マン 序章』や『イップ・マン 葉問』というのも広く知られるようになった。
實用詠春拳(詠春拳学)

葉問派詠春拳の中でもとりわけ黄淳?(英語版)による黄淳?系詠春拳の事を指す。黄淳?は葉問が実施した合理的な教授方法を更に発展させ、科学的詠春拳(Scientific Ving Tsun)を提唱し、自らの詠春拳に學の字を加え「詠春拳学」と称した。その詠春拳は實用(実戦という意)詠春拳(Ving Tsun)と呼ばれ、これに対比するのが伝統詠春拳(Wing Chun)である。一般的な葉問派詠春拳は伝統詠春拳に分類される。
その他の詠春拳

 中国本土では、?花蓮詠春拳、紅船詠春拳、阮奇山詠春拳、岑能詠春拳、陳汝棉系詠春拳(花洪拳)、順徳詠春拳などの各派があり、他にも秘密主義を貫いて今も隠され続けている伝承も残っているというが、、清朝末期の混乱、辛亥革命、日中内戦、共産革命、文化大革命の影響で、そのほとんどは失伝の危機に瀕している。

 他方、清朝末期以降、葉問以前に、列強の支配下にあった東南アジア地区に移住した華僑によって伝えられている詠春拳としては、フランスの植民地であったベトナムに移住した阮濟雲による越南詠春、また英領マレーシアでは、馬来西亜詠春、曹家詠春が現在でも継承されており、清朝末期の混乱、辛亥革命、国共内戦と、中国本土での中華人民共和国の成立、香港返還の影響や、第二次世界大戦後の東南アジア各国の独立と、各国の華僑の同化政策、融合等とにより、その伝承は多岐にわたっている。
詠春拳の技術
坐馬

広東系南派少林拳の基礎的な拳技の事。二字拑羊馬などの「馬」の事である。馬は単に立ち方を表すものではなく、馬の状態になる事を「坐馬」と呼び、特に広東系南派少林拳の修行開始時に於ける最重要技法である。北派少林拳では同様な技法に站?がある。この技法は詠春拳独自のものではなく、洪家拳とも共通し、実際に二字拑羊馬は両拳に存在する。詠春拳は「坐馬」と言う技術的基盤の上に成立している拳法で、葉問口訣においても「力由地起」と強くその重要性を説いている。
葉問口訣

葉問口訣とは、詠春拳の極意を短文で表したもので、詠春拳を修業する上で守らなければならない課題や理想的な目標を表した格言の事である。以下に中文のまま列記する。

念頭不正,終生不正。〈拳套要求、人生寓意〉

念頭主手〈一?守〉,尋橋主?〈與?〉。〈練習拳套目的〉標指不出門。(拳法〉

來留去送,?手直衝。

?頭?尾,?尾?頭,中間〈飄〉膀起。

正身子午,側身以膊〈為子午〉。

朝面追形,而〈追形〉不追手,以形補手,以手補形。

力由地起,拳由心發,手不出門〈手不離午〉。

避實?? (遇實則卸,見?即進)。

畏打〈終〉須打,貪打〈終〉被打。(不畏打,不貪打〉

轉馬手先行,上馬手先行。〈轉馬上馬,?手先行〉

留情不出手,出手不留情。〈留情不打,打不留情〉

不挑不格,消打同時。
葉問派詠春拳を規準としたもの

詠春拳は基本的には短打接近戦の徒手による格闘術体系である。接近戦と手技の細やかさに特徴があり、相手の攻撃を封じて、いち早く相手を打倒することを考えて作られており、競技格闘技とは戦闘行為に対する発想が著しく異なっている。

近距離での打撃に対する防御技術が精緻であり、基礎の拳套である小念頭に含まれる技の約8割は防御技である。ただし防御技・攻撃技と分類のできないものも多い。また相手の動向を察知し制御するという点に重点がおかれ、その攻撃技でも防御技でもない技(概念)を有しており、この二点が武術格闘技として独特のものである。

詠春拳の訓練は、まず套路によって技のパーツとしての手形と身体構造の運用法の基礎を学び、未精練な筋肉運動の改変を行なう。より実戦的な応用や、パーツごとに学んだ手法の整合法は対人練習によって学び、訓練していく。このため、対人訓練には大きなウェイトが置かれる。過手(グォーサオ)と呼ばれる、お互い接手(チプサオ)や雙黐手(セヨンチーサオ)を実施した状態から一定のルールの上で自由に攻防する練習によって、様々の応用技術、戦闘理論、展開原則、歩法、体捌き、位置取りなどを学び、また神経反応の改変と養成、本能的な精神反応の改変させ、また橋手や馬を訓練する。

葉問派の技術的な特徴としては、黐、貼身ということが挙げられる。また短橋狭馬の拳法の中でも、葉問派はより動作を小さく、直線的にまとめてある。ただし、第三段階の標指になるとこの特徴は一変する。
詠春拳の技術に関する誤解

詠春拳というとワンインチパンチ(寸打)が有名であるが、詠春拳(または南派少林拳術)の寸打は独特であり、北派拳術の寸勁と同じものとは言えない。また、詠春拳には裏拳や曲線を描く打撃がないように言われることがあるが、実際には掛槌(裏拳)、横拳(フック)、上沖拳(アッパー)、チョップ、各方向からの肘打ち、更には回し蹴り(に似たもの)までもがある。特にチョップと裏拳は肘技に関連しているのでよく使用される。それらの技術は近代格闘技などから流入したものではない。
詠春拳を題材とした作品
映画


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