裁判官
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17世紀のスペインにおける法服を着た裁判官。ディエゴ・ベラスケス作。

古来より、さまざまな犯罪や係争が存在し、ある程度の社会が作られて以降はその紛争解決制度が必要となった。

古くは、社会構造については記録なども残されておらず、具体的な様相なども不明である。部族・民族ごとにさまざまな紛争解決方式が取られており、一律に理解することもできない。主として、「集団の中で権力を持つ者の裁定」や「神権裁判」などが行われた可能性が指摘されている。裁定を行う権力者や神託を告げる者などが裁判官の役割を果たした[注釈 1]

政治体制・統治機構が整うにつれ、一般的に、裁判は、王・領主・宗教者などの権力者が行うものとされ、裁判人もそれらの者、ないしはその委託を受けた者が行うようになった。
中世・近世西欧

前近代のヨーロッパでは裁判人(判断する者)と検察官(糾弾する者)が多くの国で分離されてもいなかったことに注意する必要がある。長い間、刑事裁判では、裁判官は「犯罪者を糾弾する者」という役割をあわせて担っていた(糾弾主義)。
近世日本

江戸時代は、「お白洲」に代表されるように、捜査機関である奉行所奉行が裁判官であったりもした。奉行(特に町奉行)は現代の警察官・検察官・裁判官を兼ねた職責および権限を持っていたといえ、前近代の西欧と類似点があるともいえよう。
イスラム教圏

イスラム教圏ではシャーリアに基づいて裁判を行う裁判官をカーディーと呼び、マレーシアやパキスタンなどのアラビア語圏以外のイスラム教圏でもカーディと呼ばれている。ムハンマドが存命だった時代から始まって2009年現在でもイスラム教国では裁判官として活動している。詳細は「カーディー」を参照
近代

近代以降、裁判官の位置づけは大きく変更される。まず、三権分立という概念が持ち込まれることで、裁判官は、立法・行政から切り離された。また、刑事裁判の面では裁判所と検察が分離され、裁判官は「判断をする」という役割に専念することとなり、「犯罪者を糾弾する」という役割を受け持たなくなった(弾劾主義)。こういった役割分担の変更に伴い、裁判官は「極めて高度な法的知識を必要とする専門職」とされ、また、裁判の公平性を維持するために、「立法・行政からの影響を避けるための手厚い身分保障」が必要であるとされるに至った。
日本の裁判官

日本の裁判官は、制度の面からは、最高裁判所の裁判官と下級裁判所の裁判官に分けることができる(憲法79条、80条参照)。

いずれも、国家公務員法上、特別職国家公務員とされている(同法2条3項13号)。内閣府男女共同参画局の発表では、2021年12月時点の裁判官は3,441名(男性76.3%、女性23.7%)となっている[2]

裁判官は、中立の立場で公正な裁判をするために、その良心に従い独立してその職権を行い、日本国憲法及び法律にのみ拘束されると定められている(日本国憲法第76条、裁判官の職権行使の独立)。
最高裁判所の裁判官
構成

最高裁判所の裁判官は、最高裁判所長官1名と最高裁判所判事14名で構成される(憲法79条1項、裁判所法5条1項、3項)。なお、最高裁判所には最高裁判所調査官最高裁判所事務総局の幹部職員・局付として裁判官の身分のまま勤務する者が多数いるが、これらの者の身分は最高裁判所の裁判官ではなく、東京高等裁判所もしくは東京地方裁判所に所属する判事もしくは判事補である。
任命

最高裁判所長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命する(憲法6条2項、裁判所法39条1項)。最高裁判所判事は内閣が任命し(憲法79条1項、裁判所法39条2項)、その任免は、天皇がこれを認証する(裁判所法39条3項。このように天皇が認証する官職を認証官という)。

最高裁判所の裁判官は、識見の高い、法律の素養のある年齢40年以上の者の中から任命することとされ、そのうち少なくとも10名は10年以上の判事または高等裁判所長官経験又は20年以上の法律専門家(検察官、弁護士、簡易裁判所判事、大学法学部教授、大学法学部准教授)経験を持つ者[注釈 2]から登用しなければならない(裁判所法第41条)。

実際には、最高裁判所裁判官は、下級裁判所の判事、弁護士、検察官、法学者、行政官外交官からバランスよく就任するよう配慮されており、前任者と同じ出身母体から指名されることが多い。
任期・定年

最高裁判所の裁判官に任期はなく(ただし、10年ごとの国民審査がある)、70歳に達したときには退官する(憲法79条5項、裁判所法50条)。過去最長の記録は、入江俊郎の18年4か月である。
下級裁判所の裁判官
種類
高等裁判所長官
高等裁判所の長たる裁判官である(裁判所法5条2項)。任命資格は次項の判事と同様である(同法42条)。
判事
高等裁判所・地方裁判所家庭裁判所に配置される裁判官である。判事は、判事補・簡易裁判所判事・検察官・弁護士・裁判所調査官司法研修所教官・裁判所職員総合研修所教官・大学の法律学の教授若しくは准教授の職にあって通算10年以上の者の中から任命される(裁判所法42条)。なお、地方裁判所・家庭裁判所の所長は、独立した官ではなく、判事の中から補される職である(地方裁判所長および家庭裁判所長については、裁判所法29条1項および31条の5により、最高裁判所が命ずる)。
判事補
地方裁判所・家庭裁判所に配置される裁判官である。(少数ではあるが、特例判事補が地方裁判所判事補の身分のまま高等裁判所判事職務代行を命ぜられる事例もある。)判事補は、司法修習生の修習を終えた者の中から任命される(裁判所法43条)。判事と異なり、原則として1人で裁判をすることができず、また、同時に2人以上合議体に加わることができず、裁判長になることもできないという職権の制限がある(裁判所法27条、31条の5)。ただし、判事補で、判事補等の職に5年以上ある者のうち、最高裁判所の指名する者は、いわゆる「特例判事補」として、判事と同等の権限を有するものとされる(判事補の職権の特例等に関する法律1条)。
簡易裁判所判事
簡易裁判所に配置される裁判官である。(1)高等裁判所長官若しくは判事の職にあった者、(2)判事補・検察官・弁護士・裁判所調査官・裁判所事務官・司法研修所教官・裁判所職員総合研修所教官・法務事務官・法務教官・大学の法律学の教授若しくは准教授の職にあって通算3年以上の者の中から任命されるほか(裁判所法44条)、多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者は、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる(同法45条)。
任命

下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命する(憲法80条1項、裁判所法40条1項)。

このうち、高等裁判所長官は任免に天皇の認証を受ける認証官である(裁判所法40条2項)。

2003年から、法曹三者6名・学識経験者5名から成る下級裁判所裁判官指名諮問委員会が、最高裁判所の諮問を受けて答申・報告を行う制度が導入されている[3]
任期・定年

下級裁判所の裁判官の任期は10年であり、任期満了後に再任されることができる(憲法80条1項、裁判所法40条3項)。現在、ほとんどの裁判官が再任されている。

定年は、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所の裁判官は65歳、簡易裁判所の裁判官は70歳であり、定年に達した時には退官する(憲法80条1項但書、裁判所法50条)。
日本の裁判官の人事
人数

裁判所構成法時代の裁判官は、1890年(明治23年)の時点では1,531人であった。

裁判所法施行後の定員は、1947年(昭和22年)の時点で高裁長官8人、判事814人、判事補250人、簡裁判事645人(最高裁の裁判官15人を合わせて1,731人)であったが、その後漸増している[4]

2013年(平成25年)5月16日現在の定員は、高裁長官8人、判事1,889人、判事補1,000人、簡裁判事806人である(裁判所職員定員法1条)。


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