解離性同一性障害
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(2)は「関係性のストレス」[18][19]とも呼ばれる。過保護でありながら支配的な家庭環境によるストレスが中心だが、中には次のようなケースも含まれる。母親はすごく良い子で手がかからずスムーズに育ってきたと思っていた。しかし娘は、いい子でいなくてはと親の気持ちをくみ取りながら生きているうちに自分の気持ちが内側にこもり解離が始まりだす[20][注 12]。報告されている事例は娘の場合が多いが、息子の場合もありうる。このようなケースでは母親は娘(主に)の発症に訳も判らぬまま自分を責めることがしばしばある[21]。ただしアメリカの治療者がそうした側面を見ていないわけではない。例えばアリソン (Allison,R.B.) は1980年の自著の中でこう書いている。特に後半などは岡野憲一郎が「関係性のストレス」として描きだしたものと共通するニュアンスがある。「原因には似通ったパターンがあるということだ。〈児童虐待〉もそのひとつである。…精神的・心理的暴力(いじめ)[注 13]も含まれる。…片方の親は〈良い親〉で、もう片方は〈悪い親〉と見られている。…〈良い親〉が、子どもを〈捨てる〉といったことも多い。実際には、親が死亡したり、軍務についたり、あるいはいたしかたない別離なのだが、子どもにはそれが理解できない」「他の人格を作り出す子どもは、怒りや悪い感情を抑えなさいと教えられていることが多い。いい子は怒ったりしないというのが、両親や保護者から強制される態度である[22]。」
安心していられる場所の喪失

心的外傷はPTSDなど様々な現れ方をするが、柴山雅俊は解離性障害が重症化しやすい特徴を「安心していられる場所の喪失」ととらえている[注 14]。柴山は自らが関わった解離性障害者42人を、自傷傾向や自殺企画[注 15]が反復して見られる患者群23名とそうでない19名に分けて、患者の生育環境との相関を見た結果[23][注 16]、DIDを含む解離性障害の症状を重くする要因は、日本の場合、家庭内の心的外傷では両親の不仲であり、家庭外の心的外傷では学校でのいじめであるとする[注 17]。「安心していられる場所の喪失」とは、本来そこにしかいられない場所で「ひとりで抱えることができないような体験を、ひとりで抱え込まざるをえない状況」[24][注 18]に追い込まれ、逃げることもできずに不安で不快な気持ちを反復して体験させられるという状況である。

自分を肉体的、あるいは精神的に傷つけた相手が、本来なら自分を癒すはずの相手であるために心の傷を他者との関係で癒すことができない[注 19]。こうして居場所の喪失、逃避不能、愛着の裏切り、孤独、現実への絶望から、空想への没入と逃避、そして解離へと至るのではないかとする[25]。ジェフリー・スミス (Smith. J.) は2005年の「DID(解離性同一性障害)治療の理解」の中でこう述べている。「解離性記憶喪失を感情的トラウマのための一種の回路遮断機と見なすならば、記憶喪失の引き金となりうるほどの深刻なトラウマは何か、という疑問が生じる。第一の、そして最重要の要素は、私見では孤独感、すなわち安心してその事象を分かちあえる人間の欠如である[1]。」

スミスが扱ったケースはいかにもアメリカ的な児童虐待であったが、それでも柴山と同じ結論に至っている。「安心していられる場所の喪失」も心の傷ではあるが、PTSDでイメージしやすい戦争体験、災害犯罪被害事故性暴力などと比べると性格が異なる。先に触れたネグレクトもこの問題に関係する。ここで、クラフトの四因子論でいえば4番目の「十分な慰め」の欠如が、むしろ重要な要因として浮かび上がってくる。
愛着理論からの視点

最近では幼児期の生育環境と解離性障害の関係も指摘されている。発達心理学愛着理論(Attachment theory)では、Aタイプ(回避群)、Bタイプ(安定群)、Cタイプ(抵抗群)が有名だが、1986年にメイン (Main,M.) とソロモン (Solomon,J.) が発見したDタイプ(無秩序・無方向型)が新たに加わる。1991年にはバラック (Barach,P.M.M.) が愛着関係(attachment)とDIDとの関係を示唆し[26][27]、あるいは2003年にライオンズ-ルース (Lyons-Ruth.K.) が、明確な心的外傷がなくとも、Dアタッチメント・タイプにあった子供は解離性障害になる可能性が高い[28][29]とするなど、後徐々にこの方面での研究が進んでいる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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