解離_(心理学)
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それを正常、あるいは日常的な範囲まで拡大したのがヒルガード の新解離論[14]であり催眠実験である。そこでは「解離」は普通の人にも当たり前にある正常な状態から、障害として扱われる異常な状態まで無段階で連続しているとした。

パトナムも当初はその連続体モデルの立場に立ち、1986年という、まだ誰もが手探り状態のときに、解離体験尺度(DES:Dissociative Experience Scale)を作成する[注 2]。そしてその解離体験度の大きい者の中に解離性障害が潜んでいる可能性が高いと考えた。 DES は、正常範囲の解離現象から精神病的な解離現象までについて尋ねた 28項目の質問紙であり、各問いに0%から100%までの11段階で答えてもらい、全28 項目の平均体験率をDES得点とする[注 3]。そしてそのDES得点が平均30点以上の場合に、解離性障害を疑ってみるというツールである。あくまでもスクリーニングテストであり、それで障害が確定するものではない。

冒頭に解離は正常な範囲のものから、障害として扱われる段階までを含むとしたが、それは無段階に連続的なのか、それとも不連続で正常と障害の2つのグループがあるのかという問題がある。パトナムも当初はその連続体モデルの立場であったが、後に離散的行動モデルへ傾き、それを不連続な2つの別のグループという見方に考えを改めている。それがDES・解離体験尺度にも現れているので、以下その項目を例としながら、3段階に分けて見ることにする。
誰にでも普通にある正常な範囲

大学等の退屈な講義の最中に空想の世界へ入り込み、チャイムで我にかえる。 小説やゲームに没入して友達が話しかけてもまったく気がつかない。飲み過ぎた翌朝、昨日のことが全く思い出せない。これらは広い意味での解離ではあるが、だれにでもあり、病的な解離ではない[15]

DES・解離体験尺度は初期のバージョン 28項目には解離の「正常な範囲」も多く含まれていた。以下はDES 28項目から病的解離指標DES-T の8項目[16]を除いた正常解離指標 (NDI) 20項目の一部である[注 4]。コリン・ロスの 2軸 4分類でいえば「健康な心理的解離」に相当する。

1. 車を運転した時や、電車やバスに乗っている途中の出来事を、一部または全部を憶えていない時がある[注 5]

2. 人の話を聞いている時、その内容の一部または全部を全く聞き憶えていない時がある。

17. テレビや映画を見るとき、その話にあまりにも没入してしまって、周囲の出来事に気づかなくなる。

18. 空想にのめりこみ、それが現実に起きていることのように感じる。

20. 何も考えずに、時間が過ぎるのも気づかないで、ただジッと空(そら)を見つめている。

24. あることを実行したのか、それともしようと考えただけなのか憶えていないときがある。


これらは誰にでも多少はある正常な範囲であり、研究者的には「解離」であっても、一般人の日常的な感覚ではわざわざ「解離」とは呼ばない。 例えば上記の 17.だった者に「没頭してたんでしょ」とは言っても「解離してたんでしょ」とは言わないし、普通の人には会話として成り立たない。
不幸な出来事ではあるが正常な範囲

不幸に見舞われた人が目眩を起こし気を失ったりするが[17]これは正常な範囲での「解離」である。 さらに大きな精神的苦痛で、かつ子供のように心の耐性が低いとき、限界を超える苦痛や感情を体外離脱体験や記憶喪失という形で切り離し、自分の心を守ろうとするが、それも一時的であれば人間の防衛本能としての「解離」であり、日常的ではないが障害ではない。
障害となる段階

障害となるのは次のような段階である。 空想と解離は、慢性的なストレス状況におかれた子供にとっては唯一の実行可能な逃避行であるが[18]、 状況が慢性的であるがゆえにその状態が恒常化し、コントロール(自己統制権)を失って別の形の苦痛を生じたり、社会生活上の支障まできたす。これが解離性障害である。 解離性同一性障害は、切り離した自分の感情や記憶が裏で成長し、あたかもそれ自身がひとつの人格のようになって、一時的、あるいは長期間にわたって表に現れる状態である。解離性障害の可能性が高くなるのは、DES-Taxon でも病的な解離性障害に関わる以下の8項目[注 6]の少なくともひとつに相当の頻度で該当する、あるいは複数に該当する場合である。

3. 気がつくと別の場所にいて、どうしてそこまで行ったのか自分でも分らない。

5. 自分の持ち物の中に自分では買った憶えがない新しい物がある。

7. まるで他人を見るように自分自身を外から眺めているという経験をすることがある。

8. 友達や家族に気がつかない。あるいはそうと認めないことがあると、他人から時々指摘される。

12. 周囲の人間や、物や、出来事が現実のものでないように感じる。

13. 自分の体が自分のものではないと感じる時がある。

22. 状況が変わるとまったく別の行動をするので、自分が二人いるように感じてしまう。

27. 時々頭の中から聞こえて、何かを命令したり、自分の行為にコメントをすることがある。

これらの質問に高い確率で該当があれば解離性障害の可能性は高まるが、それだけで判断する訳ではもちろんない。こうした定型の質問ではなく、より細かい具体的な話のなかから医師が総合的に診断を行うことになる。解離症状は解離性障害だけにあるものではない。急性ストレス障害 (ASD)、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) にも[19]境界性パーソナリティ障害にも[20]解離症状は見られる。


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