観音信仰
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また、例えば地蔵菩薩を観音と同じ大悲闡提の一対として見る場合が多く、地蔵が男性の僧侶形の像容であるのに対し、観音は女性的な顔立ちの像容も多いことからそのように見る場合が多い[13]。観音経では「婦女身得度者、即現婦女身而為説法」と、女性に対しては女性に変身して説法することもあるため、次第に性別は無いものとして捉えられるようになった。また後代に至ると観音を女性と見る傾向が多くなった。これは中国における観音信仰の一大聖地である普陀落山(浙江省・舟山群島)から東シナ海域や黄海にまで広まったことで、その航海安全を祈念する民俗信仰や道教媽祖信仰などの女神と結び付いたためと考えられている[要出典]。

また、妙荘王の末女である妙善という女性が尼僧として出家、成道し、観音菩薩となったという説話が十二世紀頃に中国全土に流布し、『香山宝巻』の成立によって王女妙善説話が定着、美しい女性としての観音菩薩のイメージが定着したとする説もある[14]
所依経典(観音経)観音経。江戸時代の経本の、妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五の最後の部分。これは読誦用の「両点本」で、経文(漢文)の右側に「真読」(経文を呉音で直読するためのふりがな)を、左側に「訓読」(経文を漢文訓読で読み下すための訓点)が表記されている。

観音について説かれた仏教経典は数多いが、最古かつ最も有名なのは妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五、別名「観音経」である。[15]後述の三十三身普門示現もこの教典の長行に説かれている。この略本と考えられている十句観音経や、十一面観音について説かれた十一面観世音菩薩随願即得陀羅尼経がよく読誦される経典である。[注釈 4]

これらの経典は、普門品偈文(観音経)に、「衆生、困厄を被りて、無量の苦、身に逼(せま)らんに、観音の妙智の力は、能く世間の苦を救う。(観音は)神通力を具足し、広く智の方便を修して、十方の諸(もろもろ)の国土に。刹として身を現ぜざることなし。種々の諸の悪趣。地獄・鬼・畜生。生・老・病・死の苦は、以て漸く悉く滅せしむ。」[注釈 5]とあるように、観音の慈悲が広く、優れた現世利益を持つことを述べている点が共通している。
普門示現中国の観音菩薩像(北宋時代)

観音が世を救済するに、広く衆生の機根(性格や仏の教えを聞ける器)に応じて、種々の形体を現じる。これを観音の普門示現(ふもんじげん)という。法華経「観世音菩薩普門品第二十五」(観音経)には、観世音菩薩はあまねく衆生を救うために相手に応じて「仏身」「声聞(しょうもん)身」「梵王身」など、33の姿に変身すると説かれている。[注釈 6]なお、観音経とは別に、密教経典『摂無礙経』にも三十三身の記載があり、両者は細部が異なる。(下記参照)

西国三十三所観音霊場三十三間堂などに見られる「33」という数字はここに由来する。なお「三十三観音」(後述)とは、この法華経の所説に基づき、中国及び近世の日本において信仰されるようになったものであって、法華経の中にこれら33種の観音の名称が登場するわけではない。

この普門示現の考え方から、六観音、七観音、十五尊観音、三十三観音など多様多種な別身を派生するに至った。

このため、観音像には基本となる聖観音(しょうかんのん)の他、密教の教義により作られた、十一面観音千手観音など、[16]変化(へんげ)観音と呼ばれる様々な形の像がある。阿弥陀如来の脇侍としての観音と異なり、独尊として信仰される観音菩薩は、現世利益的な信仰が強い。そのため、あらゆる人を救い、人々のあらゆる願いをかなえるという観点から、多面多臂の超人間的な姿に表されることが多い[要出典]。その元となったのが三十三応現身像と言われている。応現身とは相手に応じて様々な姿に変わることをいう[要出典]。

『観音経』の観音三十三応現身の種類及び、対応する仏尊、三十三観音を以下に図とする。[注釈 7]

『観音経』の観音三十三身の種類対応する仏尊三十三観音[注釈 8]『摂無礙経』の観音三十三身の種類
1仏身阿弥陀如来(観自在王如来)青頸(しょうきょう)観音仏身(ぶっしん)
2辟支仏(びゃくしぶつ)身水月観音辟支仏身(びゃくしぶつしん)
3声聞(しょうもん)身持経(じきょう)観音声聞身(しょうもんしん)
4梵王身梵天徳王観音大梵王身(だいぼんおうしん)
5帝釈(たいしゃく)身帝釈天葉衣(ようえ)観音帝釈身(たいしゃくしん)
6自在天身他化自在天瑠璃観音自在天身(じざいてんしん)
7大自在天身大自在天普悲(ふひ)観音大自在天身(だいじざいてんしん)
8天大将軍身不明[注釈 9]威徳(いとく)観音天大将軍身(てんだいしょうぐんしん)
9毘沙門身毘沙門天阿摩提(あまだい)観音毘沙門身(びしゃもんしん)
10小王身[17]蓮臥(れんが)観音小王身(しょうおうしん)
11長者身[注釈 10]衆宝(しゅうほう)観音長者身(ちょうじゃしん)
12居士(こじ)身六時観音居士身(こじしん)
13宰官身一葉観音宰官身(さいかんしん)
14婆羅門身合掌観音婆羅門身(ばらもんしん)
15比丘(びく)身比丘身(びくしん)
16比丘尼身15、16をまとめて白衣(びゃくい)観音比丘尼身(びくにしん)
17優婆塞(うばそく)身優婆塞身(うばそくしん)
18優婆夷(うばい)身優婆夷身(うばいしん)
19長者婦女身馬郎婦(ばろうふ)観音人身(じんしん)
20居士婦女身非人身(ひじんしん)
21宰官婦女身婦女身(ふじょしん)
22婆羅門婦女身童目天女身(どうもくてんにょしん)
23童男身童男身(どうなんしん)
24童女身23、24をまとめて持蓮(じれん)観音童女身(どうにょしん)
25天身いわゆる天龍八部衆天身(てんしん)
26竜身龍身(りゅうしん)
27夜叉(やしゃ)身25から27までをまとめて龍頭(りゅうず)観音に配当夜叉身(やしゃしん)
28乾闥婆(けんだつば)身乾闥婆身(けんだつばしん)
29阿修羅身阿修羅身(あしゅらしん)
30迦楼羅(かるら)身迦樓羅身(かるらしん)
31緊那羅(きんなら)身緊那羅身(きんならしん)
32摩?羅伽(まごらが)身摩?羅伽身(まごらがしん)
33執金剛身執金剛神[注釈 11]不二(ふに)観音執金剛身(しゅうこんごうしん)

『観音経』観音三十三身の絵図。『観音経絵解』(1866年刊)より。

12. 居士

27. 夜叉

28. 乾闥婆

29. 阿修羅

30. 迦楼羅

31. 緊那羅

32. 摩?羅伽

六観音

真言系では聖観音十一面観音千手観音馬頭観音如意輪観音准胝観音を六観音と称し、天台系では准胝観音の代わりに不空羂索観音を加えて六観音とする。六観音は六道輪廻(ろくどうりんね、あらゆる生命は6種の世界に生まれ変わりを繰り返すとする)の思想に基づき、六種の観音が六道に迷う衆生を救うという考えから生まれたもので、地獄道 - 聖観音、餓鬼道 - 千手観音、畜生道 - 馬頭観音、修羅道 - 十一面観音、人道 - 准胝観音、天道 - 如意輪観音という組み合わせになっている。

なお、千手観音は経典においては千本の手を有し、それぞれの手に一眼をもつとされているが、実際に千本の手を表現することは造形上困難であるために、唐招提寺金堂像や葛井寺の乾漆千手観音坐像などわずかな例外を除いて、42本の手で「千手」を表す像が多い。観世音菩薩が千の手を得た謂われとしては、伽梵達摩訳『千手千眼觀世音菩薩廣大圓滿無礙大悲心陀羅尼經』がある。この経の最後に置かれた大悲心陀羅尼は現在でも中国や日本の禅宗寺院で読誦されている。
七観音

観音が衆生教化のために変じ給える七身。真言系の六観音に天台系の不空羂索観音を加える。
十五尊観音

三十三観音(次項参照)のうち、白衣、葉衣、水月、楊柳、阿摩提、多羅、青頸、琉璃、龍頭、持経、円光、遊戯、蓮臥、瀧見、施薬の15の変化身をいう。
三十三観音

以下に列挙した三十三観音の名称は、天明3年(1783年)に刊行された絵師の土佐秀信が著した『仏像図彙』(ぶつぞうずい)という書物に所載のものである。この中には白衣(びゃくえ)観音、多羅尊観音のようにインド起源のものもあるが、中国や日本で独自に発達したものもあり、その起源は様々である。


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