第1類型の定型記事として作成される死亡記事は、様式が新聞社・通信社ごとに決められており、ほぼ共通するものの若干の違いがある。故人の氏名、死亡時の肩書や専門分野、縁故関係、死亡日時、死因、死亡場所、年齢、出身地などの基本的事項のほか、葬儀の会場や喪主が、読者の出席や弔電の便宜を考慮して地番や振り仮名など詳細に記される[12][13]。新聞の定型死亡記事独特の表現として、氏名に傍線が付されており、「裏罫」「死亡罫」「死人罫」などと呼ばれる[14]。対象は主に大企業の社長や専務などの要職を務めた人やまれにそれらの人の肉親で、多くは社会面の最下段に小さく配置される。主に関係者への連絡としての機能を果たしている。
第2類型の一般記事として報じられる場合は、「(故人名)死去」などの見出しが付されて、一般的な文章で構成される。記事の大きさは様々である。故人の関係者のコメントが載せられることがある。対象は知名度が特に高い人物のほかに、社会的問題性や話題性の点から大きく取り上げる例があり[13]、そのままでは小さな定型記事で済んでしまう人物を大きく報道するために、所属組織の今後への影響などを盛り込んだ広範囲の内容として、ニュース価値を高める手法が用いられる[15]。掲載位置は社会面のほか、場合によっては(元首相など国家の要職経験者や高い実績を残した元スポーツ選手など)一面記事となることもある。元スポーツ選手の場合にはスポーツ欄に関係者のコメントが載せられることがある。天皇・皇族など多方面に影響が及ぶ人物の場合は、一面・社会面の他、スポーツ面・経済面・地方面など各面にわたって死去した人物とのかかわりが掲載されることもある。
第3類型は近年になって見られるようになったものである。1カ月に2?4回程度、多くは署名記事として取り上げる。朝日新聞の「惜別・ひと人生」、読売新聞の「追悼抄」、毎日新聞の「悼む」、産経新聞の「葬送」などの例がある。人物評伝をしっかりと書くという点で、欧米の死亡記事に近いという評価もある[3]。年末にその年一年の主な物故者を振り返る記事を載せる慣例もあるが、これは年始ではなく年末に掲載されるため、たとえば岡本敦郎や松平康隆のように年末に死去して新年の新聞に訃報が掲載された場合は死去した年の「その年の物故者」からは漏れることになる。
どのような人物の死について掲載するか、どの形式をとるかは、主に社会的地位や知名度、業績を基に判断される。大学教授のように元学生などの関係者が全国にいることも掲載の理由となる。新聞社と故人の義理やしがらみから掲載される例も一部にある。編集局の整理部が実質的な最終判断を行う[16]。
なお、以上のほか、地方紙では、地域で出た物故者の全員を掲載する欄を設けている例がある。現在では遺族の同意を得て掲載することが一般的である[注釈 1]。
生前死亡記事詳細は「生前死亡記事の一覧(英語版)」および「死亡説」を参照
報道各社では、生前に素早く掲載できるようひな形(予定稿)が作られている(ニューヨーク・タイムズは、死亡記事を1800本以上準備している[17])。そのため、単純な人為的なミス・誤解で著名人の死亡記事が公開されてしまうことがある(2003年のCNNの誤報[18]、2020年の仏ラジオ局ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)での著名人100人死亡の誤報[17]など)。
また、別の例では戦争などで一定期間を過ぎて行方不明となった個人の場合、失踪宣告で死亡扱いになった後に本人が現れる例[19]など、様々な事情がある。
化学者アルフレド・ノーベルが自分の死亡記事の誤報により、自分の評判の悪さからノーベル賞を作ったという説もある[20]。
フランスの実業家ベルナール・タピは、三回誤報で死んだことにされている。1回目は2019年のルモンド誌、2回目は2020年の仏スポーツ専門局ラ・シェーヌ・レキップ(フランス語版)、3度目は2020年の仏ラジオ局ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)の誤報である[17]。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 関係者からの情報提供があれば掲載する、無料の死亡広告というべきものもある。
出典^ a b c ボブ・フランクリン、「死亡記事」の項。
^ 例えば日本の場合、刑事責任について刑法230条2項。
^ a b 諸岡、171-172頁。
^ Caroline McCarthy 「S・ジョブズ氏の死亡記事、ブルームバーグが誤配信」 CNET Japan、2008年8月29日。
^ 諸岡、149頁。
^ 諸岡、56頁。
^ 東京日日新聞 1900年8月12日朝刊。
^ 諸岡、61頁。
^ 諸岡、66頁。
^ 諸岡、72-73頁。
^ 時事通信社、576頁。
^ 時事通信社、573頁。
^ a b 共同通信社、539頁。
^ 諸岡、7-8頁。
^ 諸岡、161頁。
^ 諸岡、44頁。
^ a b c “仏ラジオ局、著名人100人の訃報を誤配信”. Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) (2020年11月24日). 2022年7月21日閲覧。
^ “CNN、作業ミスで生前の著名人死亡記事を掲載”. CNET Japan (2003年4月18日). 2022年7月21日閲覧。
^ “生きているのに、死んだことにされてはたまらない。死亡の宣告は取り消せる?”. ハフポスト (2018年3月20日). 2022年7月21日閲覧。
^ “ノーベル賞は誤報から生まれた? 訃報の人物評に落胆…死後の名誉を気にして賞創設の遺言書 :東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2022年7月21日閲覧。
参考文献
共同通信社(編・著) 『記者ハンドブック―新聞用字用語集』 11版、共同通信社、2008年。
時事通信社(編・著) 『最新用字用語ブック』 5版、時事通信社、2006年。
ボブ・フランクリンほか 『ジャーナリズム用語事典』 国書刊行会、2009年。
諸岡達一 『死亡記事を読む』 新潮社〈新潮新書〉、2003年。
外部リンク.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、死亡記事に関連するカテゴリがあります。ウィキニュースには訃報に関連するニュースのカテゴリがあります。ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。訃報
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