虚偽報道
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しかし、これらの嘘ニュースを信じ込んでしまう人も多く、嘘ニュースを「真実」としてSNSなどで拡散してしまった場合、拡散したその人自身が虚偽報道を行ったことになる。英語圏で嘘ニュースの代表とされる「ジ・オニオン」(日本で言う「虚構新聞」や「バ科ニュース」のようなもの)のような、あからさまに可笑しく書かれた嘘ニュースを真に受けて「真実」として拡散する人も少なくなく、人々のメディア・リテラシーの低さが虚偽報道問題の一翼を担っているとされる[4]

英語では「fake news」と呼ばれる。「fake news」は、広義の「misinformation」(誤報)または「disinformation」(偽情報)に該当し、また「hoax」(捏造)の一種でもある。かつては、テレビ・新聞・雑誌などの報道機関による「ジャーナリズム」における虚偽報道は「journalistic hoaxes」(捏造記事)と呼ばれ、「(ネットの)嘘ニュース」のことを「fake news」と呼んだが、ソーシャルメディアで流れてきたニュースフィードの記事を見る人が多い時代においては、紙媒体の新聞や雑誌などにも載っているジャーナリストが書いた記事でもネットの嘘ニュースサイトにしか載っていない記事でも区別されずに自分のフィードに流れてくるため、特にアメリカの大統領が「報道機関」にあたるテレビ局に「fake news」とのお墨付きを与えた2017年以降は、どちらも区別せずに「fake news」と呼ばれることが多い。2016年頃より「ポスト真実」時代の重要なキーワードの一つとして、高い政治性を持つようになった言葉である。

虚偽報道を行う権利は、アメリカでは合衆国憲法の修正第1条で保証されており[5]、日本でも日本国憲法第21条に基づいて、たとえフェイクニュースであっても言論の自由が保障されている。一方で虚偽報道を行った場合、民法に基づいて懲戒処分を受けたり、刑法に基づいて裁かれることがあるが、裁かれないこともあり、一人二人が裁かれようが裁かれまいが新手の虚偽報道が次々と登場する。そのため、虚偽報道の発生自体は防ぎようがないが、虚偽報道を見抜くためには、ファクトチェックが有効とされる(Wikipedia内にも偽情報がありうるので、それを見抜くのにもファクトチェックは有効)。アメリカでは1990年代より専門のファクトチェック機関が存在し、またマスコミ各社にも専従のファクトチェック要員が存在する。ただし、機能しないこともあり、2016年アメリカ合衆国大統領選挙では、真偽不明の情報があまりに多すぎたり、ファクトチェックを行うマスコミ自身が「フェイク・ニュース」とみなされたりして、ファクトチェックが十分に機能しなかったという[6]。また、虚偽報道を見抜こうとする以前に、虚偽報道は見た時点で相手に報酬を与えるのと同じであり、さらにリツイートやシェアをした時点で自分も虚偽報道に加担したのと同じになるので、あからさまに扇情的な報道にはそもそも「興味を持たない」「見ない」ことも重要である[7]
「ポスト真実」時代の虚偽報道(フェイクニュース)

虚偽報道は、20世紀初頭には新聞・雑誌などにおいて既に問題視されており、虚偽報道しかしない報道機関が「イエロージャーナリズム」と呼ばれ、あるいは政治的な虚偽報道は「プロパガンダ」と呼ばれるなどしていたが、インターネットが発達した21世紀初頭、2000年代以降において、アフィリエイトによる金銭目的で、わざと扇情的な虚偽報道で閲覧者のクリックを誘う「クリックベイト」や、あるいは金銭目的や悪意すらなくただ単にネット上で注目を浴びたいがためだけに虚偽報道を行う者が登場し、インターネットが新たな虚偽報道の舞台として立ち上がった。SNSが発達した2010年代には、検索サイトアルゴリズムの最適化が向上しすぎた結果、「事実」かどうかにかかわらず個々人が見たい「真実」しか検索で引っかからなくなるフィルターバブル現象が発生し、「真実」と言う名のもとに虚偽報道がSNSで爆発的に広まるようになったために、「ポスト真実」の時代の問題として虚偽報道が再び脚光を浴びることになった。

アメリカでは、SNSにおけるフェイク・ニュースの応酬があったとされる2016年アメリカ合衆国大統領選挙と、「街のとあるピザ屋が、大統領候補のヒラリー・クリントンが関わる児童売春の拠点になっている疑惑がある」との報道をSNSで知った男が「真実を知る」ためにピザ屋にライフルを持って押し入った「ピザゲート事件」(2016年11月)がきっかけで、SNSにおけるフェイク・ニュースの在り方が議論になった[8](アメリカでは、「街のとあるピザ屋がヒラリーも運営に関与する児童買春の拠点である」と言う説が「事実である」と考える人と、「フェイク・ニュースである」と考える人と、これが「事実」かどうかはともかくヒラリーが逮捕されるべき存在なのは「真実」である、と考える人がいる)。さらに、ヒラリー・クリントン候補を支持したとされるCNNが、2017年1月11日のトランプ大統領の記者会見で大統領に「フェイク・ニュース」と名指しされたことで、オールドメディアも巻き込んでさらに議論が活発化した。

日本では、2016年アメリカ大統領選挙の報道に加えて、DeNAなどのネット企業が「キュレーションサイト」などの名目で、虚偽の情報を多数公開してアフィリエイト収入を上げていたことが発覚した「まとめサイト問題」(2016年12月)があったことが、「ポスト真実」の時代の虚偽報道とメディアの在り方の議論が活発化した契機である[9]

「ポスト真実」時代の確立に、TwitterFacebookで虚偽報道の拡散が大きな役割を果たした。偽情報拡散の批判を受け、Facebookは2016年12月にファクトチェック機能を実装した[10]

「事実」かどうかはともかく「真実」である、と言う事象を指す「ポスト真実」(post-truth)とよく似た概念として、「事実」と並行して存在する「もう一つの事実」と言う意味の代替的事実(英:alternative facts)という言葉がある。これは、2017年1月22日にケリーアン・コンウェイ大統領顧問が口にした言葉で、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』を惹起させる言葉だったため、「ポスト真実」時代を象徴する言葉として広まった。

メディアの報道と自分の認識が食い違った場合、メディアが虚偽報道を行っている可能性があるが、「ファクトチェック」の結果として、メディアの報道が「事実」だと判明しても、自分の認識が「もう一つの事実」だとすれば、自分の認識は「事実」と言うことになり、そうすると「事実」に反する報道を行っているメディアが逆に「虚偽報道」であるという事実が確定的に明らかになる(このように「事実」を認識しながら「もう一つの事実」を信じる思考を『1984年』の用語で「二重思考」と言う)。なお、コンウェイ大統領顧問は「代替的事実」が「事実」だと主張しているが、テレビ司会者のチャック・トッドは、「代替的事実」は「」だと主張している[11]
ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへ詳細は「反ユダヤ主義」および「ポスト真実の政治」を参照児童性的虐待の関与を疑われたワシントンD.C.のピザ店、コメット・ピンポン[12]ピザゲート事件は「ピザ店の地下が小児性愛者による児童買春の巣窟となっており、それにヒラリー・クリントン陣営が関わっている」という4chan発の荒唐無稽な陰謀論である。ピザゲートは、ポスト真実の政治を象徴する出来事とみなされており、2016年の米大統領選にも大きな影響を与えた[13]オルタナ右翼とは、共和党保守本流・支配階級に対する反発をもとに発展した、アメリカの新右翼運動。反ポリコレ的な価値観を主軸として、新反動主義[注 1]白人ナショナリズムを取り込みながら台頭した。また4chan8chanで流行した「カエルのペペ」「ゲーマーゲート集団嫌がらせ事件」「ピザゲート」「QAnon」など悪名高いインターネット・ミームもオルタナ右翼の成長に大きく貢献している。その意味では思想上の学派やリーダーのようなものはなく、日本のネット右翼と同様に「中心のない運動体」といえる。またオルタナ右翼は2016年の米大統領選挙ドナルド・トランプを支持した[15]CHANカルチャーから生まれたQAnon陰謀論者やオルタナ右翼が「民主主義の象徴」である連邦議会議事堂を襲撃・占拠している様子(2021年1月6日)[16]

アメリカではカウンターカルチャーの流れで、ニューエイジスピリチュアリティが隆盛した。その題材は、ヨーガ、瞑想、占星術や血液型占いなどの占い、心霊写真、超常現象、チャクラ、オーラ、水晶、前世、スピリチュアル・ヒーリング、サイキック超能力の開発、天使と妖精、象徴表現、民間伝承、古代密儀宗教、世界の宗教の聖典の秘教的な解釈などである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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