血液ガス
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PaO2

PaO2 は気圧、吸気酸素濃度 (FiO2)、肺胞換気量、換気血流比、シャント、拡散障害で決定される。PaO2↓となることに病的な意義がある。酸素投与をしていれば上昇するのでどれくらいの FiO2 かは常に考えなければならない。これだけの FiO2 にしては低値であるというのも所見である。具体的には換気障害、循環障害、肺胞障害(肺炎など)で低下しうる。これと PaCO2 を組み合わせて病態を予測していく。
AaDO2

酸素に特有の事項として、肺胞レベルのガス交換が重要である。二酸化炭素においては、拡散能が優れている(酸素の約 20 倍)ために肺胞気中の分圧と動脈血中のそれが等しくなり、PACO2 = PaCO2 が成立した。これに対して、拡散能が比較的低い酸素においては、肺胞気中の分圧と動脈血内のそれのあいだに較差が生じることとなり、これを肺胞気・動脈血酸素分圧較差 (AaDO2) と呼ぶ。AaDO2 の算出式は AaDO2 = PAO2 - PaO2 であり、正常は 10 Torr 以下である。20 Torr もあればかなり息苦しいと考えられる。

AaDO2 は、肺胞レベルのガス交換要因によって左右される。その要因としては下記のようなものがある。
換気・血流比の不均衡分布
低酸素血症の多くは換気・血流比の不均衡な分布による、AaDO2 の増大である。換気・血流比を測るには吸気と血液両方にアイソトープを入れてコンピュータ解析をするという結構大変な検査である。
ガス拡散能力
間質性肺炎や、肺水腫のような疾患では拡散障害が起こるといわれている。しかし、純粋に拡散のみの障害で低酸素血症が起こるかどうかは疑問である。というのも、拡散障害を起こす疾患は換気血流比不均衡分布、静脈性シャントなど他の因子も持っているからである。
静脈性シャントの存在
病的シャントの存在は低酸素血症をおこす。原因としては、左右シャントを伴うような解剖学的な異常、または、無気肺や肺水腫などでは肺毛細管の血流は肺胞気との接触を断たれる。難治性の低酸素血症の代表としてあげられる急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) もシャントが主な原因となっている。

肺炎閉塞性肺疾患などの多くの患者では換気・血流比の不均衡分布が著しくなり、AaDO2 は大きくなる。間質性肺炎肺線維症などでは換気・血流比不均衡とともに拡散障害も関与する。シャントの増大は ARDS や広範な無気肺(初期)にもみられる。特に ARDS では AaDO2 が著しく大きい。

室内では吸入酸素分圧は 150 Torr なので、PaO2 = 150 - PaCO2/0.8 - AaDO2 [Torr] が成り立つ。

厳密に計算するのなら PaO2 = ("大気圧" - 47) × FiO2 - PaCO2/0.8 - AaDO2 [Torr] である。大気圧を 760 Torr、FiO2 を 0.21 とすると上の式が出てくる。
呼吸係数(RI)および酸素化係数(P/F比)

酸素化係数 (RI) とは酸素療法中の AaDO2 を補正するものである[要出典]。一般に FiO2 が増加すると AaDO2 も増加してしまい、評価が難しくなる。RI = FiO2/PaO2 にて評価され、正常値は 0.5 未満である。酸素化係数(P/F比)とは PaO2/FiO2 という値のことであり、ARDS や急性肺障害 ALI のスコアとしてよく用いられる。ARDS では 200 以下となる。200 を超える場合(文献によっては 200 ? 300 の時)は急性肺障害 ALI という。
吸気酸素濃度の概算(FiO2)

FiO2 は人工呼吸器を使用している場合は設定できるが、それ以外の酸素療法を行っている場合は計算が難しい。以下によく用いる酸素療法での FiO2 の概算の方法を纏める。

鼻腔カニューレの場合酸素マスクの場合リザーバー付マスクの場合
100%酸素流量(l/min)FiO2(%)100%酸素流量(l/min)FiO2(%)100%酸素流量(l/min)FiO2(%)
124540660
228650770
332760880
436990
5401099
644

これらは参考値であり実際にはFiO2はさらに低値である。しかしそれを検出する方法は一般的ではない。
HCO3-

重炭酸イオン濃度である。アシドーシスとアルカローシスの解析を行うのに重要な数値である。
BE

BE とは base excess のことである。これは採取した動脈血を in vitro で PaCO2 = 40 とした時の pH を測定して計算した HCO3- 濃度から計算した値である。BE がプラスなら代謝性アルカローシス(頻回の嘔吐下痢など)、BE がマイナスなら代謝性アシドーシス(ショック、腎不全糖尿病など)が疑われるが、HCO3- 濃度から計算した値に過ぎないので病態によって解釈が異なる。
血液ガス分析の手順

ここでは非常に大まかな方法論を述べる。

まず、PaCO2 が 40 Torr より高いか低いかで肺胞低換気があるのか肺胞過換気があるのかを判断する。

次に PaO2 をみて、低酸素血症があるかどうか判断する。但し、室内気吸入ではその値はそのまま肺胞のガス交換状態を示しているが、酸素マスクなどで酸素吸入がなされていれば、それを考慮しなければならない。

AaDO2 をみて、肺胞レベルのガス交換障害があるかどうかを判断する。AaDO2 が高値であればその原因を考え治療方針を立てる。

またアシドーシスとアルカローシスの診断手順を纏める。これは混合性酸塩基異常を検出するための方法である。まずアシデミアがあるのかアルケミアがあるのかを調べる。基本的に代償機構ではアシデミアがアルケミアになるような大きな代償は起こらない。アシデミアがある時点で、呼吸性アシドーシスか代謝性アシドーシス、あるいはその両方が最初に起こったと考えてよい。アシデミアあるいはアルケミアが代謝性のものなのか、あるいは呼吸性のものなのかを考える。アニオンギャップ (AG)、AG = "ナトリウムイオン" - ("重炭酸イオン" + "クロールイオン") を計算する。AG が増加していればそれだけで代謝性アシドーシスの存在を意味する。また AG が増加していれば補正重炭酸イオンを計算する。これは ΔAG = AG - 12 として "補正重炭酸イオン" = "重炭酸イオン" + ΔAG で計算され、これは代謝性アシドーシスを来たした陰イオンの増加分がなかったと仮定した場合の重炭酸イオンの値である。代償性変化が一次性の酸塩基平衡異常に対して予測された範囲内にあるかどうかを検討する。この代償性変化が予測範囲を外れている場合は他の酸塩基平衡異常をきたす病態が存在することを意味する。代償性変化以外の混合性酸塩基異常というものは比較的ありふれた病態であり、代償性変化の予測値を用いることでそれらを検出することができ、血液ガス分析の診断能力をあげることができる。代償性変化の予測値は次のような経験則が知られている。
代謝性アシドーシスの呼吸性代償
ΔpCO2 = 1 ? 1.3 × ΔHCO3-      MAX:pCO2 = 15 mmHg
代謝性アルカローシスの呼吸性代償
ΔpCO2 = 0.6 ? 0.7 × ΔHCO3-      MAX:pCO2 = 60 mmHg
呼吸性アシドーシスの代謝性代償
急性 ΔHCO3- = 0.1 × ΔpCO2      MAX:HCO3- = 30慢性 ΔHCO3- = 0.3 ? 0.35 × ΔpCO2      MAX:HCO3- = 42
呼吸性アルカローシスの代謝性代償
急性 ΔHCO3- = 0.2 × ΔpCO2      MAX:HCO3- = 18慢性 ΔHCO3- = 0.4?0.5 × ΔpCO2      MAX:HCO3- = 12

なお、通常は Δ 計算をおこなうときは HCO3- は 24、pCO2 は 40、AG は 12 を正常値として差分をとることが多い。
呼吸状態の評価
呼吸性アシドーシス

PaCO2 の上昇する病態の存在が考えられる。これは肺胞低換気の病態に等しく、呼吸器疾患、神経筋肉疾患、循環器疾患、人工呼吸器の調節不全で起こりえる。呼吸中枢から換気の指令が十分に行われない場合、これは延髄の呼吸中枢の障害や鎮静剤の抑制効果、代謝性アルカローシスによっておこる。呼吸中枢の命令に応じられない病態としては神経障害や横隔膜をはじめとする呼吸筋の障害や呼吸筋疲労が考えられる。また、肺のレベルで呼吸を行っていても、閉塞性無気肺など上気道閉塞が起こっているときも代謝性アシドーシスとなる。肺気腫、喘息でも同様の病態が生じる。この病態で低酸素血症を伴うとU型呼吸不全となる。

呼吸不全によって生じた呼吸性アシドーシスがみられたら緊急事態である。生命維持のためには気管挿管のうえ人工呼吸器を使用する必要がある。なお、単に酸素のみ投与すると、呼吸中枢が抑制されるためむしろ呼吸停止を来す(CO2 ナルコーシスと呼ばれる)おそれがあり危険である。
呼吸性アルカローシス

PaCO2 の下降する病態の存在が考えられる。これは肺胞過換気の病態に等しく、中枢神経疾患、精神疾患、低酸素血症、薬剤、レスピレーターの調節不全で起こりえる。過換気症候群、ARDS などが代表的疾患である。低酸素血症を伴うとT型呼吸不全となる。
低酸素血症
症状

頭痛、運動機能・判断力の低下、頻脈、中心性チアノーゼ、血圧低下、血管拡張による四肢の温まりなどがある。
原因
拡散障害
拡散障害があると、血液は
肺胞毛細血管を循環する時間内に肺胞気と平衡状態にならず、肺胞気の酸素分圧よりも毛細血管血の酸素分圧が低くなる。
血流シャント
血流シャントは短絡とも言い、短絡路を通った静脈血が肺胞で酸素を受け取った動脈血に混ざるため、動脈血の酸素分圧は低下する。先天性心奇形による右→左シャント、肺動脈瘻、無気肺などでは静脈血の換気が行われずに動脈血に混合する。血流シャントが要因となる場合、酸素投与は低酸素症の改善に無効である。
換気・血流比不均等分布
換気・血流比の不均等分布があるとき、動脈の酸素分圧は理想的な肺胞気よりも低くなる。
治療

低酸素血症の治療として酸素療法、人工呼吸器、呼吸促進剤といった治療法がある。呼吸促進剤は肺胞低換気となる疾患に用いられそうだが、呼吸筋障害や呼吸筋疲労の場合は使用禁忌である。PaCO2 が上昇しているU型呼吸不全の患者に酸素投与を行うとき、換気抑制しないようにという意味で塩酸ドキサプラム(ドプラム)を 1.0 ? 2.0 (mg/kg)/hour で静注することがある。また近年は睡眠時無呼吸症候群に対して NIPPV(非侵襲的陽圧換気療法)として nasalCPAP を用いることがある。
酸塩基平衡の評価
代謝性アシドーシス

代謝性アシドーシスにはアニオンギャップが増加するものとアニオンギャップが増加しない高クロール血性代謝性アシドーシスがある。AG の増加はそれだけで代謝性アシドーシスが存在するといえる重要な所見である。気をつけなければいけないこととして AG は低下する病態が存在することである。具体的には低アルブミン血症、IgG 多発性骨髄腫ブロマイド中毒、高カルシウム血症高マグネシウム血症高カリウム血症が存在する。特に低アルブミン血症のため AG の増加がマスクされることはよくあり、アルブミンが 1 mg/dL 低下するごとに AG は 2.5 ? 3 mEq/L 低下することが知られている。これはアルブミンがアニオンであるためである。もし AG が増加していたら補正重炭酸イオンを計算する。これは ΔAG = AG - 12 とし、"補正重炭酸イオン" = "重炭酸イオン" + ΔAG で計算され、これは代謝性アシドーシスを来たした陰イオンの増加分がなかったと仮定した場合の重炭酸イオンの値である。そしてその値をもとに代償性変化が予測範囲内にあるかどうかを検討し、予測範囲外ならばどうような病態が合併したのかを考える。
AG増加性代謝性アシドーシス


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