解雇
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解雇は、使用者の一方的意思表示で行うものであるが、解雇は労働者の生活の糧を得る手段を失わせるものであるから、不意打ちのような形で行われることがないよう、各種の法制で規制が設けられている(解雇規制)。

期間の定めのない労働契約(無期雇用)では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる(労働契約法16条)[注 2]

期間の定めのある労働契約(有期雇用)では、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、その労働期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(労働契約法17条)[注 3]
労働条件通知書

退職に関する事項(解雇の事由を含む)は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていて(89条)、使用者は解雇の事由を就業規則に記載しなければならない。また労働条件の絶対的明示事項ともされていて(15条)、使用者は労働契約締結に際して労働者に対して解雇の事由を書面で明示しなければならない。

しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効として、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情に照らして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、2004年(平成16年)1月の改正法施行により18条の2に明記され、さらに2008年(平成20年)3月に施行された労働契約法により同法16条に移された。

就業規則や労働協約に定める解雇事由が限定列挙であるか例示列挙であるかは個別の判断によるが、一般的には就業規則等の趣旨から限定列挙と解し、そこに挙げられていない事由による解雇は無効となる。もっとも限定列挙と解釈すると、就業規則等の規定が十分に整備されていない場合に、客観的に不可避と考えられる解雇さえ無効になるという問題がある(例示列挙と解した裁判例として、大阪地判平成元年6月29日、東京地決平成12年1月21日等)。実務上は就業規則に具体的自由を列挙したのちに「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」というような包括的規定が設けられていることが多く、限定列挙と例示列挙のいずれであるかはさほど大きな相違をもたらすわけではない[7]

労働者の能力不足解雇について、能力不足を理由に直ちに解雇することは認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格等が必要とされる傾向がみられる(平成26年7月30日基発0730第1号)。

労働協約上「組合員を解雇しようとするときは組合の同意を要する」旨の所謂同意約款が存する場合、使用者が組合員を解雇しようとするときは、組合の同意を得なければならないことは当然であり、これに違反してなされた解雇は、特別の事由のない限り、無効と解すべきである。しかしながら、当該約款は、本来解雇に関する使用者の恣意を排除せんとする趣旨のものであって、労使が相互に信義則に基き、約款本来の趣旨を尊重して事の処理に当るべきであるから、使用者側において、企業の必要上解雇するにつきやむを得ない事情があり、組合の同意を得るべく相当の努力を傾倒しているにも拘らず、組合側において正当な理由なくしてこれを拒否し続けている場合は、組合側の「同意拒絶権の濫用」と見得る場合があり、かかる場合は組合側の最終的了解を得ずして解雇を行っても同意約款違反とはならないとするのが一般的な考え方である。しかしながら「同意拒絶権の濫用」と目されるのは、使用者側が相当の努力を傾倒していて然も組合の拒絶が信義則上甚だ妥当を欠く場合であって、形式的な交渉、協議によつて組合の同意が得られなかったという事実のみを以てしては、未だ必ずしも「同意拒絶権濫用」とはいえない場合が多い。従って、解雇が同意約款違反を構成するか否かは、ひとえに当該人員整理の必要性及びその緊急性並びにこれを実施するに当って採られた労使の協議の度合及び協議態度等の事実関係の如何に懸ってくることになる(昭和31年12月3日労収第2775号)。

解雇の制限不当解雇とみなされる条項の一覧については「不当解雇#日本」を参照

(解雇制限)

第19条  
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

解雇が具体的に制限されている場合として、労働基準法では次の2つを定めている。労働者の責めに帰す事由があっても、この解雇制限は解除されないが、天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長。以下同じ)の認定を受けた上で解雇制限が解除される(施行規則7条)。
業務上災害により療養のため休業する期間とその後の30日間の解雇

産前産後休業期間とその後の30日間の解雇

「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった」として、認定申請がなされた場合には、申請理由が「天災事変その他やむを得ない事由」と解されるだけでは充分でなく、そのために「事業の継続が不可能」になることが必要であり、また逆に「事業の継続が不可能」になってもそれが「やむを得ない事由」に起因するものでない場合には認定すべき限りでない(昭和63年3月14日基発150号)。

「やむを得ない事由」とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなし難い状況にある場合をいう。以下の場合は該当する(昭和63年3月14日基発150号)。

事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意重過失に基づく場合を除く)

震災に伴う工場事業場の倒壊・類焼等により事業の継続が不可能となった場合

震災により一工場は被害は全然ないが本社並びに他の三工場が震災により倒潰或いは焼失したため、再建資金面に行き詰まりをきたし被害を受けなかった同工場も事業の継続不可能となった場合は、「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった」場合に該当する(昭和23年8月4日基収2697号)。



一方、以下の場合は「やむを得ない事由」に該当しない。

事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した諸機械・資材等を没収された場合

税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合

事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合

従来の取引先が休業状態となり、発注品無く、ゆえに事業難に陥った場合

親会社からのみ資材資金の供給を受けて事業を営む下請工場において現下の経済情勢から親会社自体が経営困難のために資材資金の獲得に支障をきたし、下請工場が所要の供給を受けることができず事業の継続が不可能となった場合、法律的には「やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」には該当しないが、事業廃止の後、該当労働者について引き続き労働契約を継続させる実益がない場合には運用上然るべく認定せられたい(昭和23年6月11日基収1899号)。



「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合をいう。事業がなおその主たる部分を保持して継続しうる場合、または一時的に操業中止のやむなきに至ったが近く再開復旧の見込みが明らかである場合は含まれない(昭和63年3月14日基発150号)。

派遣労働者については、「事業の継続が不可能」であるかどうかの判断は、派遣元の事業について行われる(昭和61年6月6日基発333号)。

業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、平均賃金の1200日分の打切補償を支払えば解雇の制限は解除される(19条1項但書、81条)。この場合は行政官庁の認定は不要である。もっとも、当該傷病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、打切補償を支払ったものとみなされて解雇制限が解除されるので(労働者災害補償保険法19条)、打切補償を支払って解雇制限を解除することは極めてまれなケースに限られる。

業務上の傷病により療養していた労働者が完全に治癒したのではないが稼働しうる程度に回復したので出勤し、元の職場で平常通り稼働していたところ、使用者が就業後30日を経過してこの労働者を解雇予告手当を支給して即時解雇した場合、19条には抵触しない(昭和24年4月12日基収1134号)。

解雇の予告

(解雇の予告)

第20条  
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならないと説明されるものの、これは30日分の賃金を保証する必要があるのみで結局のところ即日解雇は認められている。解雇予告は、解雇日について何年何月何日というように特定しておかなければならない。解雇の予告及び解雇予告手当の趣旨は、失職に伴う労働者の損害を緩和することを目的としたものである。

30日間は暦日で計算し、その間に休日や休業日があっても延長しない。月給・年俸制等においては民法における解除予告期間が30日より長くなる場合であっても特別法である労働基準法の規定により、解雇予告義務は30日間に短縮されるという見解もあるが、労働基準法による規定はあくまで刑事罰を伴う責任であり、民事上は就業規則等で取り決めが無い場合は30日を超える予告義務が別に存在すると解することができる。予告自体は口頭で行っても差支えないが、実際には後日の紛争を防ぐために書面を交付する場合がほとんどである。予告を郵送によって行う場合は、投函した日ではなく相手方に郵便が到着した日が予告日となる(民法97条)ため、解雇日の設定は郵便事情をも考慮して設定しなければならない。民法627条2項の規定による予告の日数が30日に満たない場合は同条2項の規定は排除される(昭和23年7月20日基収2483号)。

解雇予告は原則として取消すことはできないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には取消すことができる。同意がない場合は予告期間の満了をもって解雇されることになるため、自己退職の問題は生じない(昭和25年9月21日基収2824号、昭和33年2月13日基発90号)。

解雇予告がなされても、その予告期間が満了するまでの間は、労働関係は有効に存続する。したがって、労働者は労務提供義務があり、使用者は賃金支払義務がある(昭和25年9月21日基収2824号、昭和33年2月13日基発90号)。解雇予告と同時に休業を命じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%である休業手当(26条)しか支払わなかった場合でも、30日前に予告がなされている限り、その労働契約は予告期間の満了によって終了する(昭和24年12月27日基収1224号)。解雇予告が有効と認められ、かつその解雇の意思表示があったために予告期間中に労働者が休業した場合には、使用者は解雇が有効に成立するまでの間休業手当を支払えばよい(昭和24年7月27日基収1701号)。なお、3月31日付けでの退職届けを出していたが、それ以前、たとえば3月15日に即日解雇された場合は、解雇予告手当として30日分の平均賃金の支払いをしなければならないため、15日以降の出勤日を休業させ平均賃金の6割である休業手当を払うほうが合理的である。

解雇の予告をしたにもかかわらず、解雇予定日を過ぎても引き続き労働者を使用した場合は、同一条件で労働契約がなされたものと取り扱われるので、その解雇予告は無効となり、その後解雇しようとする場合には改めて解雇の予告が必要となる(昭和24年6月18日基発1926号)。

予告期間満了前に労働者が業務上の疾病のため休業した場合、制限期間中の解雇はできないが、休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力発生が中止されたにすぎないので、休業明けに改めて解雇予告をする必要はない(昭和26年6月25日基収2609号)。

定年に到達したことで自動的に退職する「定年退職」の場合は解雇予告の問題は生じないが(昭和26年8月9日基収3388号)、定年に達したときに解雇の意思表示を行い、それによって労働契約を終了させる「定年解雇」の場合は20条による解雇予告の規制を受ける(秋北バス事件、最判昭和43年12月25日)。定年後の再雇用の場合は、単に労働者の職制上の身分の変動であって労働関係は継続して存続するものであるから20条の問題は生じない(昭和25年1月10日基収3682号)。


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