視等級
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このわずかな補正を除けば、ベガの明るさは、可視光と近赤外の波長では0等級の定義として機能しており、そのスペクトルエネルギー分布 (SED) は、11000 Kの黒体のそれに近い。しかし、赤外線天文学の登場によって、ベガの放射には、おそらく高温の(ただし星の表面よりもはるかに冷たい) ダストからなる星周円盤を原因とする赤外超過が含まれていることが明らかとなった。可視光などのより短い波長ではダストからの放射は無視できるが、等級のスケールを赤外線より長い波長まで適切に拡張するためには、ベガのこの特徴が等級の定義に影響を与えるべきではない。そこで、星周円盤からの放射が混入しない11000 Kの理想的な恒星表面の黒体放射曲線に基づいて、全波長への等級スケールが推定された。これに基づいて、波長の関数として、ゼロ等級の分光放射照度 (通常はジャンスキー (Jy) で表される)を計算することができる。

ベガ等級は、ベガのSEDを反映しているため、異なる波長帯での光度を比較するには不便であった。そのため、特定の天体のSEDではなく、各波長帯において一定の値の放射流束密度を原点とする方式が考案された[16]。最も広く使用されているのはAB等級 (AB magnitude, monochromatic magnitude) [17]で、各波長帯での0等級に相当する放射流束密度3630 Jy(正確には103.56 Jy)と定めたものである[16][18]。AB等級では、Vフィルタの帯域にある波長548.0 nmのとき、0.03等でベガ等級と一致するように定義されている[16][18]
測定

精密な等級の測定には、写真や電子的な検出装置の校正が欠かせない。一般に校正は、分光フィルタを使って等級が正確にわかっている測光標準星を、同一の条件の下で同時観測することが必要とされる。さらに、望遠鏡で実際に受光される光の量は、地球の大気を透過することで減少するため、目標と測光標準星とのエアマスを考慮する必要がある。一般的には、等級がかなり近い既知の恒星をいくつか観測することとなる。大気の経路に大きな違いがないようにするため、測光標準星は目標と近い位置にある星が好まれる。目標と測光標準星の天頂距離(あるいは地平高度)が多少異なる場合は、エアマスの関数としての補正係数を導き出すことで、目標の位置のエアマスとして適用することができる。このような校正を経ることで、あたかも大気の上から観察されたときのような見かけの等級を得ることができる。
計算ESOVISTA望遠鏡で撮影されたタランチュラ星雲の画像。この星雲の見かけの等級は8である。相対輝度と等級のグラフ

天体が暗く見えるほど、その等級の値が大きくなり。5等級の差は、ちょうど明るさの比100に対応する。 したがって、等級をm、スペクトル帯をxとしたとき、この波長での等級mxは、以下の式で求められる。 m x = − 5 log 100 ⁡ ( F x F x , 0 ) {\displaystyle m_{x}=-5\log _{100}\left({\frac {F_{x}}{F_{x,0}}}\right)}

これを常用対数でより一般的に表現すると、以下のようになる。 m x = − 2.5 log 10 ⁡ ( F x F x , 0 ) {\displaystyle m_{x}=-2.5\log _{10}\left({\frac {F_{x}}{F_{x,0}}}\right)}

ここで、 Fxは分光フィルタxを使用して観測された流束密度であり、Fx,0はその測光フィルタの基準流束(ゼロ点)である。5等級の増加は正確に100分の1の明るさへの減少に相当するので、1等級の増加は、5√100 ? 2.512 分の1の明るさの減少に相当する(ポグソン比)。

等級の差を m1 − m2 = Δm、2つの星の流速密度をそれぞれF1、F2とした場合、明るさの比は、以下の式で求められる。 F 2 F 1 = 100 Δ m 5 = 10 0.4 Δ m ≈ 2.512 Δ m {\displaystyle {\frac {F_{2}}{F_{1}}}=100^{\frac {\Delta m}{5}}=10^{0.4\Delta m}\approx 2.512^{\Delta m}}
例:太陽と月

太陽満月の明るさの比は?

太陽の見かけの等級は−26.74(明るい)で、 満月の平均等級は−12.74(暗い)。

等級の差: x = m 1 − m 2 = ( − 12.74 ) − ( − 26.74 ) = 14.00 {\displaystyle x=m_{1}-m_{2}=(-12.74)-(-26.74)=14.00}

明るさの比: v b = 10 0.4 x = 10 0.4 × 14.00 ≈ 398 107 {\displaystyle v_{b}=10^{0.4x}=10^{0.4\times 14.00}\approx 398\,107}

太陽は満月の約400000倍明るく見える。
等級の加算

明るさを加算したい場合、例えば、近接した二重星測光では、2つの星が出す光の出力を合成したものしか測定できないかもしれない。個々の成分の等級だけを知っていて、その二重星の合成等級をどのように計算するか? これは、各等級に対応する明るさ(線形単位)を足すことで計算できる[19]。2つの恒星の等級をm1、m2、合成等級をmfとすると、2つの恒星の明るさは以下の式で求められる。 10 − m f × 0.4 = 10 − m 1 × 0.4 + 10 − m 2 × 0.4 {\displaystyle 10^{-m_{f}\times 0.4}=10^{-m_{1}\times 0.4}+10^{-m_{2}\times 0.4}}

m f {\displaystyle m_{f}} を得るために解くと、 m f = − 2.5 log 10 ⁡ ( 10 − m 1 × 0.4 + 10 − m 2 × 0.4 ) {\displaystyle m_{f}=-2.5\log _{10}\left(10^{-m_{1}\times 0.4}+10^{-m_{2}\times 0.4}\right)}
放射等級

一般的に等級がある波長範囲に対応する特定のフィルタバンドでの測定値を指すのに対し、見かけまたは絶対放射等級 (mbol、bolometric magnitude) は、ある天体が放射する電磁スペクトルのすべての波長にわたって積分された、天体の見かけまたは絶対等級である。(それぞれ、天体の放射照度または出力としても知られている)。見かけの放射等級スケールのゼロ点は、見かけの放射等級0等が2.518×10?8 W/m2の受信放射照度に相当する、という定義に基づいている[20]
絶対等級

見かけの等級が特定の観測者から見た天体の明るさの尺度であるのに対して、絶対等級は天体固有の明るさの尺度である。星の流束は逆二乗則に従って距離と共に減少するため、星の見かけの等級は、その絶対光度と距離(および減光)の両方に依存する。たとえば、ある距離にある星の見かけの等級は、その2倍の距離にあって4倍明るい星と同じ見かけの等級となる。対照的に、天体の固有の明るさは、観測者の距離や減光に依存しない。

恒星など太陽系外の天体の絶対等級Mは、10 パーセク(約32.6光年)の距離から見たときの見かけの等級として定義されている。太陽の絶対等級は、Vバンド(緑)で4.83等、Bバンド(青)で5.48等である[21]

惑星や小惑星などの太陽系内の天体の場合、絶対等級Hは、観測者と太陽の両方から1 天文単位 (au) 離れていて、太陽から照らされた側が全て観測者の側に向いていた場合の見かけの等級で表される。
標準参考値

典型的な波長域と0等級での流束[22]波長域λ



(μm).mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}Δλ/λ



半値幅)m = 0での流束(Fx,0)
Jy10−20 erg/(s⋅cm2⋅Hz)
U0.360.1518101.81
B0.440.2242604.26
V0.550.1636403.64
R0.640.2330803.08
I0.790.1925502.55
J1.260.1616001.60
H1.600.2310801.08
K2.220.2306700.67
L3.50
g0.520.1437303.73
r0.670.1444904.49
i0.790.1647604.76
z0.910.1348104.81

等級スケールは、逆対数スケールである。等級に関するよくある誤解に、スケールが対数的であるのは人間の目自体が対数的な反応を持っているためである、というものである。ポグソンの時代にはこれは真実であると考えられていたが(ウェーバー・フェヒナーの法則を参照)、現在では反応はべき乗則であると考えられている[23]


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