行為能力
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もしも法律行為のときに、この意思能力を欠いていた場合には、その法律行為は無効となる[注釈 2]。そして、法律行為のときに意思能力を欠いていたことを理由として法律行為の無効を主張するには、その法律行為がなされた時点において、自らに意思能力が無かったことを証明しなければならない。しかし、これは容易ではないため、意思能力という実質的な基準だけでは、判断能力が不十分な社会的弱者の保護を図ることができないおそれがある。また、意思能力がなかったことが証明された場合には、当該法律行為は無効となるので、相手方に不測の損害を与えるおそれもある。

そこで民法は、意思能力の有無が法律行為ごとに個別的に判断されることから生じる不都合を回避し、判断能力が不十分と考えられる者を保護するため、あらかじめ年齢や審判の有無という形式的基準により行為能力の有無を定めた。この行為能力が制限された者を制限行為能力者といい、個別の事情により未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人に類型化される(20条)。各類型の制限行為能力者は、それぞれ一定の法律行為につき、単に制限行為能力者であることを理由として、法律行為を取り消すことができるものとした。これにより、判断能力の不十分な者を意思能力の証明の問題から解放して保護を図り、併せて、制限行為能力者の取引の相手方に注意を促して、不測の損害を被ることのないようにした。自然人であれば当然に行為能力が認められるのが近代法の原則であることから、行為能力の論点は結局「どのような者の行為能力を制限すべきか」という点に行き着く。なお法人の行為能力については法人#法人の能力を参照のこと。

婚姻養子縁組遺言など、身分行為には制限行為能力制度の適用はない。身分行為を行う能力については個別に要件が定められている(未成年者の婚姻について定めた民法731条、民法737条等)。

権利能力者自然人行為能力者
制限行為能力者未成年者
成年被後見人
被保佐人
被補助人
法人

沿革
明治民法~戦後の民法改正

1896年(明治29年)施行の民法(いわゆる「明治民法」)では、無能力者(行為能力が制限される者)として、以下の4種類を規定していた。
未成年者

禁治産者

準禁治産者


このうち、未成年者は明治民法の時点ですでに現行法とほぼ同趣旨の規定が置かれていた。禁治産者は現行法の成年被後見人、準禁治産者は被保佐人にそれぞれ相当するとされ[注釈 3]、後述の成年後見制度の開始まで制度が続けられた。妻については第14条で以下のように規定していた。

第14条
妻カ左ニ掲ケタル行為ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第十二条第一項一号乃至第六号ニ掲ゲタル行為ヲ為スコト[注釈 4]

贈与若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絶スルコト

身体ニ羈絆ヲ受クヘキ契約ヲ為スコト


前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得

おおむね準禁治産者に近い行為能力の制限が定められ、また営業に関しては未成年者に類似した規定(夫の許可を要する旨の第6条及び許可を受けた旨の登記(妻登記)を定めた商法第5条)が設けられた。

一部歴史学者は妻の行為無能力を独法系の明治民法特有の特徴として挙げる[3]が、起草者説明によると、明治23年旧民法を継承したもので(人事編第68条、第一草案第104条)、妻の行為能力原則肯定・例外否定の英・独法系を退け、原則否定・例外肯定の仏法系(正確にはイタリア民法[4])を採用したものと説明[5]されている。また夫の同意無き行為が不可能なわけではなく、取消事由になるに留まる(同2項、16条)[6]。つまり実際上大きな支障が無いばかりか、不都合な契約がなされた場合に同意の不存在を理由に取り消しうるという意味で、現代的な男女平等理念にこそ反するものの、消費者保護の観点からはむしろ妻に有利な規定であった[7]。旧民法人事編原案起草者熊野敏三によれば、子を含む家族全体の利益保護を目的とし、一家の浮沈を左右する行為につき夫婦の意見不一致のときの最終的な決定権を夫に与えて紛争防止を図るか、訴訟増加を甘受するかの選択につきやむをえず前者を採ったものと説明されている[8]

無能力者とされたのはあくまで「妻」(婚姻中の女性)であり、未婚の女性や夫と離別・死別した女性は行為能力が認められていた[注釈 5]。妻を無能力者とする条項は当時からおおむね不評であり、1927年(昭和2年)の臨時法制審議会では政府の諮問に対し廃止も含めた答申を出している。明治23年民法をめぐる民法典論争における保守的延期派の代表格とみなされる江木衷[9]も、時代遅れな規定として批判[10]している。昭和22年の民法改正により妻を無能力者とする規定は削除された。
成年後見制度へ

1999年(平成11年)の民法改正前には、制限行為能力者と同種の法律用語として、「無能力者」あるいは「行為無能力者」という用語が用いられていた。しかし、「無能力」という言葉は字義通り「能無し」の意味に受け取られ、差別的であまり良いイメージではないため、同じく差別的な「禁治産者」「準禁治産者」などの用語も一掃し、制度の内容もプライバシーの保護や自己決定の尊重などを重視して大幅に変更した。

このとき新たに作られた制度が成年後見制度であり、従来の「無能力者」は「制限能力者」に表現が改められた。さらに、民法の現代語化を主な目的とする2004年(平成16年)の民法の一部改正法の施行により、2005年(平成17年)4月から、さらに「制限行為能力者」という表現に改められた。

なお、この民法の改正に合わせて任意後見契約に関する法律が施行され、任意後見人の制度が発足した。同時に、後見登記等に関する法律により、後見、補佐及び補助に関する登記、任意後見契約に関する登記がされることとなった。
制限行為能力者の類型
未成年者

民法は「年齢十八歳をもって、成年とする。」と規定しており(4条)、この反対解釈から民法上の未成年者とは18歳に達しない者をいう。ただし、未成年者が婚姻をした場合は、18歳に満たない場合でも成年に達したものとみなされる(753条 - 婚姻による成年擬制)。

未成年者は制限行為能力者であり(20条)、未成年者の財産行為には原則として法定代理人の同意を要することになる(5条1項本文)。未成年者の法定代理人は、通常は親である(親権者)が、親権者がいない場合は、未成年後見人が選任される(839条、840条)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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