漢字が本来表す中国語の意味ではなく、日本独自の訓を当てるものを国訓(こっくん)という[注釈 3]。たとえば、「鮎」は中国語では「なまず」であるが、訓は「あゆ」であり、「沖」は中国では「つく」(衝→簡化: 冲
)などの意味であるが、訓は「おき」である。これらは漢字で日本語を表記できるようになったためにできたものである[3]。漢字の訓読みに用いるのは和語とは限らず、外来語である場合もある。この場合はカタカナで表記されることが多い。 日本語だけでなく中国語の方言でも固有な語や発音が大きく変化した別の語を当てて訓読みすることが行われている。中国語の方言の場合、もともと古語として本来用いるべき漢字があるにもかかわらず、現在は使われる頻度が低く、どう書けば良いのか分からずに、同義の字を書いて訓読みする例が少なくない。他に、チワン語などの中国少数民族語などでも行われたことがある。 台湾語はも訓読みが盛んといえる。台湾語歌謡の歌詞は訓読みを知らないと読めないものが多い。 広東語は方言字をつくることが盛んなため訓読みは少ないが、個別の字では訓読みすることを通常の読み方としている字もある。 上海語も方言字での対応の方が多いが、「二」と書かれていても「兩」と読む例がよくみられ、訓読み現象となっている。 北京語には訓読みが少ないながら存在する。 一般的には現代では朝鮮語には訓読みは存在しないと認識されている。しかし近代以前には郷札、吏読、口訣などの、日本でいえば万葉仮名のような表記法が存在し、これらの中で漢字の訓に該当する読みが駆使された。これを和訓(日本の訓読み)に対して韓訓という。ある漢字に対して、その意味に該当する「漢語が伝来する以前の朝鮮の固有語」を韓訓という場合もある。現在では言語学や語源論などで論じられる程度で、日常言語としては使われない。 ただし「串」「サ」などには例外的に訓読みが存在する。「串」を ? と読む場合は「岬」を意味し、「サ」を ? と読む場合は「鉄」を意味するが、「串」「サ」には本来そのような意味はないため、これを朝鮮語における「国訓」に相当するものとみなすこともできる。 また、漢字を使用しない言語では無縁のように思われるが、類似した現象がないわけではない。たとえば、英文中で、ラテン語由来のetc. (et cetera) をand so onあるいはand so forthと読んだり、i.e. (id est) をthat isと読んだり、e.g. (exempli gratia) をfor exampleと読んだり、& (et) をandと読んだり、lb. (libra) をpoundと読んだりするのは、「文明語の書き言葉を取り入れ、母語で固定的に読み下す」という点で、訓読みと軌を一にする現象である。ただし、英語におけるこのような現象はごく一部の表現に限られる。
訓読みの例
頁 - ぺーじ(英語: page)
米 - めーとる(フランス語: metre[注釈 4])
哩 - まいる(英語: mile)
熟字訓の例
麦酒 - びーる(オランダ語: bier[注釈 5])
煙草 - たばこ(ポルトガル語: tabaco[注釈 6])
硝子 - がらす(ポルトガル語: glas)
日本語以外の訓読み
中国語族
台湾語
対応する漢字がないと思われる例
到 - 訓 kau, 音 tau、to
的 - 訓 e, 音 tek
欲 - 訓 beh, 音 io?k
肉 - 訓 bah, 音 jio?k、lio?k
斟 - 訓 thin, 音 chim
牢 - 訓 tiau, 音 lo
就 - 訓 t?、tio?h, 音 chi?
才 - 訓 chiah, 音 chai
遮 - 訓 chia、chia, 音 jia、lia
飲 - 訓 lim, 音 im(教育部が薦める用字は「.mw-parser-output .jisx0212font{font-family:"Hiragino Sans Pr6N","Toppan Bunkyu Gothic","Yu Gothic","ヒラギノ角ゴ Pr6N W3","A-OTF 新ゴ Pr6N R","源真ゴシック Regular","源ノ角ゴシック JP Normal","Source Han Sans JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","Noto Sans CJK JP DemiLight","小塚ゴシック Pr6N R","KozMinPr6N-Regular","メイリオ","Meiryo","Meiryo UI","游ゴシック","游ゴシック体","VL Pゴシック","MS Pゴシック","MS PGothic","小塚ゴシック Pr6N M","小塚ゴシック Pr6N","KozGoPr6N-Medium","A-OTF 新ゴ Pr6N","Arial Unicode MS",Code2000}啉」)
本来は別の漢字を用いると思われる例
一 - 訓 chi?t, 音 it(本字は「蜀」と思われる)
二 - 訓 nn?g, 音 j?、l?(本字は「兩」)
人 - 訓 lang, 音 jin、lin(本字は「儂」)
香 - 訓 phang, 音 hiang、hiong、hiu?(本字は「芳」)
勿 - 訓 mai, 音 but(本字は「毋 + 愛」)
此 - 訓 chit, 音 chhu(本字は「這」)
K - 訓 o?, 音 he?k(本字は「烏」)
多 - 訓 ch?、ch?e, 音 to(本字は「濟」)
打 - 訓 phah, 音 ta?(本字は「拍」)
広東語
凹 - 訓 nap1, 音 aau3, aau1, waa1
.mw-parser-output .jis2004font{font-family:"源ノ角ゴシック JP Normal","源ノ角ゴシック JP","Source Han Sans Normal","Source Han Sans","NotoSansJP-DemiLight","Noto Sans CJK JP DemiLight","ヒラギノ角ゴ ProN W3","ヒラギノ角ゴ ProN","Hiragino Kaku Gothic ProN","メイリオ",Meiryo,"新ゴ Pr6N R","A-OTF 新ゴ Pr6N R","小塚ゴシック Pr6N M","IPAexゴシック","Takaoゴシック","XANO明朝U32","XANO明朝","和田研中丸ゴシック2004絵文字","和田研中丸ゴシック2004ARIB","和田研中丸ゴシック2004P4","和田研細丸ゴシック2004絵文字","和田研細丸ゴシック2004ARIB","和田研細丸ゴシック2004P4","和田研細丸ゴシックProN",YOzFont04,"IPA Pゴシック","Yu Gothic UI","Meiryo UI","MS Pゴシック";font-feature-settings:"jp04"1}孖 - 訓 maa1, 音 zi1
熨 - 訓 tong3, 音 wan6(本字は「?」)
廿 - 訓 jaa6, 音 nim6
上海語
二 - 訓 lian2, 音 r3(文語音), nyi3(白話音)(本字は「兩」)
? - 訓 sah4, 音 tsah4(本字は「霎」)
瘢 - 訓 pae1, 音 boe1(本字は「?」)
抓 - 訓 tsoh4, 音 tsa1(文語音), tsau1(白話音)(本字は「捉」)
? - 訓 tsau1, 音 sau1(本字は「抓」)
北京語
骰 - 訓 sh?i, 音 tou(本字は「色」)
朝鮮語
串 - 訓 ? [kot?], 音 ? [kwan], ? [t???n], ? [t??an]
サ - 訓 ? [so], 音 ? [so], ? [kjo]
欧米語
脚注[脚注の使い方]
注釈^ なお、「訓」という漢字における「くん」という読み方自体は中国語(xun4)に由来するものであり、音読みである。
^ 立原あゆみの漫画作品『本気!』は「マジ!」と読む。
^ 「国訓」を「訓」と同じ意味で用いることもある。
^ なお複数形mètresは単数形と発音が同じ。
^ 英語beerは別に「ビアガーデン」「ビアホール」という形で入った。漢字では書かれない。
^ スペイン語もtabacoであるが『大辞泉』など日本の辞書はポルトガル語由来とするものばかりである。
出典^ 熟字訓については(松村(2008), p. 127)が参考になる。
^ 井上通泰「「相聞」
^ 国訓については(高橋(2000))に詳しい解説がある。
参考文献
高橋忠彦「国訓の構造 : 漢字の日本語用法について(上)」『東京学芸大学紀要. 第2部門人文科学』第51巻、東京学芸大学紀要出版委員会、2000年2月、313-325頁、hdl:2309/13419