メキシコのルチャリブレでは、レスラー同士の因縁を決着するストーリーとして、覆面(マスカラ)や髪(カベジェラ)などを賭けて試合を行うことがある。これらを賭けて行われる試合はコントラ・マッチと呼ばれ、覆面レスラー同士がそれぞれの覆面を賭ける場合は「マスカラ・コントラ・マスカラ」片方のみが覆面レスラーで、他方が髪を賭ける場合は「マスカラ・コントラ・カベジェラ」となる。メキシコではタイトル歴と同じように誰のマスクを剥いできたかというマスク剥ぎ歴が勲章とされている[7]。また、メキシコでは例年9月(通常は第3週金曜日)にルチャリブレ生誕祭が行われ、マスク剥ぎマッチが行われることが多い[7]。
マスクを脱いだレスラーは基本的に以降は素顔で活動するのが通例であるが、レイ・ミステリオやK-ness.など、再びマスクを被るレスラーもいる。なおメキシコではライセンス交付制のため厳密に適用されており、国内において同じデザインのマスク、リングネームを名乗ることはできない。メキシコで敗れているBUSHIがブシロードとしてCMLLに参戦(日本ではBUSHIを継続使用)するなど類似名は可能で、メキシコでは素顔なものの日本では継続してマスクを被っていたボラドール・ジュニアの例もある。
試合前に「もし負けてマスクを脱ぐようなことがあれば引退する」と豪語するレスラーもいるが、プロレスに限らず芸能の世界では引退は言葉通りにならないことが多く、大半は(別キャラクターということを前提として)現役を続行している。
覆面の種類売店で販売される多様な覆面。
覆面が誕生した当時は、デザインも非常にシンプルなものだった。しかし覆面レスラーが認知されるにつれ、ラメ入りの生地やフェイクファーなどの飾り、目や口の部分にメッシュ素材(中からは外が透けて見えるが、外からは中が見えにくい)を使うなど、その意匠も凝ったものになってきた。こうした覆面はファン向けにレプリカが作られることも多く、特に本物と同じ素材で作られたものは数万円で売られる。
また、ミル・マスカラスのように、覆面のデザインやカラーリングをあえて統一せず、多彩な種類で見る側の目を楽しませるものもいた。マスカラスは試合用の覆面の上にオーバーマスクをかぶり、入場後そのオーバーマスクを観客席に投げ入れるというファンサービスも行っていた(現在はレイ・ミステリオ、BUSHIがほぼ同じパフォーマンスを行っている)。丸藤正道など普段は素顔で試合をする選手でも、入場パフォーマンスとして覆面を被り、試合前に脱ぎ捨てる場合もある。
2000年代のメキシコでは特殊メイクのような合成ゴム製のマスクが流行り、グロンダやゲファーなどの怪物キャラクターが生まれた。
なお、試合以外で覆面レスラーとして公の場に出る際には、プライベート用の覆面を着用することが多い。プライベート用は食事がとりやすいよう口の部分が大きく開き、着脱しやすいようヒモではなくファスナーで締める、などの工夫が見られる。一方でタランチェラのように試合以外では素顔になる選手も稀に存在する。 アメリカで覆面が生まれた際には布2枚で巾着のように縫製されていたが、のちに被り心地、フィット面、呼吸のしやすさなどから布4枚を縫合して縫うことが一般的となった。当初は専門に縫う者もおらず、靴職人や日本ではおもちゃメーカーのポピーが副業として縫製していたが、要求される専門性から、メキシコや日本では専門の職人、メーカーが縫製している。選手はそれぞれ特定の職人、メーカーと取引をしていることが多く、メキシコでは親の下で修業し、家を継ぐ形で何代にも渡るメーカーもある[8]。メキシコの第一人者とされるのは革靴職人だったアントニオ・マルティネスで、1933年にアイルランド出身のシクロン・マケイから依頼されたのをきっかけに取り組み(それまではプロレスやボクシングのリングシューズ製作で競技に関わる)[9]、ルチャ黎明期のほとんどのマスクを手掛けていた。「マルティネス」はその後も2代目が受け継ぐ老舗メーカーとなっている。 日本ではミステル・カカオが著名であり、プロ用マスクからアイドルがミュージックビデオで使用するマスクやコマーシャルやバラエティー番組で使用するマスクなどの制作実績がある[10]。
職人
その他
ドス・カラス・ジュニア - 史上初の覆面バーリトゥーダー。他に獣神サンダーライガーも覆面姿のまま総合格闘技の試合をしたことがある。
フィクション
キン肉スグル - プロレス系格闘漫画、キン肉マンの主人公。丸い団子っ鼻にタラコ唇という面相の持ち主だが、これはマスクであり素顔ではない。キン肉族には、生涯をマスクをかぶって過ごし、もしも誰かに素顔を見られたら死ななければならない、という独特な掟がある。
脚注[脚注の使い方]^ a b c d e 流智美『「スポーツスピリット21」シリーズ16 マスクマン・ワールド「覆面レスラー」の謎と真実』(2004年、ベースボールマガジン社)78‐79頁
^ a b 流智美『「スポーツスピリット21」シリーズ16 マスクマン・ワールド「覆面レスラー」の謎と真実』(2004年、ベースボールマガジン社)80‐81頁
^ ⇒ミック博士の昭和プロレス研究室
^ 那嵯涼介『最強の系譜 プロレス史 百花繚乱』(2019年、新紀元社)
^ “日本に襲来した覆面暗殺団、ジ・アサシンズ!
^ 高崎計三『「スポーツスピリット21」シリーズ16 マスクマン・ワールド「覆面レスラー」の謎と真実』(2004年、ベースボールマガジン社)74‐77頁
^ a b 『「スポーツスピリット21」シリーズ16 マスクマン・ワールド「覆面レスラー」の謎と真実』(2004年、ベースボールマガジン社)98頁