アメリカのケヴィン・リンチは、1960年に『都市のイメージ』(The Image of the City)を発表、ボストンの住民にメンタルマップを描いてもらうアンケートを実施した結果、人種・居住歴・学歴・性別・所得などの属性によって知覚される都市のイメージが異なることを示した[11]。リンチは都市計画家であったが、地理学者にも影響を与え、都市地理学や社会地理学においてマイノリティの研究に援用された[11]。一方、地理学者ピーター・グールドは1966年にアメリカ各地の大学生に「住んでみたい地域」を調査し、各人の選好度を分析して地域の得点を算出、地図に表現したが、これが地域に対する無意識の先入観、地域のステレオタイプを浮き彫りにした[11]。この研究は人口移動の要因を説明するのにも役立った[1]。こうした一連の研究を受け、行動地理学が形成されていった。行動地理学は、人間が環境をどう認知するかに加え、認知したことが人間行動に結びつくのか、という視点から議論を進めた[1]。こうした狭義の行動地理学は、西洋的な個人主義・合理主義の人間観を共有していた[7]。しかし環境認知論の流行は、上述の科学的客観性・検証可能性を追求する行動地理学の研究とは別の、主観的・情緒的なイメージの研究をも発達させることになり、人文主義地理学誕生につながった[1]。
1980年代になると、行動地理学は流行の終わりによって研究者が古巣の都市地理学や人口地理学などの分野に戻ったことと[7]、人文主義や構造主義(ラディカル派)の研究者からの批判[12]により研究は失速、地理学の歴史の中で過去のものとなりかけたが[13]、1980年代も末になると地理学内の実証主義・人文主義・構造主義の論争の収束が見られ[14]、1990年代になると認知科学の発達、心理学の「空間」への関心の高揚、地理情報システム(GIS)の研究の深化により息を吹き返した[13]。
研究者
レジナルド・ゴリッジ
脚注
注釈
^ 環境認知論研究自体はアレクサンダー・フォン・フンボルトによって行われていたが、その後こうした研究は行われなくなり、第二次世界大戦以後の研究とは時代の断絶がある[10]。
出典
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^ 若林(1985):54ページ
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^ 若林(1994):53ページ
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^ 若林(1994):58,62ページ
^ 高橋ほか(1995):81 - 83ページ
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^ a b c 杉浦ほか(2005):45ページ
^ 岡本(1998):25 - 26ページ
^ a b 岡本(1998):23ページ
^ 岡本(1998):27ページ
参考文献
生田真人(2000)"消費者行動研究の動向と本研究の意義"『草津市消費者購買行動に関する調査・研究』第1回調査(1999?2000年度、立命館大学文学部地理学科).27-35.
岡本耕平(1998)"行動地理学の歴史と未来"人文地理(人文地理学会).50(1):23-42.
杉浦章介・松原彰子・武山政直・木勇夫『人文地理学―その主題と課題―』慶應義塾大学出版会、2005年4月20日、389pp. ISBN 4-7664-1132-3
高橋伸夫・田林 明・小野寺淳・中川 正『文化地理学入門』東洋書林、1995年10月6日、222pp. ISBN 978-4-88721-086-8
森川洋(1992)"地誌学の研究動向に関する一考察"地理科学(地理科学学会).47(1):15-35.
若林芳樹(1994)"行動地理学の主要概念とその構成―欧米の教科書に関する内容分析―"地理科学(地理科学学会).49(2):53-75.
若林芳樹(1985)"行動地理学の現状と問題点"人文地理(人文地理学会).37(2):148-168.
関連項目
新しい地理学
経済地理学
商業地理学
政治地理学
地図学
外部リンク
人の行動の地理的な側面を考える「行動地理学」 - 夢ナビ
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