褐藻の成長様式は多様であり、特定の分裂細胞をもたないものから、分裂組織をもつものまでいる[4][6][7][8]。分散成長(diffuse growth)特定の分裂細胞をもたず、基本的に全ての細胞が分裂する。シオミドロ目
などに見られる。介生成長(節間成長、intercalary growth)分裂する細胞が藻体の中間部に局在する。コンブ目などに見られる。頂端成長(先端成長、apical growth)分裂する細胞が藻体の先端に局在する。分裂細胞が1個の場合と、複数の分裂細胞が存在する場合がある。藻体が扇形でその縁辺に分裂細胞が配置している場合は縁辺成長(marginal growth)ともよばれる。アミジグサ目やヒバマタ目に見られる。また分裂細胞より先端側に毛が存在するものは頂毛成長(trichothallic growth)とよばれ、ムチモ目やケヤリモ目に見られる。褐藻の細胞は、細胞壁に囲まれている。細胞壁は繊維性多糖(細胞壁の基本骨格となる多糖)であるセルロースを含むがその含量は少なく(藻体乾燥重量の1?10%)、マトリックス多糖(繊維性多糖を包埋する基質となる多糖)であるアルギン酸が多く(藻体乾燥重量の35%に達することもある; 右図1j)、またフコイダン(フカン)などの硫酸多糖を含む[1][4][7][8][5]。アミジグサ目の中には、細胞壁に炭酸カルシウムが沈着して石灰化するものもいる[6](上図1f)。
隣接する細胞の原形質は原形質連絡によってつながっており、これを通して光合成産物や無機栄養塩、シグナル分子が輸送される[1][4][7]。多数の原形質連絡が集合してピット構造を形成していることがあり、コンブ目の胞子体では師管様の細胞糸であるトランペット細胞糸(trunpet-shaped hypha、菌糸様細胞糸 hyphal filament)にこのような構造が見られる[4][7]。褐藻の原形質連絡の中には、陸上植物の原形質連絡に見られるようなデスモ小管(隣接細胞の小胞体をつなぐ管状構造)は存在しない[4][5]。
細胞はふつう単核性(1個の核をもつ)である[5]。褐藻の細胞は細胞周期を通じて中心体対を有しており、ほとんどの微小管は中心体から伸びている[4][8]。そのため陸上植物などに見られる表層微小管をもたず、細胞骨格系としては表層アクチンフィラメントが存在する[4][8]。このアクチンフィラメントは、細胞壁のセルロース微繊維(ミクロフィブリル)の配向を決めていると考えられている[4]。中心体を構成する中心子は、一方の親(父性)から片親遺伝する[9]。核分裂時には中心体が両極に位置し、紡錘体微小管を形成する[4][8]。染色体に明瞭な動原体は見られない[4]。核分裂時の核膜の崩壊程度は、分類群や発生段階によってさまざまである[4]。核分裂後の細胞質分裂面は中心体の位置によって決まり、またここにアクチンプレートが形成される[4][8]。細胞質分裂は、細胞膜の環状収縮またはゴルジ小胞や平板小胞の融合によって形成される細胞板の遠心的成長によって起こる[4][8]。この際に、姉妹細胞間には原形質連絡が形成される[8]。ふつう核の周囲に複数のゴルジ体が存在しているが、カヤモノリ類では核に接して1個のゴルジ体のみが、アミジグサ目やヒバマタ目では細胞質内に散在した多数のゴルジ体が存在する[4]。
細胞内にはふつう葉緑体が存在し、1細胞に複数の葉緑体をもつものが多いが、1細胞に1個の葉緑体をもつ例も知られる。葉緑体の形態も盤状のものが多いが、他に杯状、ひも状、星状などのものがある[6][4][7]。葉緑体は4枚の膜で囲まれており、最外膜は核膜と連結している[1][4][8]。チラコイドは3枚ずつ重なってチラコイドラメラを形成し、多数のチラコイドラメラは平行にならんで配置しており、これを取り囲むガードルラメラが葉緑体包膜に沿ってその内側にある[4][6][7]。色素体DNAはガードルラメラの内縁に沿って分布し、リング状の色素体核様体を形成している[1][4][7]。ピレノイドをもつ例は少ないが、シオミドロ目では突出型のピレノイドが、スキトタムヌス目では埋没型のピレノイドが見られる[4]。フロロタンニンの例1k. エコール1l. 8,8′-バイエコール
褐藻はフロログルシノールからなるポリフェノールであるフロロタンニン(phlorotannin; 右図1k, l)を蓄積し、細胞中にフィソード(褐藻胞、physode)とよばれる構造を形成していることがある[4][6][7][8][5][10]。