被曝
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放射線防護体系の三原則[22][23][24][注釈 30]

行為の正当化(justification of practice)「いかなる行為も,その導入が正味でプラスの利益を生むものでなければ採用してはならない」

防護の最適化(optimization of protection)「すべての被曝は,経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り,低く保たなければならない」

線量限度(dose limitation)「医療被曝を除く,すべての計画被曝状況では個人の被曝は線量限度[注釈 31]を超えてはならない[29]

さらに、モニタリング(monitoring)により、放射線源、環境および個人の管理が厳重に行われていることを確認しなければならない。

なお、人工放射線の対として、地球誕生以来生活環境に存在している放射性同位元素からの大地放射線と宇宙からの放射線である宇宙放射線を合わせて自然放射線と呼ぶ。自然放射線による被曝により、人々は実効線量で世界平均合計年間2,400 μSv(=2.4 mSv)前後の被曝を受けているとされる[注釈 32]が、自然放射線による被曝は人為的にコントロールすることができないために放射線防護の対象から外されている(規制除外[注釈 33])。
放射線管理とモニタリング

被曝は、線源-環境-人が相互に関わり合う中で生じることから、防護措置も1線源管理、2環境管理、3個人管理の三つに分類される。このうち線源管理が最も効果が大きく、防護策を講ずる上で最も優先させるべきである[注釈 34]

さらに、各管理に対応した以下のモニタリング概念が存在する[34][35]
1 線源モニタリング(source monitoring)
放射線源の健全性、管理状況を確認するために行なわれるモニタリングを言う。最も基本的なモニタリングである。
2 環境モニタリング(environmental monitoring)
施設内の作業環境あるいは施設外の一般環境で行なわれるモニタリングであり[注釈 35]、線源の管理状況を確認し、環境安全が測られていることを確認するために行なわれる。
3 個人モニタリング(individual monitoring)
直接、作業者個人に着目して行なわれるモニタリングで、各作業者の線量が基準以下であることを確認するために行なわれる。一般公衆に対する個人モニタリングは、大規模事故などのごく特殊な場合を除いて実施されることはない[注釈 36][注釈 37]
被曝対象の区分

放射線防護の観点から被曝の対象は医療被曝、職業被曝、公衆被曝の三つに分類される。

医用画像における実効線量
対象臓器検査実効線量(大人)[37]環境放射線
等価時間[37]
頭部CT単純CT2 mSv8カ月
造影剤を使用4 mSv16カ月
胸部胸部CT7 mSv2年
がん検診のための胸部CT1.5 mSv6カ月
胸部単純X線撮影0.1 mSv10日
心臓冠状動脈CT血管造影12 mSv4年
冠状動脈CT、カルシウム走査3 mSv1年
腹部腹部・骨盤CT10 mSv3年
腹部・骨盤CT、低線量プロトコル3 mSv[38]1年
腹部・骨盤CT、造影剤あり20 mSv7年
CT結腸検査6 mSv2年
静脈内腎盂造影3 mSv1年
上部消化管造影6 mSv2年
下部消化管造影8 mSv3年
脊椎脊椎単純X線撮影1.5 mSv6カ月
脊椎CT6 mSv2年
四肢四肢単純X線撮影0.001 mSv3時間
下肢CT血管造影0.3 - 1.6 mSv[39]5週間 - 6カ月
歯科X線撮影0.005 mSv1日
骨密度測定(DEXA法)0.001 mSv3時間
PET-CT25 mSv8年
マンモグラフィー0.4 mSv7週間

職業被曝(occupational exposure)

放射線業務従事者または放射線診療従事者[注釈 38]が、業務[注釈 39]の過程で受ける被曝を職業被曝(occupational exposure)と呼ぶ[注釈 40]。職業被曝に対する防護の責任は、事業者と作業者自身にあり、職業被曝をする人々は被曝管理、健康管理、定期的な教育・訓練を受けることなどが義務づけられている。被曝線量に対しては、法令で線量限度が決められており、放射線業務従事者はサーベイメーターなどを装着し、線量限度を超えないようにしなければならない[40][注釈 41]
公衆被曝(public exposure)

職業被曝、医療被曝以外の被曝、すなわち、原子力・放射線利用に伴う一般の人々の被曝(例えば原子力施設の周辺の住民の被曝など)を公衆被曝(public exposure)と呼ぶ[注釈 42]。公衆被曝に対する防護の責任は、公衆被曝をもたらす放射線源を利用する事業者にあるが、職業被曝とは異なり、公衆の構成員の一人ひとりを管理(個人被曝管理)することは実態として難しいため、公衆の放射線安全が確保されていることは、線源モニタリングと環境モニタリングによって確認される[44]。つまり、公衆被曝では基本的に個人モニタリングは行なわれない。
医療被曝(medical exposure)「放射線医学」および「放射線療法」も参照

医療の現場における、患者への病気の治療を目的とした意図的な放射線照射による被曝を医療被曝(medical exposure)と呼ぶ。医療被曝に対する防護の責任は、事業者(施設の責任者)および実際に放射線診療に関わる医師と診療放射線技師等によって行なわれる[注釈 43]

医療被曝には、職業被曝や公衆被曝に適用される線量限度は存在せず[注釈 44]、線量は防護量である等価線量実効線量(単位:シーベルト[Sv])ではなく全て吸収線量(単位:グレイ[Gy])で表される。さらに、法律で規制される被曝限度には、医療被曝によるものは含まれない[注釈 45]
日本における被曝の法規制

被曝のおそれのある場所は放射線管理区域に指定され、厳密に管理される。さらに、放射性物質の付着や内部被曝のおそれがある区域は「汚染のおそれのある管理区域」(その他は「汚染のおそれのない管理区域」)として、防護服を着用するなどの汚染防止策が採られる。詳細は「放射能汚染対策」を参照

また、業務上放射線を扱うため被曝のおそれがある労働者については年間等の被曝線量に限度が設けられており、これを超えて従業することは国際放射線防護委員会の勧告に基づいた放射線障害防止法電離放射線障害防止規則人事院規則10-5、医療法施行規則等により多重規制されている。

管理区域に立ち入らない一般公衆の被曝線量限度は、これらの法令による放射線管理区域等からの漏洩放射線線量率や、放出される放射性同位元素濃度の規制により放射線業務に従事する者の限度より遥かに低く抑えられるように義務付けられている[46]。「放射線管理手帳」も参照
食品のもつ放射能に関する規制「ウクライナの食品の放射能基準」も参照

チェルノブイリ原子力発電所事故を契機に、輸入食品内における放射能の暫定限度が370 Bq/kg(セシウム134+セシウム137の合計値)に設定され、これを超える食品は日本に輸入することができない[47]

福島第一原子力発電所事故後の暫定基準値(ざんていきじゅんち)については食品に含まれる放射能に関する暫定規制値の項目を参照。
被曝と社会運動詳細は「反核運動」および「原子力撤廃」を参照

上記の被曝のうち、特に核兵器による被曝や、核実験また「原子力の平和的利用」として開発と設置が進められてきた原子力発電などの原子力事故を受けて、放射性物質による被曝および被曝のリスクも含めて、これまでに世界規模で反核運動が行われてきた。

日本では第五福竜丸被爆事件を契機に安井郁(やすいかおる)が原水爆禁止運動を組織化し、1955年に原水爆禁止日本協議会を設立した。


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